本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

CIMが課題となる背景

この10年間、プリプレスにおける工程短縮、印刷・後加工工程における準備時間の短縮や省人化は印刷物生産のスピードアップ、生産性向上に大きく貢献した。しかし、この技術進歩による恩恵は、それを上回る短納期・小ロット化あるいは価格低下によって印刷業界に利益向上や労働環境改善をもたらすことにはならず、かつてのような需要の伸びがなくなる中でかえって供給力過剰による過当競争を生み出した。

2年ほど前に4台のオフ輪を持っていた工場がそのうちの1台を新台に置き換えた。この新台の生産性は古い機械に比べて6割ほど高いものであった。したがって、新台への入れ替えによって、この工場の生産能力は全体として15%上がった。
しかし、市場全体の仕事量が15%も増えるわけはないから、利益を出すためには新規拡大をしなければならない。このような状況はどの印刷会社でも共通に見られることであるが、だからといって新台への切替をしないわけにも行かない。

今後の日本経済や印刷需要の見通し、そして現在の供給力過剰の状況から考えて、低価格や短納期要求、小ロット化はさらに続くものと覚悟しておかなければならない。しかしながら、各設備単体の機能、性能がかなりの完成度に達した現在、新たな設備の導入だけでは対応できなくなりつつある。
今後印刷業が目指すシステム化の視点は、各工程にまたがるコントロールをうまく行い,印刷物制作・製造全体を見渡してのボトルネックの排除,生産に関する情報伝達の効率化などに向けられなければならない。これからの競争力は設備自体ではなく、ビジネスの全体最適化を図る中で、格段の生産スピードアップ、コストダウンを図れるか否かによって決まる。

工務担当部門や営業部門のようなホワイトカラーの生産性は年々低下してきている。生産現場では人員削減がかなり進んでいるが、ホワイトカラーの人員構成比はこの10年で37%から42%へと5ポイントも上昇している。生産システムの進歩に比べて、ホワイトカラーの生産性に寄与すべき印刷業界の管理情報システムはこの10年ほとんど変わっていないと見えるほど進歩が見られない。

印刷物生産をコントロールする工程管理の機能は、担当者のひたすらな頑張りによってなんとか支えられているが、そろそろ限界に近いのではないだろうか。
営業部門では、企画提案をしなければならない、新規開拓もしなければならないと言われている。しかし、受注した仕事についてまわるさまざまな付帯業務に追われて、顧客のところにいる時間自体が2割程度しかなく、使い走りの部分を除けば本来の営業活動(企画提案や新規拡大等)に割いている時間はほとんどないというのが実態である。
情報伝達のスピードアップと効率化を図りながらホワイトカラーの生産性向上を実現することこそSCMが目指すことである。また、そのことが顧客満足を向上させ競争力の強化にもなる。

上記のような今後の印刷業界がチャレンジすべき課題に対するひとつの回答がCIM(Computer Integrated Manufacturing)である。
プリプレスのフルデジタル化がCTPの普及で完了し、プリプレスで生成されたデータで印刷機、後加工機をコントロールする生産システム間の連携に目途がついた現在、MIS(Management Information System)と生産設備間の情報交換を可能にするJDFが実装される段階にきて、印刷物生産のCIM化が完全に視野に入ってきた。

来る12月12日に開催するトピック技術セミナーは印刷業界のこれからの目標となるCIM化を一つのテーマとして、それが必要とされる時代背景、ビジョン、各ベンダーの構想からなる内容で構成し、印刷業の経営管理層の方々にCIMの全体像を把握していただく機会として開催する。

関連記事】 印刷作業をとりまくデジタルストリーム(特別講演予稿付)
サーマルCTPプレートは無処理と超ロングランに向かう?

トピック技術セミナーの案内】 第29回JAGATトピック技術セミナー

2002/11/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会