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厳しい時代を乗り切るためのDTPの役割

「DTPエキスパートになるためのカリキュラム」は1993年に公開され,DTPエキスパート認証・登録制度がスタートした。このカリキュラムを出題範囲として1994年3月にDTPエキスパート認証試験の第1回を行った。
その後DTPを取り巻く環境であるコンピュータや通信の進歩は急テンポになり,DTPエキスパートにはそれらインフラの変化に対応することも求められるようになった。古いDTPモデルは,紙面制作に終始する知識しか取り扱わなかったが,インフラも含めた中期的ロードマップをもって,現場をリードしていくことがDTPエキスパートの使命になったと考えられる。

しかし,変化を追うだけが使命ではなく,もともと印刷物を何のために作ろうとしていたのかを探り,良い印刷物とはどういうものかを理解し,それを最も効率良く作り出す制作環境を計画できる能力がDTPエキスパートの基本であり,「良いコミュニケーション」「良い印刷物」「良い制作環境」の3つをキーワードに,カリキュラムが編成されるようになった。
2002年12月に改訂されたカリキュラム第5版ではさらに制作のパフォーマンスの向上が大きなテーマになり,管理能力や科学的なアプローチ法をDTPの世界に反映する方向で検討がなされた。

カリキュラム第5版における変更点

過去2年間の変化と,今後2年で予測される事柄を踏まえて検討した。DTPの外側から来る変化としては,デジタルカメラと文字コード関係が最も大きい要素であった。DTPの側では,試験からのフィードバックでも明らかだが,デザイン・編集の知識およびセンスの低下と,印刷物品質を見る目の低下に対してスキルアップの課題がある。今まで暗黙の条件であった印刷物制作に必要なスキルをなるべく記述する方向で今後の改訂作業や新規問題が作られていくことになる。

まずこの2年間の変化の結果として削減したものがいくつかある。マルチメディアは印刷コンテンツと互換のあるものに限り,音声動画系を削減した。また1.1にあった「伝統的プリプレス」の項目およびその関連のものはいくつか削除された。写植・製版の作業の流れはDTPと比較の意味でDTPの項へ一部移った。1.3にあった「色分解」は単独の項目としては消滅し,CYMK(Bk)など色変換の項に集約された。1.6にあった「チント処理」もなくした。

内容の変化に伴い名称変更した項目がいくつかある。1.4の「スキャニング」を「イメージキャプチャ」にした。スキャニングと同等にデジタルカメラの位置が高まったからである。そこでデジタルカメラなどの「RGBデータ入稿」を新設した。関連して,2.4にあった「画像入力機」は「画像キャプチャ」に変わった。デジタル写真の広まりとともに,言葉の混同を避けるために,1.7にあった「写真処理」を「感光材料処理」と化学的な処理に限るように言い換えた。

追加された内容で一番量的にも多いのはデジタルカメラ関連であり,第1部では前述の「RGBデータ入稿」や,第2部では2.4「入出力」にデジタルカメラの構造,特性,記録などについて大幅に追記された。
文字コードに関しては,ユニコードのデファクト化と,Mac OS XでAdobe-Japan1-5の文字種が扱えることで,類似した多くの漢字に対する識別能力がDTP利用者側に課せられるようになる。そこで「1.2.3 漢字の字形」や「2.1.1 文字データ」で異体字や外字に関する知識を増やしている。ただしOpenTypeの使い方についてはまだはっきりしないことが多いので,それらは今後の動向に合わせてカリキュラムに反映させることにした。

あと全般的に書き加えられたのは,科学的な色の知識という点で,これは多岐の項目にまたがる。特に印刷物の色の面での品質とか管理方法は,撮影・製版・印刷がそれぞれ独自のノウハウで独立的に行っていた伝統的な時代とは全く異なってきた。すべてに共通した光・色彩の科学を基本としたCMSが横断的な色の解決になることから,全般的な見直しがされた。

以下は,カリキュラム項目順にその他の変更点を記す。「1.2.1 紙面の設計」では,印刷物の設計能力に関する事柄が増えた。サイズとかデザイン面とか,特に一般に弱いとみられるページものの設計・管理能力についてである。「1.2.2 編集校正知識」では,日常業務に関わるとみられる著作物とか著作権の範囲に少しだけ踏み込んだ。そのほか制作管理能力も問われる事柄が多くなった。
色に関しては上記以外に,「1.3.6 網パーセントと色」でCMYKインキの標準(ジャパンカラーなど)に言及した。また「1.3.7 カラーマネジメント」では,CMSを前提とした仕事の流し方を追加した。
「1.8 印刷と刷版」では,印刷品質に関する知識を若干増やした。刷版では水なし平版の項と,オフセット印刷の品質要因に関する項が増えた。一方,第3版では平台校正がなくなったが,今回はケミカルプルーフへの言及がなくなった。「1.9 後加工」では,リーフレットの折り仕様が追加された。 第2部では,「2.1.7 XML/SGML」で印刷関連でも動きが始まったXMLの応用面の規格が追加された。これと関連して「2.8.2 ワークフロー」でCIP4などに言及した。

コンピュータ関係では,新たな技術開発があるDVD関連などの「光ディスク」と,サーバ・ワークステーション中心になった「SCSI」で書き換えが多かった。OSではやっとMac OS Xの項ができた。「2.4 入出力」では,デジタルカメラのほかに,大判プリンタや液晶ディスプレイの項目が増えた。「2.4.4 入出力機の組み合わせ」も色空間・色変換という視点が加わった。
「2.5 ネットワーク」も変更が多く,無線LAN,WebDAV,FTP,電子メールなどの項が加わった。 DTP関連では,OpenTypeの記述増と,Windowsの出力モデルや,課題制作にも関連したDTP制作の段取り,出力直前のDTPからCTPへ渡す場面での処理などが加わった。ここでCTP周りのPDFや1bit TIFFのことが言及されている。

今後に持ち越したテーマ

新規あるいは見直しの検討事項ではあったが,今回のカリキュラムには反映されず,今後の新規問題や次の改訂課題にすることになった事柄がある。まずPostScriptに関する記述を減らしてPDFに変えていく予定であったが,実態がそうなり切っていないのでトーンダウンした。

文字処理に関しては,もう少し編集作業の領域に踏み込んだり縦組み組版を扱うなど,プロらしいスキルを問うことが課題として残った。画像はフィルムと画像データ入稿の違いや,反射分解に関する知識が今までなかったので追加テーマになっている。デジタルカメラはその特性に迫ることが課題であるとともに,撮影の知識,写真の見方なども今後の検討課題である。デジタルカメラフォーマットの細部はこれから必要となる知識であろう。カラーマネジメントの現実の問題として,色の測定,色環境の整備なども今後具体化すべきテーマである。

あとは今まで抜けていた項目の補充や,中綴じの面付けなど細かいところを順次付け加えるとともに,DTP全般としてどういう課題が残っているかを整理する必要がある。まだ揺れている出力段階のデータ処理やOpenType多字種の使い方,XMLの運用面,ネットワーク環境ではプロとして整えるべき条件,制作・校正のコラボレーションのためのグループウエア化などが第5版の改訂委員会では継続検討となった。 (DTPエキスパート認証委員会)

2003/01/02 00:00:00


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