インクジェットプリンタのしくみと現状

10月のtechセミナー「オンデマンドプリントはどこまで印刷に近づけるか?」では,乾式,湿式の電子写真技術とインクジェットプリンタのそれぞれについて,最新動向や課題,将来性についてうかがった。セイコーエプソンの洒井真理氏にはインクジェットの各方式やインク,メディアについて技術的な詳細をお話しいただいたが,ここでは基本的な仕組みと要求品質に関する部分を抜粋して報告する。

インクジェットプリンタの仕組みと特徴

インクジェットプリンタの構成はきわめてシンプルである。主要部はインクジェットヘッドとインク及びインク容器(インクカートリッジ)で,メカニズムとして紙を縦の副走査方向に送る機構とヘッドを左右の主走査方向に動かす機構がある。信頼性のうえではヘッドのメンテナンス機構が重要であり設計上難しい部分でもある。あとはコンピュータとのインタフェースや制御装置がある。

インクジェットは印刷のプロセスも電子写真にくらべて非常にシンプルである。
ヘッドからインクを飛ばし,インクがなくなればカートリッジから供給する。これがヘッドの中で起こるプロセスである。そしてメディアつまり紙の上にインクが着滴して浸透して定着されるプロセスがある。

このようにインクジェットの第1の特徴は,ヘッド・インク・メディアの3つの要素から成り立つ非常にシンプルな構成だということである。第2に,それらの相互依存性が低く,トナーの帯電性が全体のプロセスに響く電子写真技術とは異なるという特徴がある。第3の特徴は非接触プロセスだということである。インクはヘッドから1mm程度のギャップを隔てて紙に着き,その間に接触部分がない。インクがまっすぐ飛びさえすればずれのない精度の高い画像が形成できる。第4に,浸透を伴うため,画像品質はインクとメディアに依存するということである。インクジェットは電子写真とは異なり,インクが紙の中に浸透していく。そのため,第2の特徴と矛盾した言い方になるが,画像品質はメディアとインクの物性に依存する。これは必ずしも欠点ではなく,紙質を生かすために好んで使われる場合もある。

結論として,インクジェット技術の最大の特徴はスケーラブルだということである。小さいものから大きいものまで基本的に同じ技術が使える。また組み合わせの自由度が高いのも大きな特徴である。ヘッドとインクはいろいろな組み合わせが可能だし,平らに送る機構さえあればいろいろなメディアに対応できる。

インクジェットヘッドの方式

インクの飛ばし方の種類は連続噴射型(コンティニュアスインクジェット)とオンデマンド型(ドロップオンデマンドインクジェット)の2つがある。
連続して打つとパターンが作れないので,コンティニュアス型ではインクを帯電させて電界でコントロールする荷電制御方式を採用している。
オンデマンド型にはサーマル方式・バブル方式,静電アクチュエータ方式,ピエゾ方式などがある。
サーマルはHPの,バブルはキヤノンのそれぞれの名称だが,これにはさらにルーフシュータ型とサイドシュータ型がある。
静電アクチュエータ方式はエプソンだけが作っているもので,POS用の小型プリンタとして作られている。導電性の振動板と電極の間に電圧をかけると静電気力でたわみ,インクが入っている部屋を大きくする。電圧を下げると振動板が元に戻ってインクが飛び出す仕組みである。
ピエゾ方式には撓みモード型,縦モード型,シェアモード型などの方式がある。ピエゾ方式はピエゾの変位が電圧に比例するためインク粒の大きさを制御できるが,バブルジェット方式はバブルが成長した後は制御することができない。しかし,バブルジェットは高解像度を実現できるが,ピエゾ方式は解像度があまり高くないという特徴がある。

インクジェット出力に求められる品質

インクジェット出力に求められる品質として,画像品質(濃度,粒状性,シャープ度,色再現・Gamut,質感,種々のメディア対応),保存性(耐水,耐光,耐湿,耐ガス,耐擦)がある。
品質要求は基本的には電子写真と同じだが,インクジェットが弱い点がいくつかある。ひとつは濃度である。電子写真は紙の表面に色材を残すのできちんとした濃度が出るが,色材が紙の中に浸透してしまうインクジェットでは濃度をどう出すかが大きな問題になる。
粒状性については,電子写真は1画素が複数のトナーの粒子で形成され,現像・転写・定着のときに飛び散って形成されるが,インクジェットは1個の液滴がにじんでエッジがぼやけたり,ドットが目につく問題がある。しかし,最近の写真ライクな製品ではインク滴を小さくしたり,6〜7色の薄いインクを使って粒状性を抑える工夫をしている。
質感はインクジェットのメリットである。インクジェットはインクが紙の中に浸透するので紙の表面の質感がそのまま反映される傾向が強い。そのため,無光沢の紙を使って水彩画のような質感を作ることもできるし,メディアを変えれば写真のような光沢を得ることもできる。
種々のメディア対応については,電子写真は印刷のコート紙に対応するための開発が進められてきたが,インクジェットは電子写真が市場にもたらしたPPC用紙といういろいろな紙に対応しなければならない状況がある。
耐水性では,初期のインクジェットは水で洗うと色が落ちていた。きれいに落ちるので紙のリサイクルにはよかったのだが,それは市場で求められている保存性とは異なるものである。
耐光性では屋外のポスターなどの褪色という問題がある。耐湿性は湿度の高い環境に置いておくと色がにじんできてしまう現象がある。これは一般にはそれほど問題にされないが,高品質の保存性を求められるときには必ず問題になる。
インクジェットの染料インクはガスやオゾンに弱い。冷蔵庫やトイレのオゾン脱臭によって室内でも褪色する。また,オゾンについてはオゾン濃度が地域や季節によって違うという問題もある。
耐擦性は指でこすったりマーカーを使ったときの問題である。また光沢感が薄れてしまうという表面の耐久性も求められる。最近は写真ライクな品質を売りにしているため,こういう点でも銀塩写真なみの品質が要求されるのである。

インクジェットの最近の技術傾向

インクジェット技術は,現在ではインク粒は数ピコリットルを達成し,色数は6色以上を使うことによって写真画質を達成している。また,これまでインクジェットの課題とされてきた保存性や濃度は,顔料インクを使うことで改善されつつある。顔料を使ったときの光沢の問題も許容できるレベルになりつつある。色の再現範囲は染料のほうが広いが,顔料も改良されて染料に匹敵する色範囲を達成できつつある。
また,スループットにかかわる要素としてヘッドの幅がある。ヘッドの移動速度を速くするにはいろいろな問題があるため,ヘッド幅を広げて速度を向上させる必要がある。現在は1インチ幅のヘッドを達成している。
現在,ピエゾヘッドを用いた印刷装置の種類が増大しつつある。ピエゾヘッドはいろいろな種類のインクを使うことができるために応用範囲が広く注目されている。

(テキスト&グラフィックス研究会)