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デジタルとの連動で伸びる「フリーペーパー」

最近「ホットペッパー」や「○○ウォーキング」といった媒体を街角で見ることが多くなった。「ぱど」や営団地下鉄でラックにたくさん置かれる紙媒体など、無料で手にするものが増加している。フリーペーパーとは「無料のメディア」ということだが、無料だから全てフリーペーパーだということになるとフリーペーパーの定義は広がり過ぎてしまう。
平成10年4月にJAFNA(日本生活情報誌協会)が設立された。日本で初めてフリーペーパーの有力各社が組織した協会である。どっちらかというと新聞系フリーペーパーの発行企業の団体で雑誌系企業はあまり入っていない。現在正会員が41社、協力会員が52社、協賛会員が7社、個人会員が14名で、サンケイリビング新聞社が幹事で会長は当社社長である。
同協会が平成11年9月に決めたフリーペーパーの定義は「ある特定の家庭又はある特定の地域の家庭や職域に無料で届けられる新聞タイプの媒体で、主に女性や家庭を対象に地域に密着した生活周りの情報を中心に構成されたタブロイド版又はブランケット版の定期発行の情報紙」というものである。

一般紙をはるかに上回るフリーペーパーの部数
JAFNAが2001年秋に行った第二回全国フリーペーパー実態調査結果によれば、無料媒体は全国全都道府県にくまなくあり、1,061社が1,182の紙・誌を出しその総部数は2億2千万部であった。
「紙・誌」とは閉じていない新聞形式、若しくは閉じてある雑誌形式の両者を含む分類だが、新聞タイプのフリーペーパー(「紙」)は120,469,112部であった。第一回の結果よりも大きい数字が出ているが、調べれば調べるほど新たな対象が見出されるからである。JAFNAの加盟社は42社64紙で、その総発行部数は17,263,603部である。JAFNAはABC(Audit Bureau of Ciroulations)協会と裏表の関係にあり、JAFNAに加盟する条件としてABC協会に入っていることが前提になっている。したがって、17,263,000部という数字はABCの認定部数でもあり、数字的には非常に信頼がおける数字である。
朝日新聞、読売新聞といった一般紙の総発行部数は5千数百万部だから、フリーペーパーの発行部数はこれをはるかに上回っている。フリーペーパーは今や人々の生活行動に非常に大きな影響力を持つ生活情報メディアとしてその地位を確立していると言える。

ターゲットは購買決定権を持った主婦
サンケイリビング新聞社の活動には3つのキーワードがある。「女性」、「企業」そして「地域」がそれで、当社はこの三つの橋渡しを行う総合女性マーケティング企業を目指している。まだそのようになりきっているとは言えないが、31年間活動している中でこのことをひたすら追究してきた会社である。
女性といっても主に家庭の主婦を対象にしている。男性の場合、結婚後、自分一人で買う物のブランドを決められるのはゴルフクラブとタバコ程度であろう。それ以外、冷蔵庫から車、家など、何から何まで主婦が購買決定権を握っているのではないだろうか。したがって、企業がアプローチする対象として家庭の主婦が一番であろうという仮定のもとに商売をしている。
一時期まで、ビールや自動車メーカーはリビング新聞の広告にはそっぽを向いていた。ビールの銘柄は男性が決めていたからだが、最近は主婦が勝手に安いビールを買ってくるようになり、ビール会社は非常に大きなお得意様になっている。
フリーペーパーを配布しているのは業者ではなくて地場に住んでいる女性で約17,000人いる。リビングレディと呼んでいる人たちだが、これらの人々を組織化したプロモーションも事業の一つの柱になっている。紙媒体と配布網インフラを持っていれば、各種のプロモーション(チラシ同配、サンプリング配布など)や調査あるいはコンサルティングもできる。
主要事業として「リビング新聞の発行」、「シティリビングの発行」、「あんふぁの発行」を行っているが、1996年からはインターネット分野での活動を開始した。

880万部を誇るリビング新聞
「リビング新聞」は当社のメインの媒体である。消費決定権を持つ家庭の主婦を行動させる、つまり買い物をしていただいたりイベントへの参加あるいは旅行に行っていただくといった行動を起こしてもらうことを目的に、企業からの情報を生活情報、地域生活情報という形に加工、お届けするというのがポリシーである。当社が自社の判断でエリアを決めて配布しているので、リビング新聞をご存じの方はよくご存じだが、知らない方はまったく知らない。1週間に880万部も出しているが、知名度が今一なのもそこからきている。
「リビング新聞」はタブロイド版で16ページから32ページ立ての形になっており、木曜日と金曜日に「リビングレディ」という家庭の主婦からなる配布組織が決まった家にポストインしている。家庭の主婦をターゲットにしているので、独身のアパートや事業所は排除して効率を上げている。現在、58エリアで880万部を発行している。首都圏では1都3県に14エリアある。一時期までは世界一のフリーペーパーネットワークといっていたが、最近「ぱど」の1000万部に越えられた。

可処分所得の高いOL対象の「シティリビング」
「シティリビング」という媒体は、OLを対象に、週に1回、許可を得たオフィスに配布しているメディアである。東京では6,300の事業所に約18万部を配布している。非常に人気があって全員に行きわたらないので4,5人で回覧、回読していただいている状況で、さらに配布希望の申し込みが数百社、1万部〜2万部ある。
対象としている一流企業のOLは、1カ月に12万円近く使えるポテンシャルを持つ魅力的な消費者である。広告業界で「F1層」いわれているが7〜8割が自宅から通勤しており、それが可処分所得の高い大きな理由である。「シティリビング」もネットワークを組んでおり、北は札幌から南は熊本まで9都市圏で65万部、5万オフィスをネットワークしている。

ニッチ市場狙いで成功した「あんふぁん」
当社が発行している3つ目の主要紙媒体が「あんふぁん」である。雑誌形式だが、幼稚園をステージとした園児とママのための情報誌という位置付けで発行している。月に一回、社団法人私立幼稚園連合に許可を得た1都3県プラス大阪、兵庫の私立幼稚園で発行している。先生が園からの手紙と一緒に「あんふぁん」を園児に手渡し園児が母親に渡すことになる。A4版変形でオールカラーの32ページ構成である。現在、飛ぶ鳥を落とす勢いで広告集稿が伸びており、既に3月の枠はいっぱいで、4月、5月もほとんど空きがない状態になっている。
幼稚園をステージとしているので、メディアだけでなくサンプリングやイベントを絡めた販売促進の展開ができる。「リビング新聞」の880万部に対して44万部の発行であり、私立幼稚園というニッチな市場なので最初は危ぶまれていたが、ニッチを攻め、そこから可能性を広げていくことでうまくいっているメディアである。2003年春には他の都市圏にも拡大する予定である。

伸びる駅での設置配布媒体
ユニークなメディアとして「ここいこ」がある。杉並、三鷹、吉祥寺もしくは世田谷、目黒地域に配布した電話帳である。ページ数は約200ページである。読める電話帳という内容で、店の名前と電話番号に加えて定休日などのちょっとした情報、コメントを載せている点が通常の電話帳との違いである。オールカラーだから見やすくて読んで楽しい。
「ここいこ」は、年に一回、地区を決めてローラー作戦で情報を集め、合わせて広告を集稿して一冊を作っている。2002年3月に吉祥寺周辺で出し、2002年12月には世田谷、目黒地区で出した。2003年5月には次の号を出す。
上記以外の紙媒体として「大江戸リビング」がある。東京都交通局とのタイアップによるもので都営地下鉄の103駅での設置配布媒体である。12ページ、4色カラーの印刷物で、大江戸線開通を記念してできたので「大江戸リビング」という名前をつけているが、大江戸線、浅草線、新宿線、三田線、さらに、ゆりかもめや都庁のような東京都の関連施設でも配布している。部数は15万部である。
当社は、メディアをこちらから届けるというポリシーで31年間事業を行ってきた。設置配布については、そのような基本ポリシーと過去にあった苦い経験から社内的にはあまり関心が持たれていなかった。コストは安く上がるが、設置したものを取っていってもらうための施策に努力をしなければならないという課題があった。しかし、最近では、人がたくさん通る駅に置くことは非常に効率が良いということがわかってきて増加してきた。「スターツさんのメトロミニッツ」、「あーばんらいふ」といったものが出されたが、2003年1月には当社から「メトロポリターナ」という名前で発刊する。これは産経新聞との協業で、非常に評判も良く広告の集稿はすでに終了した。

組織化したマンパワー活用事業も展開
既に紹介したように、紙媒体を配布するための人の組織化をしているので、その組織を使ったサンプリング、リサーチ、コンサルティングなどの活動も行っている。リビング新聞を配布するリビングレディが17,000人おり、シティリビングに関してはそれを配布している企業の中にシティリビングに非常に深いロイヤルティを持った方々が17,000人程度いる。これらの方々に一声掛けてオフィスの中にクチコミで広げてくようなこともしている。

増加する競合企業
当社のビジネスモデルにおいては、地域情報の収集力と発信力が常に問われる。当社事業の競合相手は、長い間「ショッパー」が唯一で古くから局地戦を繰り広げてきた。しかし、現在は「ホットペッパー」など新進気鋭の競合相手が出てきて、これはうかうかしていられないと感じられるようになってきた。
他社と差別化するためには地域情報の収集力と、集めたものを生活者の方々に効果的、効率的に届ける発信力の更なる強化が必要である。これが、現在の当社のひとつの課題である。 二つ目の課題として、女性組織活用方法の開発がある。17,000人のリビングレディは当社の社員ではなく業務委託として新聞を配布していただている人たちだが、非常にロイヤリティが高い人たちである。これらの人たちは第一読者でもあるから、きちんとフォローすることによって非常に頑固堅強な組織、集団、あるいはファンクラブといったものをつくることができるはずである。他のメディアがどんなに強くなってもそのような地盤を抱えていれば、少しは安心するところができるだろうを考えている。
当社の三つ目の課題は、より高いレスポンス実現のための施策開発である。ビジネスとしてやっていく以上、お人好しのように、良い情報を集めてはんなりと皆さんにお届けするだけでは駄目である。100万円払ったら200万円分のもうけが出たという形で協賛各企業にお返しをしなければじり貧になっていく。
施策として考えられることは、発行部数の拡大、情報接触機会の拡大によってリーチ率を高めることがある。情報接触機会の拡大のひとつだろうが、読者から見て簡単なアクセス手法、簡単にレスポンスができる手法をどんどん開発していくことも考えられる。

デジタル領域での活動と紙メディアの連動は必然
以上のような当社の課題に対する施策として、デジタル領域での活動と紙メディアとの連動は必然であると考えている。
配布コストをかけずに発信先を拡大できるのはデジタルの一番のメリットであろう。今までリビング新聞を読みたくても読めなかった方に対して情報を届けることができるという意味では読者のメリットになる。さらにリーチが広がって広告効果が広がれば企業メリットになる。デジタルと連動すれば読者にさらに利便性の高いサービスや情報を提供できるはずである。紙媒体における広告はスペースを売っているわけだが、デジタルを複合させれば立体的に非常に安価にたくさんの情報を提供できる。これも読者のメリットになる。
デジタルメディアではより多い回答数、クイックレスポンスが得られる。非常にスピーディに読者の傾向等を把握できるから、広告提供企業に対してすぐに何かしらのアクションを起こせる情報を提供することができる。デジタルは紙メディアの敵ではなく、我々がやりたい、目指すものを実現させるツールであると考え、それを活用するのは必然であろうということで取り組んできている。デジタル領域での活動として行ってきたことは以下のとおりである。 ・ えるこみ/めーるリビング
・ eあんふぁん
・ チケットファン
・ 健康オンラインチェック
・ デルカルヘルスサポート
・ L-PHONE J-SKY STATION  えるインフォ-J
・ Lモード えるインフォ、えるグルメ 健康チャンネル
・ i-mode 得するメニュー

使える口コミ情報サイト「えるこみ」
「リビング新聞」と連動した形で行っているデジタル系の活動が、当社のフラッグシップサイトともいえる「えるこみ」である。使えるクチコミ情報サイトという意味で「えるこみ」と言っているが、「リビング新聞」での地域生活情報の収集加工発信ノウハウをWeb上で実現したサイトであり、すでに約4年間行っている。2002年10月にフルリニューアルしたばかりである。4年間で3回目のフルリニューアルであり、常にドタバタやっているサイトということである。
開始当初は、女性のためのコミュニティサイトとしてオープンしたが、当時はまだ主婦層にとってインターネットは非常に敷居の高いものだった。サイトの中には書き込みをする掲示板形式のコミュニティルームを約80つくって運営していた。女性の安心感を醸し出すように電話で声を聞いて仮パスワードを発行するというような、非常にコストがかかって敷居の高いやり方をして運営していた。インターネットコミュニティの草創期に参加してきた女性陣には安心して書き込みができると受けが良くかったし、まだ、変なネットワークビジネスに勧誘する人もいなかったので結構人気が出た。しかし、逆にコアな人たちが付きすぎてしまって新規が伸び悩んだ。そこでしがらみを一新するためにコミュニティを閉じ、新しい機能を付加するよりも余分な機能を削り取ってシェイプアップして2002年10月にフルリニューアルした。

読者の住所に合わせたページを自動生成
特徴は、当社が持っている地域情報に市区町村別の地域コードを持たせていることである。一度だけ登録していただければ、あとは何度見てもその方が指定した住所が表示され、その住所に関連した地域情報が検索されてトップページが自動的に生成される仕組みになっている。リビング新聞が行っている、58のエリア版で全国共通の情報とともに各地域で異なる情報を載せる、ということをWeb上で実現している。現在は、約150万ページビューで、ユニークユーザー数は月5万人弱である。直近のリニューアル前にコミュニティを積んでいたときは600万ページビューに手が届きそうなときがあり、1,000万部も近いと思われた時もあったが、さすがにコミュニティを降ろすとページビューは落ちる。コミュニティサイトの場合は、何かしら発言したり人の発言を読むときには一人の人が何ページもページを繰る性質があるからで、単純な数字上のページビューを稼ためにはコミュニティは有効な手だてである。
「めーるリビング」は会員向けのメールマガジンで、現在3点で約50,000が実配信数である。

紙面サポートをするデジタルメディア
「えるこみ」の内容のひとつは、得するトピックスという全国共通ネタである。各地域ごとの情報は、エリア情報アラカルトとして提供している。これ以外に、プチレシピ、家計簿、おすすめチケット情報といった情報も提供している。読者参加型の投稿や投票といったコーナーも設けている。
なかなかもうからない「えるこみ」を4回もリニューアルしているのは徹底的に紙面サポートをするためである。
一つの使い方として応募ツールとしての使いかたがある。アサヒビールの「ハイリキ旬果搾り」というチューハイを200名にプレゼントすることの告知に対して、はがき、FAX、もしくは「えるこみ」上にある応募フォームでの応募をアピールした。結果として、約10%がWebで応募してきた。紙面で見た人がFAXで送る変わりにパソコンで応募したのかもしれないから、応募数を増やすのにどれだけ寄与できたかを判断することは難しいが、このようなチャンネルは無視できない形になっていくと思わせる事例である。
集計が簡便で早いので、最近ではこのような営業ニーズが増え、「えるこみ」への応募フォーム掲載依頼が増えている。30代、20代の人が主婦になって年齢が上がっていけば、こういった方法が普通のやり方になり、はがきなどは廃れていくと思われる。

逆転した紙とデジタル媒体の制作優先度
「リビング新聞」には「えるプラーザ」というコーナーがある。この部分は横書きだが、「えるこみ」を作るついでにつくっている紙面である。今までは紙面をつくるための情報を集めたりテキストを打ち、そのあまりや残りをWebに載せる感じだったが、現在の「えるプラーザ」は逆である。Webサイトをつくるためにデータベースに入力して、ついでに紙面にも掲載するという印にチェックを入れると、ダウンロードされる仕組みをつくっている。現在の縦書きの枠組みでは情報量が稼げない部分もあり、もっと量的なものが欲しいという要望に応じたものである。一緒につくれるので非常に利便性が高く、この方向をもっともっと推し進めていきたいと考えている。

レスポンスが高い職場OL対象の「Citywave」
「Citywave」は、シティリビングに連動するサイトだが、非常に強力なサイトである。現在約300万ページビューで、ユニークユーザー116,000人、会員数が10万人でメールマガジンを約7万配信できる。とにかくレスポンスが非常に良い。家庭の主婦と違ってほぼ100%PCの環境にある方々である。しかも常時接続環境にあるはずだから、昼休みや会社の終業のチャイムが鳴ったあと、今日はどこへ行こうかしらといった時にササッと見てアクションを起こせるサイトである。 「Citywave」ではDMを出している。オプトインメールだが反響が良く非常に効率的である。ネタはカルチャースクールのスクールイベントの参加募集告知等である。
N社のオプトインメールはNTTディレクトリと当社のシティWebの比率を出しているが、配信数が当社の21,000に対してN社は27,000、レスポンス数は当社が206でN社が222となっている。レスポンス比率は0.98%対0.8%だが、配信料金が当社の場合は440,000円、N社は1,264,000円だからレスポンス単価は2,136円対5,696円となり2.2〜2.3倍N社のほうが高くなっている。
「BMGファンハウス」が福山雅治のライブベストアルバムを出す時に、「シティリビング」でのPRを計画した。OLの生の声を集めた紙面展開をつくって、それを訴求していこうという企画だが、「Cityweb」のサイトとメールを使って生の声を迅速に集めて紙面を直ぐに作るというような活用ができる。ターゲットが明確に絞られているということで、「Cityweb」は伸び盛りのサイトである。
「@City」は、シティリビングの定期的なメールマガジンの名前である。プレオープンの食事に80組160人をご招待という告知を東京エリアで約2万人に配信した結果、二日間で2,000人の応募を獲得した。レスポンス比率10%で非常に高い。ヘッダー広告5行を使っただけである。

事業的にも期待できるチケット販売サイト
「e-あんふぁん」は、幼稚園向けのフリーペーパー「あんふぁん」とタイアップするサイトである。「チケットファン」は、いろいろな公演、興業のチケットを扱っている当社の事業部が、インターネットでのチャンネルとして使っているのが「チケットファン」である。「ぴあ」とは違ってオールジャンルではないが、2チャンネルでも「チケファンで取れるよ」といった書き込みが最近目立ち、徐々にファン層が増加している。携帯サイトもやりたいと思っているが、サーバーの負荷などの懸念もあるので慎重に対応しようと考えている。50万ページビューと地味だが、会員数は約15,000人おり事業的にも期待が持てるサイトである。

エリアと時間軸でコンテンツを切り替え
J-PHONEのJスカイステーションは、J-PHONEをお持ちでない方は全くしらない地味なサービスである。150文字程度のメールが携帯に届くサービスである。約2年前にスタートしたが、地域情報のコンテンツパートナーとして情報を提供している。ここでは、J-PHONEのステーション対応端末を持っている人が中野から新宿に移動しているときに、携帯が鳴って今新宿のアルタ前でやっているイベントの案内をしたり、新宿から渋谷に移動しているときに109でやっているバーゲンの情報を送るといったように、エリアと時間軸でコンテンツが切り替わっていく面白いサービスを提供している。
首都圏を24エリアに分けて、一日5〜7回、2〜3時間おきに内容を更新して配信している。夜9時からの最後の配信では毎日プレゼントを行っているが、翌日の朝8時で次の情報が入ってしまえば終わりである。サーバーのログを見ると、9時から9時半の30分間にサーバーが悲鳴をあげるほどのレスポンスがくる。携帯メールといったものの瞬発力のすごさが感じ取れる。

強力な携帯メールの威力
内容的には金券などが多いが食べ物系が強い。例えば、新宿中村屋のお菓子セットを5名に無料進呈という告知に対して1,793名のレスポンスがあり、そのうち女性が66.7%の約1,200名、男性が3割であった。応募者の平均年齢は女性が29.4歳、男性が30.9歳で、30歳前後の人がユーザーについてくれている。指名営業のサポートツールとしても機能し始めている。ただ一都三県の中に「えるインフォJ」がどれだけマイ登録してくれているかをどこのサーバーも読み取れないので、きちんと営業できるメディアに成り得ないところが苦しいところである。
電通とドコモが共同出資している会社にJ2Cがある。当社は、J2Cのi-modeの得するメニュー「モア&モア」にスタート時点からプレゼント告知を提供している。数千万台の母数をバックボーンにしているから、J-PHONEとは比較にならない強力なレスポンスが出る。カップめん1ケース20食入りのプレゼント提供に対して51,000の応募者があった。応募期間は1週間である。他の例でも応募数は4万〜5万ある。全国配信でとっても良い機能だが、あまりに強力過ぎることと対象が広すぎるので地域情報紙と組み合わせた商品化がなかなか難しい。

有料の問診サービスも提供
2000年6月29日に「Lモード」がスタートしたが、その時から「えるこみ」の内容を二つに分けて、「えるインフォ」という情報系サイトと「えるグルメ」というグルメ専門のサイトをLモードサイトとして運営している。
初期からNTTに口説かれてがっぷり四つでやってきている。「Lモード」の「L」は、リビングのLでありレディのLであり、家庭の中に情報が届くというのは「リビング新聞」とそっくりだと思いながら取り組んでいる。
このサイトでは、クーポンの発券やコンテンツをダウンロードすると、A4の印刷物のようなものがプリントアウトできる。FAXとの違いは、FAXはFAXボックスに置いておいてFAXで見にいってそれをプリントアウトするが、データのダウンロードではインターネットにつないだデータの形でダウンロードできるという利点がある。
当社の地域情報で切り分けてA4版のちょっとした読み物をつくって、現在実験としてテスト提供しているところである。
Lモードで「健康チャンネル」をやっているが、全国保健福祉情報システム開発協会という協会の問診システムを借りたタイアップだが有料のコンテンツである。

有効なショウウインドウとしての機能
以上のような活動を通して、デジタル系メディアの効果や問題点が明らかになってきている。 効果のひとつはインターネットのショーウィンドウとしての機能である。当社が発行する紙媒体のほとんどは当社が選んだところにのみ配布している。したがって、リビング新聞を知っている方と知らない方が非常にはっきりしている。しかし、不特定多数の方に配布するために新聞を増し刷りすれば当然コストが上がる。コストが上がれば、収入の95%を広告収入で賄っているフリーペーパーのビジネスモデルにおいては広告費に跳ね返ることになり結局成り立たなくなる。フリーペーパーの商売は、コストに見合う部数に押さえなければならないので、今一つメジャーになりきれない部分がある。
しかし、世界中に発信するインターネットを使えばショーウィンドウとしての機能を果たすことができる。ここ4,5年間のWebサイトを立ち上げての活動は、地域情報コンテンツホルダーとしてのアピールには非常に有効だった。サイトを見て、こんなに有益な地域情報があるならばぜひ当社とタイアップしてくれないかという話が、門前列を成すように並ぶこともあった。しかも、一流企業からの話である。

格段のレスポンスの量と速さ
現在、リビング新聞は発行日から逆算して2週間ほど前に原稿を締め切って輪転を回してつくっている。しかし、そのような長いスパンでは最近の早いプロモーションの足にはとてもついていけない。デジタルメディアは、紙媒体の限界を超える部分をフォローするという意味で非常に有意義に活用できる。

出始めた割り切り意識
社内的には、紙メディアに対して良い意味での割り切りができて、高コスト構造を打破できる機会になった。
新聞の文化は縦書きの文化だが、横書きで良いのではないかという話が社内から出てきた。クライアントの社名に使われている漢字がWebサイトでは表現できないので、そういうものについては普通の漢字を使えばいいのではないかといったことが、クライアントの方からも出始めている。新聞業界に古くからある「これでなければだめだ」といった意識の変革が会社の中で始まったという実感がある。いろいろな事にこだわることから高コストになるが、そのような従来の意識が打破されつつある。

難しい事業の黒字化
現在、慣れば一般社員にでも作業ができるWebサイトをつくって我々が運用しているが、インターネットについての概念的な説明、理解が難しい。分かる人は分かるが、分からない人は管理画面に触れてオペレーションはできるが、概念や理屈はよく分からないという問題がある。
現時点での大きな問題は、デジタル領域での活動は、開発、運用コストの問題があって単独事業/プロジェクトとしての収支黒字化が現状では難しいということである。
以上のような効果、問題点をもとにして、当社では、以下のようなビジョンを描いている。

プッシュメディアとしてのメールの活用
まずひとつは、メールなどによるプッシュ型展開を主軸にすえ、女性読者のさまざまなニーズに対して登録属性情報を活用することによってより深いコミュニケーションをしていきたいと考えている。J-PHONE、i-modeなど、メールで届けてプッシュしてレスポンスを期待するという手法が効果的と思われる。各家庭にポストインで配布しているリビング新聞に似ているからである。ポストインでの配布は、感覚的にはWebよりもメールでの情報配信に似ている。
今後のひとつのビジョンとして、ワンソースマルチユースも促進していきたい。地域情報データベースに入れたコンテンツの質と量をアップしながら、いろいろな情報出口に対応していこうということである。先に情報をデーターベースに入れて、その内容をいろいろなサイトで使ったり新聞に掲載するという話をしたが、それによって自動化が促進されて内部作業の比率がアップ、さらに今後は紙面製作の行程とより融合度が強まっていくのではないだろうか。そして、このことによって、デジタルメディアを紙のサポートだけではなく、生活者の情報接触機会拡大のためにフルに活用しやすくなっていくだろう。
今の若い人が高齢者になっていけば、IT的な素養を持った人が増えていくことになり、現時点では事業的に食い足りない部分があるが、このまま続けていけば必ずやリーチが広がっていくと思っている。

より進化したエージェント機能等の提供
当然のことだが、デジタル系メディアのコンテンツビジネスとしての可能性をさらに模索していく。情報を発信するという部分だけではなくコンテンツそのものを販売していくことである。情報をデータベースに貯めていけば、いろいろに活用することができる。すでにいくつかの実績があるが、テレマティックスといわれている自動車のナビゲーションシステムのような分野や、大手サイトと協業してお互い足りないところを補い合っていく分野はもっと深堀りしていきたいと考えている。
まだ研究を進めている段階だが、読者の利便性を高めるツールとしての活用促進も一つのビジョンとして挙げられる。ユーザーの指向やサイト内の回遊などに鑑みてお勧めをするレコメンド機能を果たすエンジンはすでに「えるこみ」に積んである。これを発展させて、ホテル等で近くの美味しい店に行きたいといったときに相談に乗ってくれるコンシェルジュのような機能を、地域生活情報において提供するサービスを提供していきたい。それをさらに進めれば、「えるこみ」のサイトに登録しておけばチケットが取れたり、興味のある情報を読者に代わって見つけて知らせる、あるは読者好みのスーツのバーゲンをやっているといった情報を伝えるエージェント的なこともできる。
現時点ではビジネスモデルに昇華させる余裕がないので、うちうちのメンバーによる企画会議で出ている程度の話だが視点としてはそのようなことまで見ているということである。

ポイントは何といってもコンテンツ
当社ではデジタルメディアにも相当足を突っ込んできたが、デジタルであろうと紙であろうと、行き着くところはやはりコンテンツの質ということに落ち着いてきいる。クーポンの話一つ取っても、ビール一杯サービスというクーポン券提供にどれだけの人がアクションを起こすかということである。どこのサイトに行っても同じビール一杯サービスをやっていれば、それは本当にクーポンなのか、というのがクーポンを長く商売として扱ってきた人間の感じ方である。本当の読者に対してきちんとした信頼感のもとにサービスをやるのであれば、我々がコンテンツをつくらなければならない。リビング新聞の読者にはワイン一本サービスというクーポンが付けば相当価値が高いし読者もついてくる。どこのサイトに行ってもどのメディアを見ても10%オフと出ていれば、正価はいくらなのかという話にもなりかねない。クーポンでも、もう少し質を上げた当社らしいクーポンのやり方、読者の利便性の出し方があるのではないかと考えている。それはデジタルか紙かということとは関係がないものである。

「JAGAT info2月号」より

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