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感銘を受けた本を教えてください

第45回テーマ(2002年12月号)

感銘を受けた1冊,山岡荘八の『徳川家康』
経営書としても読める戦後ベストセラーの長編ですが,家臣との関係など,涙なくしては読めない山岡荘八のライフワーク。
人生を変えた1冊『ケーベル博士随筆集』
学生時代,大原総一郎の「私の読書遍歴」で教えてもらって以来の座右の書。私の事務所屋号の由来。博士は明治のお雇い哲学者。小さな本に珠玉の文章がびっしり。
オールタイムベスト1,カール・ヒルティ『幸福論』
キリスト教信仰が背景にありますが,宗教に関係なく活用できる実践的な生活の知恵が豊富。
今もそのとおりに実践していることが多々あります。
ヒルティはスイスの法哲学者。数多ある幸福論の白眉。ちなみに日本のヒルティは三谷隆正。
お気に入りの1冊,司馬遼太郎『坂の上の雲』
ご存じ,司馬遼の代表作。文人から軍人までの登場人物,時代背景などそのスケールの大きさは比類ない。いつかだれかが映画化してくれることを夢見ています。

(印刷経営総研 理事 小出康之)


1978年に読みました後藤清一さんの『叱り叱られの記』が私の1冊です。
松下幸之助に叱り叱られて成長された方です。こういうチャンスですので読み直しています。
あとがきの中に「今日,花はいっぱい咲いている。が明日咲くつぼみもいっぱいあるか」という文章が私の仕事上の基本になっています。私は60歳を越しましたがおかげで会社は後継者ががんばってくれています。「明日咲くつぼみが今あるか」とはすごい言葉と思いませんか。松下幸之助さんは一度近くで姿を見ました。後藤清一さんにも一度お会いして本のことを話して感動したのを覚えています。若い時にいろいろな本を読んで「感動」を経験すれば年を取っても「本の魅力」には勝てません。
最近の一言は「鬼手仏心」です。浅間山荘の映画を見ていましたら,軽井沢警察署の所長室の大きな額に「鬼手仏心」と書かれてあり,ゆっくり映します。厳しい時ほど相手のことを考える心の深さ,をいうのでしょう。すぐにリストラ・リストラと「鬼手」ばかりです。
(大阪・匿名希望)


読書家でない私には他人に本の話などおこがましいというのが本音ですが,文学書ではありませんが「印象深い本」として有吉佐和子の『女二人のニューギニア』があります。かつて縁あって多少東南アジアに関係したこともあり,ボルネオで自動車で入れる限界の奥地の部落まで案内してもらったことがあります。そこではまさに未開の生活が営まれており,部落の真ん中の講堂のようなところには,今は首刈りをしていないと聞いてもしゃれこうべが垂れ下がっており,落ち着かない体験もしました。
いろいろと熱帯やアジアに関する本を読んだ中でこれが印象的であったのは,作家の有吉佐和子がニューギニアの実態をほとんど自覚せずに,学生時代の友人の文化人類学者畑中葉子さんがニューギニアで研究していて,偶然会った時に「良い所だからおいでよ」と言われ,「ニューギニアに行く」と言っても周囲の者がだれも止めずに「へえ羨ましい」なんて言うから約束とおり出かけたら,ニューギニアでも中心にあたる山の中で,セスナがやっと飛ぶ飛行場から3日間も歩いて到着する部落で暮らす羽目になった話である。
ゴルフの18Hも歩くのがやっとの有吉氏は,畑中氏と一緒の生活をせざるを得ない。なぜならもう歩いて帰れないからである。
その間に畑中氏の研究を見て,文化人類学者のやることが描写されており,その苦労の様子と,それに比べて作家は気楽だとか,ともかくとんでもない経験の話なので,笑い話のような部分があって面白かった。
嫁をもらうのに豚3匹を交換する社会である。
有吉氏が無事帰国できたのはまさに天からの贈り物であった。まさに偶然で,測量のヘリが道に迷い(?)そこに着陸したので,それに便乗して帰国できたということであった。
事実は小説よりも奇なりである。
(東京・町田印刷 勝尾常務)


私が感銘を受けた本は,中村天風著『君に成功を贈る』(出版社:日本経営合理化協会)です。
会社の研修先の所長に紹介されたのがこの本との出会いですが,有名な明治の哲学者中村天風氏が熱く,やさしく人生成功の秘訣を解き明かしてくれます。
語り口調をそのまま生かしているため読みやすく,内容も魂に直接語りかけてくる感動の教えばかりです。
読み終わった後,目の前がパット明るくなり,人生を前向きに生きていこうという気持ちになれます。
ぜひ幅広い世代の方に読んでいただきたいです。お薦めです。
(新潟・タカヨシ 田辺昌之)


心に残った一冊『血と骨』上・下二巻(梁石日・ヤン・ソギル)幻冬舎刊
ベストセラーと言われる小説の中で一度ならず,二度,三度と読み直したい小説はあまりないだろう。本書は何度読み直しても,その都度,脳髄から足のつま先まで電気ショックを受けたような衝撃が駆けめぐる。実在の父親をモデルにしてひとりの罪深き男の激烈な死闘と数奇な運命を描いた本書は,人間の「生」の在り様を極限まで追求したきわめて今日的な作品である。我々はもう一度何もない焼け跡の前に裸で立つ覚悟が必要である。
『齋藤史全歌集』(大和書房刊)
平成一四年四月二六日,現代短歌の第一人者の地位を不動のものとされていた巨星が逝った。齋藤史は「重厚と絢爛と辛辣と軽妙を併せもつ精神の迷路への深入りを歓ぶ」者にとってはかけがえのない存在であった。「暴力がかくうつくしき 世に住みて ひねもすうたふ わが子守りうた」。九三歳で大往生された歌人齋藤史は,彼女の生きた時代の民族の運命をも体現されていた。しかし,歌はあくまでも美しく,底深く,みずみずしい。
(零細企業代表者 匿名希望)


阿川弘之の海軍提督三部作の中の『井上成美』です。山本五十六,米内光政とともに,日独伊三国同盟反対,英米開戦反対の旗頭でした。知名度こそ山本,米内には劣りますが「海軍きっての知性」と言われた最後の海軍大将・井上成美は十分魅力的な人物として描かれています。
彼は終戦まで終始,戦争に反対で,一億総玉砕を避けるべく終戦工作に奔走します。戦後は,海軍大将であったにもかかわらず,清貧の中,横須賀の自宅で近所の子供たちに英語を教えつつ人生を送りました。
海軍兵学校の校長時には,敵国語ということで反対があったにもかかわらず,終戦後をにらんで英語教育を存続させました。また,文官たちを蔑視せず評価する態度や,国際情勢に対する深い洞察など,その見識,硬い信念をもち徹底して自身を飾らず,潔癖なまでの態度はリーダーとしてのあるべき姿を見せてくれるように思います。ただ,戦は下手だったようですが。
(東京・O)


畳の上の水練とは,役に立たないことの喩えだが,私は本を読んで完璧な理論武装をしたことで,泳げるようになった。
大人になって覚えたことは,すべて本から教わったことだ。中途半端に人に教わるより自分に教えることが好きな私には,本の価値は役に立つかどうかがすべてだ。
小説などを読む人間の気はしれない。時間の無駄としか思えないからだ。
仕事柄どんな本がベストセラーかぐらいは押さえているが,あまりお手軽なタイトルが並んでいると民度の低さにイヤになる。
役に立った本も役立たなかった本も,役目を果たせばそれまでで,本で感銘を受けることはない。
(匿名希望)


編集部より

掲載図書のリストです。ぜひこの機会に手に取ってみてください。
ちなみに,私の一押しは山本周五郎著『日本婦道記』(新潮文庫438円)の中の「糸車」。与えられた環境の中で精一杯生きることによって,その環境さえも変えていく力をもつお高は理想の女性です。

『徳川家康』 山岡荘八著 山岡荘八歴史文庫(講談社) 全26巻各740円
『ケーベル博士随筆集』 ケーベル著,久保勉訳 岩波文庫 絶版
カール・ヒルティ著『幸福論』 草間平作・大和邦太郎訳 岩波文庫全3巻 1巻660円,2〜3巻700円
斎藤栄治編 白水社 2800円
『坂の上の雲』 司馬遼太郎著 文藝春秋全6巻 各1381円
文藝春秋 「司馬遼太郎全集24〜26」各3398円
文春文庫全8巻 各552円
『叱り叱られの記』 後藤清一著 日本実業出版社 絶版
『女二人のニューギニア』 有吉佐和子著 朝日文庫 515円
『血と骨』 梁石日著 幻冬舎 2000円
幻冬舎文庫上・下 各648円
『齋藤史全歌集1928-1993』 齋藤史著 大和書房 12000円
『井上成美』 阿川弘之著 新潮社 2913円
新潮文庫 781円

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2002/12/17 00:00:00


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