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見えるもの全てを、ビジネスに!

我々は「ブロードバンド元年」というキャッチフレーズを毎年聞いている気がする。それほど実態はなかなか「掛け声」に追いつかないものだどと感じている。1980年代半ばを振り返ってみると、当時のINS計画が唱えていた「各家庭に光ファイバーを敷いて…」という電電公社の公約は一旦消えてなくなったかに思えた。今日の状況をみるとplayerが公社だけでなくなるなどの筋書きの変更はあったが、着実にその方向に進展してきたことがわかる。論理的に考えると実現時期は別にして「将来はこうなる」という予測は当たるものである。

また「ニューメディア」と合わせて騒がれた「ペーパーレス」にもかかわらず、OA化で情報用紙の需要は伸びるとか、いくらTV・インターネット・携帯電話が娯楽の中心になってもハリーポッターがベストセラーになるように、紙に対する需要は不変のように見える。しかし、ある部分では「ペーパーレス」も着実に進行している。オフィスでも書類の郵送は激減し、メールに文書ファイルを添付することが日常的になった。これらは必要な個所をプリントして使うように、印刷からペーパーレスに至る中間には「プリント」がある。領収書がレシートに変わったように、「プリント」の分野は多様化し伸びつづけていく。

以上、ネットワークとプリントという大きな流れは理解され易いと思うが、もう一つ大きな潮流は、インテリジェント化である。今でもソフトウェアのマニュアルを読むよりは「ヘルプ」を見るようにはなっているが、単に情報の載っている媒体が紙から電子メディアに変わるというだけではなく、調べモノ、教育、評価、分析などの仕事自体が人間技からコンピュータを使った無人サービスへと変化する。

当然ながら人間のインテリジェンスが価値を産む分野は残るが、「24時間サポート」の費用を削減したいようなむきにはWebサイトによるサポート化が進むように、面倒見をコンピュータに「丸投げ」してしまう分野が増えるのがIT時代である。教育においては少人数のフェイスtoフェイスの学習には高いお金が支払われるとしても、そのクラス編成のための受講者の能力の振り分けなどはeラーニングがし易い部分である。予備教育、予備テスト、アフターなどをIT化させて、人間の先生の価値の発揮できるところと上手に組み合わせるのが目下の目標であろう。

こういったメディアに関する環境がこれから本格的に変化することを、今、コンピュータは56歳。その秘めた力は…で述べたが、では社会がそのようになるにつれて、印刷というビジネスはどうなるのだろうか? 多くの印刷人が感じていることは、WebもPDF文書も作るノウハウは印刷と同じところがたくさんあるのだから、どこかに生き延びる道はあるはずだ、という直観であるが、残念ながら1980年代のニューメディア、1990年代のマルチメディア、90年代後半のオンデマンド印刷などなど、片手間で取り組んで印刷並に利益が出るようなものはなかった。それは、これらの技術の潮流は前述のように非常にゆったりとした長期的な変化なので、すぐ成果が出るという性質のものではないからである。

上記のように目に見える変化は誰でも直観で追えるし、デジタル技術は標準化が進むので技術の習得も、技術者の雇用も金さえあれば何とかなる。しかし人と似たようなことを追いかけてやっているだけでは、ゼロサムの社会では勝ち組にはなれない。自分のビジネスはどこから利益が出るのかを考え、言い換えると新たなビジネスモデルを作るには、長期的な大きな変化を常に意識して、将来へのビジネスの道のりを描くためのしっかりした座標軸を設定し、その中に個々のプロジェクトを位置付けて、着実に経験を積み重ねておかなければならない。その上で日常の仕事の流れを綿密に管理しなければ利益が出ないのはいうまでもない。

しかしそのようなビジネスのネタは実は無限にあるのである。プロのグラフィクス処理能力が必要なものは、およそ人間の目に止まる全てのものであるといえる。間違ってはいけないのは、グラフィックスのプロが自動車を作ったり、ビルを設計・建設したりはしないが、出来上がった自動車やビルへグラフィック処理を施すことはいっぱいあるということである。これは今、印刷から「プリント」への流れで顕著になっていることであるが、その先に電子メディアにおいても同様である。かつて紙しか自由に使える情報伝達媒体がなかった時代には、事務用・出版・宣伝などの印刷物を全て行う会社を「総合印刷」と呼んだが、これからは、印刷・プリント・電子メディアなどを全てコントロールできる「総合グラフィックス」という業態が出来てくるかもしれない。

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2003/01/08 00:00:00


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