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ビジネスの大きな転機としてのクロスメディアパブリッシング

PAGE2003コンファレンスのプログラムに先立ち、JAGATのWebサイトやパンフレットなどでスピーカーの募集を「Call for speaker」として行ったところ、システム開発者から印刷会社まで幾つかの提案をいただき、それらを合わせてPAGE2003コンファレンス:クロスメディア・トラック(2003年2月6日〜7日)の企画が出来上がった。

クロスメディアを考えなければならなくなったのは、多メディア複合利用の時代になったからである。この十数年ほどの間に、電話での情報サービス、パソコン通信、eメール、WEB、iモードなど、次々と新たな情報手段が登場した。それらは個々に離れて存在するのではなく、一つのコンテンツが変幻自在に姿を変えて身の回りに現れるようになった。
その中で印刷独自の役割というのもあるが、過去と違うのは印刷は出力のオプションの一つになったことである。従って今日のクロスメディア戦略とは、顧客の求める出力形態は何でも応じられるような、メディアニュートラルなシステムを構築することであり、主たる収益が印刷から出るのであっても土台はクロスメディア対応に作り変えなければならない。

昨今銀行から金を借りるにはリストラ計画を出さねばならず、その中で「印刷物を削減します」が常套句になっているという。デフレの深刻化やITの進展により印刷物をいかに減らしてコストを削減するかが,一般企業・官庁自治体の大きな関心事である。IT指向=クロスメディア指向=印刷物激減である。クロスメディアパブリッシングを取り巻くXMLもPODもインターネットも1to1も,いかに「印刷物を激減させるか」の手法である。印刷業は,ITの実践+情報加工のインテグレータに変わらないと生き残れない。ITベンダーなど印刷以外の業界がどのような戦略でこの市場に乗り込んできているのか,逆に印刷業界がいかに強みをいかしてビジネスを展開していけるのか。具体的なビジネス事例を紹介しながら印刷業界の視点と印刷業界以外の視点両方から2003年のクロスメディアパブリッシング戦略を考える本トラックのオリエンテーション的な位置付けとして「クロスメディアパブリッシングの可能性」セッションを設定した。

実際,クロスメディアは業界の枠をはずして様々な試みがなされている。リアルの店舗のキャンペーンと携帯電話のクーポンを活用したレンタルビデオ店,流通を利用して本を届け,ネットで顧客を囲い混む出版社など,業種や業態を超えたクロスメディア戦略で成長する企業が登場している。これらの共通点はレガシーシステムを最大限に利用してワントゥーワンマーケティングを実現していることである。「電子媒体によるマーケティングは出版・印刷を乗り越えるか」(B2セッション)では多様なメディアや流通ルートを駆使してビジネスを展開する企業を招き,多メディア展開のポイントをさぐる。

電子メディアの中でも最も威力を発揮するのがWebサイトである。しかしInternet Publishingは,従来と比べて簡単に情報発信ができる分,紙媒体では確立されていた制作ルールや内容の品質管理が徹底されていないことが,最近問題視されている。長年の経験により洗練された可読性を持つ紙に比べ,Internet Publishingではユーザビリティはまだこなれたものにはなっていない。またWebデザイナや制作者の技術の格差も制作の効率化に大きく影響する。「インターネットパブリッシング―すぐれたサイト管理の要件」(B3セッション)ではインターネットパブリッシングにおける課題を議論するとともに,それを解決するためのヒントをさぐる。

紙だけで配布していた時代には,教材もカタログも制作して配布すれば,コンテンツの制作者側の作業は一区切りした。しかしeラーニングになると,教師やシステムベンダーなどと連携して学習の進行状況の管理や学習者へのサポートを行い,コンテンツの内容更新などへとサービスが展開していく。また,電子カタログもメリットを十分に活かすには,閲覧だけでなく購入機能もつけてユーザが快適に商品を買える仕組みが必要となる。情報が印刷会社に集約されて,編集・出力して終わるというビジネスの形態から,コンテンツを加工した後のサービスや運用なども含めたビジネスにかわっていく。ここでは大学や企業研修に加え昨今生涯教育までターゲットをひろげているeラーニングにフォーカスをあて,「eラーニングの開発・制作・運用コラボレーション」(B4セッション)においてビジネスや協業関係について考える。

クロスメディアパブリッシングを実現する際の重要な技術のひとつがXMLである。しかし,XMLを活用して成功しているビジネス事例はまだ実際少ない。そんな中で,デジタルメディアシステムは,日韓ワールドカップの際に構築したシステムで,ビジネス的に大きく成功した。システム開発をてがける同社は,ワールドカップの際,オランダのニュース配信会社からスポーツニュースのコンテンツを受け取り,日本の新聞社やTV局など各種メディアにXMLでデータ配信するシステムを構築した。この仕組みによりコンテンツホルダー,サードベンダー,メディア各社それぞれが,収益の拡大,コスト削減を実現したという。また,国内の新聞社においてもXMLを活用する動きが活発化しており,NewsMLは業界や地方の新聞社へのダイナミックな情報配信を実現した。「XMLで拡大するニュースコンテンツビジネス」(B5セッション)では,ニュースという素材が,XMLにより新たな付加価値を生みはじめている現状と将来の可能性を考える。

書籍はクロスメディアのコンテンツとして長年期待されてきた。出版物はDTP化が進んだものの,コンテンツのデジタル資産化や効率的な管理運用,多メディア出力など,重要な課題がまだ残されている。この解決法としてXML技術に期待が集まっているが,現状は出版標準フォーマットの不在やクロスメディア出版の厳しい事業性などの理由により出版分野のXMLパブリッシングの普及はまだ遠い。その中で,業界のリーダー的存在である大日本印刷と凸版印刷では,独自の高い技術を投入し,社内におけるXMLパブリッシングの標準化や制作フロー作りを着実に進めてきた。「XMLをベースにした出版制作」(B6セッション)では自社の技術をソリューションとして印刷業界へ提供することも多い2社を招き,XMLパブリッシングの今後を考える。

PAGE2003 コンファレンスの クロスメディア・トラックでは、コスト削減や効率化を実現しつつビジネスの方向性をテーマとして取り上げ、スピーカーの具体的な体験談や苦労話,成功のステップなどを紹介しながら,数年先をみすえた企業戦略に参考になるような議論を交わす。

2002/12/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会