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拡張色空間の最新動向 sRGBシリーズの改定状況

コンピュータディスプレイ用の標準色空間として1999年に制定されたsRGBは,デジタルカメラやプリンタでの利用も進み,広く一般的な存在になってきている。利用範囲が広がるにつれ,sRGBの色域を拡大しようとする,いわゆる拡張色空間の提案がいくつも出てきている。
sRGB制定から3年目の今年(2002年)は,sRGBの改定時期でもあり,キヤノン株式会社国際標準企画センター主幹研究員の会津昌夫氏より,sRGBシリーズの改定状況の最新動向を伺った。

sRGBの課題

sRGBの色域はカラーのCRTディスプレイ特性に準じているので,例えばデジタルカメラやカラープリンタなどほかのカラー画像機器において可能な色を再現することが難しかった。
sRGBはディスプレイ(パソコン)を中心に置いたRGBカラーの標準化であるが,最近ではデジタルカメラとカラープリンタをダイレクトに接続して利用するケースも増えてきており,ディスプレイ以外の画像機器の色域をカバーするようなカラースペースが求められてきている。
こうして拡張色空間が審議されているのであるが,拡張方法には色域(gamut)の拡大と階調数の拡大の2つがある。sRGBは8ビットで規定されているが,8ビットのまま色域を拡大すると1単位当たりで表現できる階調が粗くなり,量子化誤差が増加したりトーンジャンプが発生する恐れがある。

sRGB関連の審議団体

sRGBは,国際的にはIEC(国際電気標準会議;International Electrotechnical Commission)のTC100 TA2において審議されている。色空間に関係する業界はディスプレイ,印刷あるいは写真など多岐にわたる。拡張色空間の標準化を巡っては,関係する標準化団体と自社製品に有利な標準を設定しようとする企業の思惑とが絡み合って混乱した時期もあったが,今は住み分けが明確化してきた。 図1にデジタルイメージングに関連する標準化団体の相関を示す。日本国内ではJBMIA(ビジネス機械・情報システム産業協会)とJEITA(電子情報技術産業協会)が連携しながらsRGB等の審議をしている。

                   【図1 標準化団体の相互関係】

sRGBの改定内容

2002年の改定では,sRGBそのものの改定は係数の若干の修正などのマイナーチェンジにとどまったが,sRGBを超える色域をもつ拡張色空間がいくつか追加される見込みである。
拡張色空間には,bg-sRGB,scRGBと,これらとセットになる輝度色差分離RGB系色空間(sYCC,bg-sYCC,scYCC)が追加されている。

sYCCとは

YCCとは,RGBから3×3マトリックスで変換して得られる輝度と2つの色差信号で構成される色空間で,JFIF(JPEG)やExifなどのベースとなっていて画像圧縮用に幅広く利用されている。しかし,YCCは元のRGBの色空間に規定がなく,色再現に混乱を来していた。sYCCはsRGBをベースとすることで,色空間を一意に決めている。
sYCCは,sRGBからITU-R BT.601(ハイビジョン用に定義されたRGBからYCCへの変換マトリックスの国際規格)を使って輝度色差分離空間を導いたもので,色空間としてはsYCCのほうが色域が広く,sRGBの外側の色も表現することができる。ディスプレイの色域の実態を反映したsRGBではあるが,プリンタなどの出力側のデバイスをカバーする広い色空間が望まれていたのにも対応することができる。ただし,sRGBと同じく各8ビットであるので,色空間上のメッシュが粗くなり,その分量子化誤差が増すことが分かっているが,画質への影響は軽微であろう。
特徴をまとめると以下の3点となる。

  ・sRGBと同様Colorimetricな色空間
  ・sRGB画像をデータ圧縮するための色空間
  ・sRGBより広い色空間をカバーして色再現に有利

sRGBを直接拡張する色空間

これに対して,sRGBを直接拡張する色空間が2つ用意された。bg-sRGBとscRGBである。

(1)bg-sRGB
bg-sRGBは,プリンタなど出力デバイスのsRGBの範囲(RGB各0.0〜1.0)を拡張して,RGB各−0.75〜1.25の範囲を許し,γ=2.2のカーブも負まで拡張したものである。これによって,実在する色(つまり感じることのできる色)をすべてカバーする。また,8ビットは存在せず,各色10,12,16ビットの3種である。
特徴をまとめると以下の3点となる。

  ・白色点,原色色度,観察環境などはsRGBと同じ
  ・RGB各−0.75〜1.25までの範囲を許容
  ・RGB各10ビットがデフォルトであるがNビット表現もある。

(2)scRGB
scRGBは,さらに広い色域をカバーする。白色点,原色色度,観察環境などはsRGBと同じであるが,RGB各−0.5〜7.5までの範囲を許容し,RGB各16ビット(オプションで12ビットもある)で表現する。
scRGBは,マイクロソフトが次期OSのLonghornでOSとしてサポートする旨,2002年のWinHECで宣言しており,コンシューマー向けがsRGB,ニッチ・マーケット・プロフェッショナル向けがICC,そして,プロシューマー向けに,「フィルムネガのダイナミックレンジをカバーする」scRGBが対応するとしている。

利用状況

sYCCは,デジタルカメラのファイル・フォーマットであるExif2.2,次世代静止画圧縮標準であるJPEG2000,およびカラーファクシミリの標準色空間(CIELAB)にsYCCを追加する作業などで普及が進んでいる。scRGBは,上述のようにマイクロソフトがサポートを表明している。
ExifはDCFと併せてデジタルカメラのファイルフォーマットと格納方法を記述した標準であり,ExifはJEITA,DCFはISOの規格である。デジタルカメラの色空間の規定は,DCFの規格にsRGBと明記されている。今回,Exifがバージョン2.2になる時にその規格書にIECのsYCCの規格を参照する旨が初めて記述された。2.2の主眼が撮影条件の記述にあるので,sRGBより広い色域をカバーできるというsYCCの利点を生かした色作りは将来の課題と思われる。

テキスト&グラフィックス研究会

2002/11/26 00:00:00


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