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コミュニケーションツールとしてのDTP

◆マニール トノイケ ミキ

 ショップのセールスプロモーションという観点から大きく捉えると,実にさまざまな活動がある。ショップの平面計画からディスプレイ,印刷物,ホームページの作成,イベントの企画や新商品の開発などなど。どこからどこまでが販売促進活動で,どこからどこまでが店の経営,運営の活動なのか線引きすることもできず,一連の動きで複雑に絡み合ってリンクし,一つの店や企業が動いていく。
 今,私は「カナリヤ」という小さなお店を経営しながら,デザインや企画の仕事を請けている。それまで就いていた仕事は,ディスプレイの仕事だった。会社員だった私は,上に指示されるままデザイナーからデコレーター,そして営業と社内で転々と職業を変えていった。浅く広い知識は身に着いたが,一つ欠けていたのは,コンピュータでのワークができないこと。この仕事は立体の仕事ではあるが,必ず平面との連動を図り,印刷物から内装業務までの幅広い知識が必要となる。しかし社内にコンピュータが普及するまでに,現場でのワークに転身していたので,その面だけが取り残されてしまった。

 プライベートでは「CAOS」というミニコミ誌を作っていた。「人が生きていくために一番大切なことは,コミュニケーション」だと思っている私が,10年ほど前から作り続けていた冊子。Macを使って作ってはいたが,ワープロのお姉さん程度にしか扱えず,公私ともに行き詰まりを感じていた。
 「店を経営するには何でも自分でやらなければいけない」。以前から独立を考えていた私は,昨年の退社をきっかけにビジネススクールに通い始める。DTPエキスパートを取って,デジタルに弱い自分を克服しようと必死で勉強した。
 いざ試験勉強に入ると,思っていた以上に大変。その上試験がお店の準備と重なってしまう。それでも悔いの残ることはしないでおこうと,最後の一週間はとにかく朝から晩まで机に向かった。その甲斐あってか一発合格。

 ホっとしたのもつかの間。今度は実践。ロゴの作成から始まり,写真撮影,地図のデータ作り。店のオープン前に駆け込みで,初めて自分で作ったハガキの版下を印刷所へ入稿した。しかし,できたものは自分の頭の中の色より明るい色目。使用する紙質を直前で変えたことにより,上がりが随分軽くなってしまったのだ。エキスパートを取ったには取ったが,ただやはり実務をやらないことには分からないことは多い。
 以来,趣味であったミニコミ作りをやめて,たくさんの手に取っていただくためのフライヤー作りにハマっている。まずお店へ来てほしい客層の店をピックアップ。フライヤーを設置した後,同時期に置いたモノと比較して一週間でどのくらい減るかを確認。何色でどんなフライヤーが人気なのかをリサーチして次へ生かす。そしてフライヤーを取った人が実際に足を運んでくれるのは何人かなど,詳細に分かった上でデザインをする。自分の店で効果を試すので,お客様に自信をもって企画や提案ができる。

 時々,販売促進って一体何だろうと,考える。ビジネスなので,最終的には売り上げを上げるのが目的なのだが,売り上げが上がるって,じゃあ,何? 私は「出会い」だと答える。そのコトやモノを欲しているお客様に,いかに「出会う」か。同じ次元に立って購入して下さるお客様と出会うためには,メッセージを送らなければならない。そのメッセージを伝えるためのツールとして,DTPがあるのではないだろうか。私にとっては,大切なコミュニケーションツールとしてDTPがある。
運営していくといろいろな問題がぶつかってくる。一つ解決してもまた問題が浮上し,キリがない。そんな問題を一つひとつ解決 しながら,「ああ,コレコレ!こんなお店を探していたんです!」「こんな企画を待っていたんです!」という声が聞きたくて,日々アンテナを張り巡らせている。お客様もうれしい。私もうれしい。そんな良い関係を作っていくために,これからもさまざまな勉強をして視野を広げていきたいと思う。
 

月刊プリンターズサークル連載 「DTPエキスパート仕事の現場」12月号


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2002/12/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会