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アナログを乗り越えるデジタル画像

人間の目はラフなのか高精細なのか? 一般の人が濃淡の階調をどれくらい見分けら得るかという実験をすると64階調あれば十分だという説があった。網点による画像再現も似たり寄ったりで100階調もあれば十分とされている。ところが人間の目の特性はリニアではないので、目につき易い色や明るさでは細かな階調が求められる。

人間の目には機械のような固定的なガンマ特性はなく、薄暗いと識別できる階調は減るが月明かりでも判別する一方で、炎天下の直射日光の下でも目は見えるなど、なんらかの順応をした上での階調識別なので、それをそのまま機械では再現できないし、そもそも人と機械の対比は難しい。

ただ印刷という手段は階調表現にもともと制約があるので、色も階調も人間の能力の範囲を問題にするとか、それと対比させて印刷を考えることは少なかった。印刷物の評価では微妙なことが問題になったとしても、印刷の再現性の限界を越えるニーズには技術的な対応は必要なかった。だから色空間の議論でも印刷なりプリントで再現できる範囲を決めればよかった。

ところが画像の世界がフィルムなどを複製して画質を劣化させて作業していたアナログの時代から、デジタルカメラのように撮影した原シーンがそのままデータとして残り、劣化せずに保管・再利用できるようになると、画像の技術的なニーズは変わる。

今の一般的なデジタルカメラではまだ問題にされないが、世の中には産業用で特殊なカメラというのは結構ある。X線カメラ、暗視カメラとか溶接作業を監視しているカメラなど、人間の見る範囲をはるかに越えた画像を扱う場合は、印刷の再現域は問題ではなく、少なくとも従来の銀塩感光材料で記録できる範囲をデジタルでも記録したいということになる。

その前に今のデジタルカメラからは、人間の目に見えないようなところが本当にデジタルで捉えられるのか、疑問に思うかもしれない。しかし人間の目が順応によって非常に広い範囲を視覚的に認識できるように、デジタルカメラもカメラ自体の構造やカメラの受光素子のコントロール、また信号の補正回路などの工夫で画像を捉えられる範囲は広がりつつある。そうすると、目に見えるものを記録・再現するという範囲に留まらなくなる。

今は受光素子の周りに信号処理のLSIをつけるような構造だが、そのうちイメージセンサに順応の補正回路が組み込まれるかもしれない。アメリカの人たちのデジタルに掛ける意気込みを見ていると、人間を超えるサイボーグを作り出そうとしているかのようだ。色空間や画像フォーマットの議論も次第にサイボーグ達の仕様に合わせたものになっていくのかもしれない。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 194号より

2002/12/14 00:00:00


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