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フルデジタル化による問題点

−スムーズなワークフローの構築とは−


 グラフィックアーツのフルデジタル化は,デジタルカメラ→DTP→CTPとほぼ達成され,その普及が始まっている。ところが,ワークフローのフルデジタル化は,それぞれの会社において外部との制作・製造のコラボレーションに影響を与え,アナログ時代に比べ協調したワークフローの柔軟性は後退した。グラフィックアーツにおいて,外部との協力作業をスムーズにするための,フルデジタルワークフロー構築の課題を整理する必要がある。
 これからは、個社内で全て完結させようとすると非効率になる部分は、上手にコラボレーションすることによってプロダクティビティを向上させる必要がある。PAGE2003コンファレンス・プロダクティビティ・トラックでは、コラボレーション先として同業他社だけでなく顧客企業をどう巻き込むのか。ネットワークで密な関係をどう構築したらよいのか。グループ内では同業者も含めての品質保証体制をどう確立していくのか。スキャナからデジタルカメラに置き換わるなかでの最適なカラーワークフローとは、またJDFのようなネットワーク内での共通伝票情報といえる手段の利用価値はどこにあるのか、などを議論する。
いずれにしても付加価値の流出を怖がって外注を抑制しているばかりでは新しい価値は生まれてこない。

デジタル化の進展と電子送稿の課題

 印刷会社は,CTPを含めフルデジタル化が進展しているが,さらに一つの業界にとどまらない業界間のネットワークやデータベース化などに発展している。
 とくに,さまざまなネットワークの中でも,お得意様を含めたネットワークをどのように運用するかという点は,直接印刷受発注に関わるものであるため,重要な課題が多い。
 さらに,製版・印刷会社は,お得意様の中で独自の方法で必ず受注できる仕組みをつくりたいと思っているのに対し,広告会社・出版会社はいろいろな製版会社,印刷会社を使えるようなオープンな製造環境を指向する傾向が強い。
 印刷業界で横断的に共通互換性を確保すべき項目と印刷会社間で競争すべき項目を分けて考える必要がある。データのやり取り,あるいはそれに付属するメタデータなどは,互換性が必要である。印刷会社間あるいは業界間すなわち,広告主,広告業界,出版業界と印刷業界の間で互換性の確保が必要である。
 デジタル制作環境の標準ルール化,入稿仕様やジョブチケットなどの明確化の課題もある。色の問題も大きく,業界を横断して使用できる印刷色の基準と運用ルール化が必要である。通信速度やネットワーク関係のインフラ整備,さらにそれらを運用していく上でのポイントとして,人材の育成がある。セキュリティの確保,個人情報やウイルスも課題となる。

e-Japan戦略とネットワーク利用における課題

 e-Japan戦略は,内閣のIT戦略本部が推進している戦略テーマである。世界最高水準の高度通信ネットワークの形成,教育・人材育成,電子商取引促進,行政公共分野の情報化,高度情報通信ネットワークの安全性と信頼性の確保の重点政策5分野がうたわれている。  基幹となるバックボーンネットワークはすでに光ファイバに変わっているが,最後に各家庭に届くところをどう光にしていくかが課題となっている。ADSLなど高速ネットワークサービスが数多く出現し,全国整備の実現も前倒しで進めている。
 ある調査によると,企業の60%は何らかの形で他者からの侵害を受けている。近年流行したCordRedやNimdaなどのウイルスだけではなく,ホームページのデータ書き換えなどの被害もある。内容はウイルスやワームなどが多く,スパムメールなどもある。知らない間に自分が加害者になってしまう場合もあり,ウイルスチェックが重要である。
 ネットワークをインフラとして使用した場合,専用線を除くほとんどの回線がベストエフォート型である。ADSLで12Mbpsがあるが,この帯域を保証しているわけではない。実際にやり取りするところはアナログ方式のため,電話局からの距離によって変わる。その点を考慮しなければならないが,安価になってることもあり,ネットワーク構築時に必要な二重化やバックアップ体制などに有効な手段である。
 セキュリティ問題としては,外部からの不正アクセスやウイルス対応も考慮する必要がある。
 運用技術を充実させ,快適なネットワークを活用した制作・製造環境構築が重要である。さらに,膨大なデータを管理するツールを充実させる必要があり,運営管理情報などメタデータの互換性確保,標準化がポイントになる。

雑誌広告基準カラー(JMPAカラー)

 雑誌広告は,広告主に始まり,広告,出版,印刷業界と関連する人数が多く,複雑な業務フローになっている。
 かつて印刷会社に入稿する原稿は,写植版下,カラー原稿とレイアウト指定であり,この場合は自社の印刷条件に合わせ色分解し,校正刷りを出校する業務フローであった。しかしデジタル化により,広告会社と制作会社で大部分を制作し,色分解も行うようになってきた。しかしこの色分解条件が必ずしも印刷会社の印刷条件と合わず,印刷会社で刷りやすい,色再現できる形になっていないことがある。このことを確認するために印刷会社では必ず校正刷りを出校し,出版社,広告会社,広告主に確認を依頼する。このようなやり取りが広告会社,出版社,印刷会社で複数回行われるため,制作日数が多くなる。
 このような校正出校をなくし,短納期を可能にする方法として,広告会社,出版社,印刷会社それぞれに同じデータを入力すれば,同じ色が出力されるプリンタ,あるいはDDCPを設置し,その色調で印刷会社が印刷できれば,印刷会社からの出校は必要なくなるはずである。同じ色で関連部署が色調を確認でき,校正出校を省略できる。
 実現のためには,どのデータがどの色になるかを明確にし,出力するカラープリンタ,DDCPを整備する必要がある。この雑誌広告の色基準については,(社)日本雑誌協会が広告,出版,印刷業界共通で使える基準カラー「JMPAカラー」を提案している。
 基準カラーについては,ISO12647,IT8チャートと,特に出版社から要望があった雑誌広告でよく使う肌色などを追加したJMPAカラーチャートをつくり表現している。

Japanカラー/JMPAカラー

 Japanカラーは,ISO/TC130国内委員会が中心となって定めた色の標準であり,日本のオフセット印刷物の標準である。前述のJMPAカラーは基本的に標準ではなく,基準カラーという言い方をしている。それに対しJapanカラーは標準印刷物とはどのようなものかを定義している。  標準印刷物とは,標準のインキJapan Color Inkと標準用紙Japan Paperが必要であり,印刷する方法も標準であり,その結果が標準印刷物ということになる。
 この方法で作られた標準の印刷物として,Japan Color 2001の色再現があり,4種類の印刷物が定義されている。コート紙,アート紙,マットコート紙,上質紙の4種類で,その印刷物で色を定義している。ここでいう標準の印刷方法とは,ベタのLab値すなわちベタの色であり,さらにそれに対し許容値を決め,ドットゲイン等の規定もある。
 Japan Color 2001,4種類の紙についての印刷物の場合,アート紙とコート紙は着肉性が良好であり,マットコート紙になると若干抜けが見られ,上質紙ではかなりインキ着肉が劣る。アート紙やコート紙は用紙の平滑性がよく,色再現範囲についても,マットコート紙より領域が広く,上質紙はかなり狭くなっている。
 JMPAカラーの色再現範囲は,コート紙やアート紙より少し狭い範囲となっており,マットコート紙と同程度である。

 印刷会社や紙,インキが変わっても,お得意様の要望する色に合わせることが基本となり,そのための標準化がますます重要となっている。

【関連記事 PAGE2003 コンファレンス プロダクティビティトラック】

(テキスト&グラフィックス研究会)
JAGAT info12月号より

2002/12/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会