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韓国IT事情

インターネット上のコンテンツは,社会・文化・生活形態とその時代の流行に左右されやすく,PC向けのOSやCPUのように世界的なデファクトスタンダードは存在しない。日本では携帯電話がインターネット利用者の底上げに貢献しているが,IT先進国の韓国ではPCバンと呼ばれるインターネットカフェが若者にネットの楽しみ方を教え,普及の起爆剤となった。コンテンツとしては自分の化身であるアバターを介したオンラインゲームやチャットが大人気で,アバターサービスは多様化するとともに,その市場も急拡大している。

清水メディア戦略研究所の清水計宏氏による韓国のIT事情の視察訪問の講演から,その一部を紹介する。

韓国のIT興隆の起爆剤はPCバン

2001年末の韓国のインターネット普及率は56.6%で,その大半がブロードバンドユーザで世界トップクラスのブロードバンド先進国となっている。利用料金は,2万〜3万ウォン(約2000〜3000円)と,OECD加盟国の中では最も安い水準にある。
ソウルの新興地区でありIT企業がひしめく江南地区で,アジア最大のショッピングモール「COEX MALL」を訪れれば,各所に有料と無料の公衆インターネット端末が設置されている。無料の端末は約10秒間だけ広告を見れば,無料でインターネットに接続できるようになっている。
COEX MALLの一角には,韓国最大のPCバン「KT MEGAWAVE」があり,未来志向のインテリアデザインの空間に,PC約200台とともに,音楽CD録音室,対戦ゲーム中継ステージ,ドラムルームまでもが設置されている。ここでは,デジタルカメラを使って自分のオリジナルキャラクターを作成し,それをバッジやクッションにプリントして記念品を作るサービスも提供している。

PCバンの魅力はオンラインゲームなので,PCはゲームプレーに最適化されている。またLineageのようなゲームはPCバンがその開発・提供会社のNC Softにサービス料を支払う形態になっている。そのためゲームプレーができるPCが特定されていたりする。こうした有料のオンラインゲームの利用に関わらず,PCバンの使用料は一般的に定額制になっている。
各PCには監視ソフトがインストールされており,カウンターで受け取ったIDとパスワードを入れると利用できるようになる。一般のPCバンの使用料は1時間1000〜1500ウォンだが,ここは設備が充実しており1時間2000ウォンと少し高めだ。制限時間内はどのPCに移っても利用でき,タイムオーバー5分前に警告画面が出るようになっている。

「ビジュアルID」としてのアバター

ITバブル崩壊で下降ぎみになると心配されたインターネット市場を再興させているのがアバター関連ビジネスだ。韓国最大のコミュニティポータル「SayClub」を運営するネオウィズは,この市場に2000年末に火を付けた。
2001年にはアバター関連だけで130億ウォンを稼ぎ出し,2002年に入ってからも月間12億〜13億ウォンを売り上げており,新規参入も相次ぎ,アバターとそのアイテムや関連サービスはネットビジネスの定番になっている。
コンテンツビジネスは,いったんヒットすれば級数的に利益が拡大する。そのなかでも,キャラクター関連は多メディア展開することができ,人件費も生活費も掛からないため,いくつか人気キャラクターを抱えればちょっとした芸能プロダクションをもしのぐ売り上げを確保できる。こうしたキャラクターは,今では「アバター」という形でオンラインゲーム,チャットには欠かせない要素になっている。

2000年に初めてアバターが登場した時は,「オンライン人形」に服の着せ替えをする程度のものだった。だが今ではオンラインアイテムと結合させたり,移動性を付与させたり,表情をつけたり,整形手術をするといったふうに進化している。
最初,IDが数字だけだったころ,ハングルで'Angeles'の発音と似ている『1004』のID番号を追い求めていたユーザがいた。そうした人たちが目立とうとして,ビジュアルIDのアバターに興味をもつようになり,こだわるようになり,アバターが一般化していった。アバターはネット上のIDに代わるものとして派生し,今でも1つのIDで1つのアバターしかもてないため,アバターは文字どおり本人認証になっている。アバターの属性として表示される出身地などは韓国で導入されている住民登録番号と連動しており,しっかりした実在性がある。

オンラインユーザの実体性を視覚的に表現する手段としてアバターは始まり,今ではチャットだけでなく電子メールやゲームなど,インターネット活動の本人を代行する主役になった観がある。もともとアバターは,英語の「avatar」で,語源はサンスクリット語で,「ヒンドゥー神話でこの世に現れた神の化身」を意味している。インターネットやオンラインゲーム(ネットワークゲーム)においては,「自分の分身となるキャラクター」のことを指す。いまや,携帯電話向けの待ち受け画面用のキャラクター販売も盛んで,「アバターショップ」なるものもできている。

課金体制

韓国において,IT普及の起爆剤になったのはPCバンだったが,コンテンツビジネスにおいては韓国特有の課金体制も促進材料になった。韓国においては,オンラインゲームやコミュニティサイトにおけるアバター関連製品の販売や一般的なECに,住民番号登録制をベースとした固定電話や携帯電話の料金へ課金でき,これが全体の課金の6〜7割を占めている。

電話料金の課金は韓国通信(KT)がほぼ独占しているが,その川下に課金業務を代行してくる中間業者が何社もある。KTの課金手数料は10%,これはほぼ日本の状況と同じだか,さらに中間業者が8%余りを払う。ただし,電話料以外の課金は1カ月に3万〜4万ウォン以内に限られているのが普通だ。そのため,高額のEC支払いはクレジットカードの支払い,銀行振り込みなどによっている。課金限度額を設けているのは,防犯・セキュリティとユーザの過剰な支払いを防止する狙いがある。

ブロードバンド普及と歩調を合わせて成長

韓国では,ブロードバンド・インターネットが普及し始めた時に,ゲーム業界もちょうど成長段階に入った。ゲーム産業とその市場は,政府によるコンソールゲーム機の輸入禁止措置(2002年11時に解禁)もあり,日本のようにパッケージ向けゲームからではなく,オンラインゲームから伸び始めた経緯がある。
その代表格のNHN Corp.の売り上げは,ゲームと検索・コミュニティサービスで90億7000万ウォンを稼ぎ出し,これが総売上高の7割を占めている。
ゲーム部門であるHangameのサービスの特徴は,ボードゲームなどカジュアルな小粒なゲームソフトが多い。ゲームソフトは,パズルゲーム,ボードゲーム,カードゲーム,アクションゲーム,スポーツが中心になっている。また,携帯電話・PDA向けゲームも提供している。

ボードゲームのようなカジュアルゲームをするだけならブロードバンド環境は要らない。しかしリアルタイム3DによるRPGをするには,700MB程度の最低限のモジュールをダウンロードしなければならない。これはADSLなどのブロードバンド環境でないとプレーするのは難しい。(通信&メディア研究会)

出典:社団法人 日本印刷技術協会 機関誌 JAGAT info 2002年11月号

2002/11/16 00:00:00


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