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サーマルCTPプレートは無処理と超ロングランに向かう?

近未来のサーマルCTPプレートの用途が次第に明確になってきた。
その姿は現像工程を「無処理」または「簡易処理」にして,DI印刷機によるオンプレスCTPと自現無しのCTPレコーダーで使われていく方向だ。
一方,現像処理が必要な現在のサーマルプレートはポストベイキングを行なって,超ロングラン(数十万〜数百万通し)用途に使うという流れである。今,主流の現像処理型サーマル版は,大手出版印刷用のニッチ市場向けになるのか知れない。
サーマルCTPプレートのスタートアップは,R.R.ダネリーなどアメリカの大手印刷会社の超大ロットオフ輪用途であった。しかし,無処理タイプは従来タイプに対して2倍以上のエネルギーを必要とし(感度が半分以下),レコーダーのレーザーパワーコストも高くなろう。

アブレーション方式

実用版としての最初のサーマルプレートは,アルミベースのPressTek製PEARLdry(パールドライ)で,簡易処理の水無し版であった。PRINT`91で発表されたハイデルGTO-DI(A3判)に採用されたのである。
正確に言えば初期のPressTekイメージングヘッドは放電を利用して画線にしたい部分の不感脂性シリコンゴム層を,下層の金属膜を焼き飛ばすことで一緒に取り除き,ここにインキを付けて印刷した(後にIR(赤外)光源に変更)。 これがネガ型の「アブレーション」方式だ。
課題はアブレート(焼き飛ばし)によって生じたゴミ(デブリ)の処理である。実作業では印刷機上でイメージングした後に,丁寧に版上に飛び散ったデブリを拭き取る作業が必要になっている。

この課題解決のひとつとして,drupa2000ではポジ型のアブレーション方式において,非画線部をいきなり焼き飛ばすのではなく「IR熱で膜強度を緩めておいて,印刷機の湿しローラとインキローラで残膜を除去する」というアイデアが実行されている。
印刷オペレータにとってはインキカスの混入事故を連想してチョット気持ち悪いが,「湿し水に入り込んだ残膜は,湿し水循環装置のフィルタで濾されるから大丈夫」だという。例えば,PressTekのAnthemプレートでは,湿し水で緩んだ残膜がインキローラーに付着して刷出しの損紙,数枚に取られるようになっている。
これが新しいタイプの簡易処理と言われるアブレーション方式で,Anthemはポジ型(IR加熱部の表層が焼き飛び,親水層が出て非画線部になる)であるが,プレートによっては違う方式によりネガ型のものもある。 またアブレーション方式のイメージングには感度が通常のサーマルCTPプレートの半分程度のため高出力レーザーが必要である。

相変換方式

原理的にデブリが発生しない方式で,プレートに相変換型(スイッチャブル)ポリマーを用いる。プレート感度はサーマルCTPより2〜3割低い程度である。旭化成や三井化学が技術開発しているが,版全体に特殊な親水性ポリマーが塗布してあって,IRイメージングにより照射加熱されたところが親油性に変換するので,砂目は出ないがデブリも出ない。
相変換に属する最も新しい方式に,「スイッチャブル・コーティング」と言われるAGFAのThermolite(サーモライト)技術がある。印刷機でプレート上の不要な残膜を剥がす点は同じであり,ネガ型である。原理は,プレート上のポリマーをIR露光で硬化させ画線部にする。非画線部にしたい部分は露光しない。ここは印刷機の湿し水でポリマー膜を緩められ,さらにインキローラで残膜が取り除かれて損紙に転移され,砂目が出る。さらにこのポリマーを液状にしてスプレー方式で金属シリンダ上に塗布し,生版を機上作成してからサーマルイメージングして刷版を作る同社のLiteSpeed技術と対応するCreoのSPプロセスが開発されている。

無処理型サーマルCTPプレートの分類
版のタイプ デブリ処理 代表例(開発中のものも含む) 耐刷性
アブレーション 湿し水版 簡易処理
(簡易水洗や湿し水による残膜処理,またはバキュームクリーナ付きレコーダ必要なものもある)
Mistral(ミストラル) AGFA 500,000
ExThermoプリンティングプレート コダックポリクロームグラフィックス 50,000
Anthem(アンセム) PressTek 100,000
PEARLgold/wet PressTek
無処理デジタル 富士フイルム
水無し版 デブリ処理必要
ウオーターレス コダックポリクロームグラフィックス 200,000
PEARLdry(アルミ) PressTek 100,000
(参考) (デブリ処理不要)
石油/水現像(自現)
水なしCTP版 RG 東レ 100,000
相変換
(スイッチャブル・コーティング)
湿し水版 (デブリ処理不要) Thermolite(サーモライト) AGFA 25,000
LiteSpeed(液状) AGFA -
相変換
(スイッチャブル・ポリマ)
無処理 旭化成 50,000
グリーンプレート 日本フォトケミカル/三井化学 校正版

アブレーション型プレート

事例としてPresstek社のREARLwetの層構成を紹介する。支持体/親油性フィルム/金属薄膜層/親水性ポリマー層からなる。アブレーションにより親水性層が除去されるとインキ受容性の親油性層が露出して,湿し水使用タイプの刷版となる。デブリのバキューム吸引装置の付いた専用のプレートセッタやDI印刷機と組み合わせて使用される。

AGFAのMistral(ミストラル)は,以前に買収したDuPont/HowsonのSilverlith SDT(表層がDRT-Ag(銀)層で,非画線部にするところをアブレート)をベースに改良された。

また,水無しCTP版としてPEARLdryの層構成を紹介する。支持体/金属薄膜層/シリコーン層で,赤外線レーザー照射により金属薄膜層がアブレーションされ,次いでシリコーン層をこすり取って水なし平版とする。

相変換型プレート

特殊な親水性ポリマーに赤外線レーザーを照射すると,照射部が選択的に親油性に変換する。このようなポリマーは相変換型ポリマーまたはスイッチャブルポリマーと呼ばれている。IRレーザーで描画すると親油性部分と親水性部分からなる画像ができ,そのまま印刷にかけられる無処理刷版となる。旭化成や日本フォトケミカル/三井化学の無処理プレートがこれにあたる。

SP(TM) plateless DOP technology (Creo)

ポリマーを液状にしてスプレー方式で金属シリンダ上に塗布し,生版を機上作成してからサーマルイメージングして刷版を作るAGFAのLiteSpeed技術と、それに対応するCreoのSPプレートレスDOP技術が開発されている。下の写真はdrupa2000における説明パネルであるが、ヘッド部から左のシリンダに向かっている円錐形がスプレーを吹いている。わかりにくいがそのすぐ下には小さな赤いレーザービームが当っている。

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まとめ

無処理プレートの課題は,アブレーション方式は低感度であることと,デブリ処理である。相変換タイプはデブリが出ないが,砂目も出さないので印刷適性に多少の差がある。しかしDI印刷機や校正刷機との相性は良い。CTP技術は,まだまだ変化していく。
12月12日に開催する第29回JAGATトピック技術セミナー(満員御礼! 申込受付は締め切らせていただきました。)では,CTPプレートの技術動向や用途などについて「CTPプレート・無処理へのアプローチ」と題して,三井化学株式会社研究開発部門機能材料研究所情報材料G主任研究員小出哲裕氏と社団法人日本印刷技術協会参事相馬謙一が講演する。

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2002/12/03 00:00:00


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