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3Dを身近にする「Casual 3D」を推進

データ容量が大きくて使いにくかった3DデータをWeb上で表現する技術開発やサービスが注目されている。3DはCAD/CAMに代表されるように設計・製造に携わる専門の人が扱うもので,一般のユーザが使用するようなものではなかった。
今回は,3Dデータを誰でもどこでも手軽に使えるようにする「Casual 3D」を推進するラティス・テクノロジーの代表取締役鳥谷浩志氏に同社のソリューションを伺った。

3Dデータをもっと身近に使えるものに
ラティス・テクノロジーは,ネット上でのグラフィックスソリューションを提供するために1997年10月に設立されたソフトウエアベンチャー企業である。事業内容は,独自の軽量化技術を使った「XVL」技術の研究開発と標準化推進,CADやCGなどの3DデータをXVLに変換し,これを編集してネット配信可能にするXVL製品群の開発提供である。
CADやCGなどの3Dデータは容量が非常に大きいため,ネットでの伝送には向いていなかった。同社の開発した「XVL(eXtensible Virtual world description Language)」は,現会長の千代倉弘明慶応義塾大学教授の考案した数学モデルに基づいて開発された。単純な形状から滑らかな曲面を表現するラティス構造を利用した独自の技術をベースにしている。曲面データを単純化して扱うため,データはとても小さくなる。従来のデータの1/100〜1/300にまで圧縮し,超軽量化することが可能になった。インターネット環境において3次元データの利用が可能になる新しいフォーマットといえる。
開発の背景には,3Dデータをもっと身近に使える同社の「Casual 3D」の構想がある。3Dデータは,製造業などの設計にCADを使用したりその有効的な活用がされてきた。しかし,設計部門のみでの限定された活用にとどまるケースが多かった。せっかくの3Dデータが,他の組織で再利用するようなことなく蓄積されたままであった。
それにはさまざまな要因がある。まず設計におけるCAD利用の場合,高度な専門知識が必要であることが挙げられる。CADシステムは高価で操作性が難しいため一般のPCユーザでは容易に扱えない。またCADは企業や部門などの特性ごとにフォーマットが違っている。ネットワークで扱うには大きすぎるという容量の問題もある。情報の共有化が効果的であることが分かっていても3Dデータ利用が広まらない原因ともなっている。
3Dデータを設計以外のさまざまなシーンで利用する場合に,今まではCGソフトなどで新たに作成することが主流であった。せっかくCADを利用して3Dデータを作成しているにもかかわらず,二重の手間が発生する。
その解決のためには,超軽量でCADの種類に依存しない汎用性に富んだフォーマットが必要になる。そこで同社が開発したのがXVLであり,既に大手自動車メーカーや電機メーカーなどに採用されており,多くのソフトウエアベンダーから関連製品がリリースされている。設計部門以外にも生産,販売サービス,営業,マーケティングなど幅広い部門で活用されている。閲覧に関しては,同社がWeb上で無償配布している「XVL Player」を利用できる。

製造業のドキュメント作りが大きく変わる
XVLの特長として,(1)XMLベース,(2)軽量,(3)Web3D encoding,(4)汎用性,(5)精密性に優れる,というの5つの特長がある。
このような特長をもつXVLを媒介して,文字情報や平面的な2Dの図面・画像だけでは伝えにくかった形状の情報を伝えることが容易にできる。カタログやマニュアルの中で3Dを利用して,情報を提供すれば,平面では伝わらない奥行きや製品の特徴を効率的に伝えることが可能になる。
またアニメーションの定義により,組み立てなどの工程を分かりやすく表現できる。組み立てマニュアルの例では,メニュー全体がXMLベースになっている。そのため「ディスクの挿入」とか「プレッシャープレート取り付け」というタイトルの部分をクリックすると3次元のアニメーションがインタラクティブに動く。3Dならではの拡大,回転ができ,また部品表と簡単にリンクできるので,3次元のアニメーションをどんどん共有していくことができる。
製品設計で,3次元CADを使い,3Dデータを製品マニュアル,部品カタログ,作業指示書などの文書に使用することができる。また製品を3次元化して試作レスにするケースも増えている。
例えば,自動車の生産日数は昔に比べてどんどん短くなって,実物を作っている時間的かつ予算的な余裕がない。そこで試作レスがキーワードになり,CAD/CAMで代用する。実物を見ながらスケッチしたり,デジタルカメラで実物を撮ってトレースする代わりに,これからはCADデータから直接作ることになるだろう。ドキュメントの世界では,生成のプロセスが変わり,トレースの技術がほぼ全自動でまかなえてしまう。
またXVLに変換された3Dデータは,ホームページ利用にとどまらず,DTPでも有効活用できる。
エリジオンが開発している3D-Tigerは,llustratorのプラグインで,CADデータを簡単にXVLにしてDTPにもっていくことができる。CADデータがXVLに変換してあれば,欲しい部分をすぐに取り込める。3次元だから,横からでも後ろからでも好きな角度や方向で取り込める。これまで手で描いていたプロセスが不要になる。出力データはIllustratorのベクトルデータになるため,Illustratorの中で再加工編集できる。
上流の設計データをCADからすぐXVLに変換して,ドキュメント作成し,Web配信とDTPにもっていくという流れができる。現に製造業ではドキュメント作りそのものを変えていくことが,起ころうとしているという。

3Dはアイデア次第で可能性が広がる
3Dはアイデア次第でいくらでもいろいろなソリューションが使える。これからは飛躍的に3次元データが増えてくるだろう,と鳥谷氏は言う。製造業だけでなく,家電,建築,医療,デザインとその用途は広がってくるだろう。
同社のホームページのデモ/ギャラリーのページには,エンジニアリング向けからエンターテイメント向けのデモまで用意されている(http://www.xvl3d.com/ja/demo/)。例えば,e-Commerce向けデモでは,商品をあらゆる方向から手に取るように眺めたり,操作シミュレーションを行うことができる。また,エンターテイメント向けのダイエットポータルサイトの3D Dietでは,身長と体重と肥満タイプを入力すると,体型が3Dモデル表示される。
IT関連でCAD/CAMは7%しか使われていないというデータがある。ということは残りの93%もの人々にとってCADデータは知ってはいるけど触ったことのないデータということになる。裏返せば93%の人々が今後CAD/CAMデータを容易に扱えるようになる可能性があるということだ。
「日本発の世界標準を目指したい」というXVL技術だが,インターネットで使う3次元画像規格をまとめる国際規格団体のW3CワーキンググループのW3Dコンソーシアムに提案し,現実のものになりつつあるという。(上野 寿)

JAGAT info 2002年11月号より

2002/11/17 00:00:00


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