ここ1,2年、フレキソ印刷が再び注目を集めている。一つの要因は、フレキソ印刷用CTPが実用化され印刷物品質が向上したことである。もう一つの要因は環境問題対応である。フレキソ印刷は、日本でも普及すると言われながら現在の普及率は非常に低い。最大の要因は品質で、日本の顧客の目から見るとフレキソ印刷は受け入れがたいものであった。しかし、CTPの実用化で品質もかなりの水準になってきて、カラー印刷のある種の分野であれば、平版と競争できる水準にあると見る技術者もいる。
埼玉県生活環境保全条例に見られるように、環境問題対応はグラビア印刷や表面加工業者の死活問題になるほどの大きな課題になってきた。一つの課題は脱VOC(揮発性有機溶剤)だが、紙以外の印刷において脱VOCの道筋が見えないグラビア印刷に対して、UVインキや水性インキという手段を持つフレキソ印刷が注目されるのは当然である。
段ボール、軟包装、紙器印刷それぞれにおけるインキ種別の印刷物出荷額シェアを見ると、段ボール印刷では100%水性フレキソ印刷になっており、紙器印刷においても水性インキのシェアは47%で最も高くなっている。また、軟包装印刷においても、溶剤タイプの印刷物シェア43%に対して水性インキは55%で、溶剤インキを上回るシェアになっている。上記の段ボール、軟包装、紙器印刷における水性フレキソ印刷の出荷額合計は87億ドルである。
ただし、安定した品質を得るためには、温度、湿度の管理が重要になる。フレキソ印刷において、インキはインキツボから版に転移されその後被印刷体に転移されるが、インキツボから被印刷体に転移されるまでのインキレールの長さはグラビア印刷の7倍と長い。また、インキの転移量が少ないので、インキの顔料濃度はグラビア印刷に比べて1.5倍から2.0倍高くしなければならない。
したがって、インキが被印刷体に至るまでに乾燥してしまわないように、インキング回りの温度、湿度コントロールが重要な管理要件になる。さまざまな実験の結果によって、温度は23℃±3℃、湿度は55%±5%が推奨されている。溶剤を含まない水性インキの乾燥にはより多くのエネルギーが必要で、ドライヤーの容量は、溶剤タイプのインキの2倍が必要という。
以上のような諸点を考慮して推奨される印刷システムは、コロナ処理→AC剤の塗布あるいは白インキの下刷り→乾燥→印刷(+各ユニットでの印刷後の乾燥)→OPニス印刷または白インキ印刷→メイン乾燥をインラインで行うというものである。
水性インキ印刷を行う場合、印刷機についても特有の条件が要求される。インキ中に含まれる水分量が多いことによるインキング機構、乾燥ユニットの腐食防止あるいはインキが一度乾燥して固まった後では、溶かすことも拭き取ることも困難であるということのために、インキ循環システム内の金属をステンレスにするといったことが要求される。 水性インキによるフィルム印刷の弱点としては、ベタ部にモットリングが起きやすい、溶剤インキ、電子線硬化型インキに比べて使用できる範囲が限定される、高い品質要求の仕事での競争力はない、といったことがある。
結論として、水性インキは紙器印刷や段ボール印刷においては支配的なシェアを得ることができるが、フィルム印刷分野においては、UVインキのような電子線乾燥方式が溶剤タイプのインキに置き換わって主力の印刷方式になっていくと見られている。
(出典:「JAGAT info 2002年12月号」)
2002/12/15 00:00:00