本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

Certified PDFによる信頼性保証

11月のテキスト&グラフィックス研究会ミーティングでは,ソフトウェア・トゥーの川井浩司氏に,PDFの編集ツールのPitStopと新しい概念のCertified PDFについてお話を伺った。その中から概要を報告する。

使用用途に合わせたPDFの制作

 PDFは既に印刷分野にとどまらず,広い分野で活用されている。MacやWindowsというOS,アプリケーションならQuarkXPress,Illustrator,Word,PowerPoint,InDesignなど,様々な形で生成されている。しかし,PDFはデータ閲覧,Web開示,デザイン確認,印刷,プレゼンテーションなど使用用途によって作り方を変える必要がある。
 PDFのバージョンや,またトンボの有無や種類,塗り足しの設定,印刷の場合はRGBかCMYKのカラースペースや特色の扱い,フォントをエンベッドするか否か,画像の解像度もどうするか等々がある。通常は,最終目的に合致しない場合,作成アプリケーションに戻って修正をおこなうことになるが,たいへん手間がかかる。

PitStop Professional5.0

 Acrobat上で,PDFを直接編集・修正することができれば,編集アプリケーションに戻ることなく,PDFのクオリティを高めることができる。また,Acrobat上でPDFをプリフライトする機能があれば,プリント用のPDFとして適正か容易に確認することができる。Enfocus社のPitStop Professional5.0は,そういった機能を持ち,完成度の高いPDF作成が可能になる。

 PitStopの第1の特徴は,Acrobatのプラグインとして動作することで,Acrobat上でPDFを確認し,その場で編集できる。
 第2は,オブジェクト編集である。例えば,色では特色,CMYK,RGBそれぞれのカラースペース(色空間)を変えられる。ほかにオブジェクトの位置,サイズの変更,フォントの変更も可能である。フォント変更にはエンベッドする,サブセットを埋め込む等のオプションもある。線幅やページサイズそのものを変更することもできる。
 また,PitStopでは,グローバル変更が可能である。例えば50ページのドキュメントがあるとき,ページ単位もしくはドキュメント全体に対して一括して変更を行いたいというときに便利な機能である。

 アクションリストという機能があり,ドキュメントに対して何らかの条件のオブジェクトに対してのみ,変更をおこなうことができる。例えばCMYKがある状態のものだけを違う状態にするとか,複数の編集作業を1つのリストにして自動化して実行する機能である。これによって,複数ページに対して1つ1つやらなければならないことを,ドキュメントに対して一括して編集することができる。

 そのほかにプリフライト機能がある。プリフライトをおこなう場合,事前に幾つかの条件設定をおこなう。PDFの使用目的により,プリフライトの条件設定を変える事ができる。例えば印刷用のプリフライトの条件と合致させるようにとか,次のフェーズではCD-ROMプレス用のプリフライトの条件と合致させるように等,条件設定を複数用意できる。

Certified PDF

 Certified PDFとは新しい概念で,通常のPDFに管理情報を付加したものである。PitStopというプラグインを使うと,1つのファイルの中に管理情報も含めたPDFを作ることができる。
 Certifiedは日本語で言うと「保証された,証明されている」という意味である。
Certified PDFではPDFの格好をしているが,その裏にいろいろな付加情報,ドキュメント情報を持たせている。プロファイル情報,プリフライトレポート,編集ログ,オリジナルドキュメントの情報。そしてロールバックメカニズムがある。ロールバックとは,戻れるということである。

 プロファイル情報は,文書フォーマット・セキュリティ・プロセスカラー・フォントその他,30項目ほどある。また,PDFを編集した経緯を要所要所で区切り,セッションという単位でその経緯を記録している。例えば,編集の途中でフライトチェックをかけると,そこで一度セッションを区切って,そこまでの編集内容やプリフライトのレポートなどをセッションごとに束ねる。  オリジナルドキュメントという情報があり,PDFを生成した元ドキュメントのことで,QuarkXPressの何というファイルだったということが,PDFの中に書き込まれている。
 プリフライトレポートでは,ドキュメントに対するエラー情報及び警告が出る。どういうことをエラーにするか,警告にするかは別に設定できるが,それに合わせた結果報告とプロファイル情報を出すことができる。フォント情報ではすべてのフォントが記載されて,なおかつエンベッドの有無も記載される。カラー情報は,カラースペースがどういう状況になっているか等である。画像情報では,画像の解像度が設定した条件を満たしているかどうかといった情報も含めて記載される。

 編集ログもCertified PDFに含まれる。使われたプリフライトプロファイル,またセッションごとの修正内容のログが取れる。例えばセッション1のものと今編集中のものを比較して,違いがどこかを画面表示することができる。
 編集前の状態に戻したい場合とか,今まで作業をやってきて,オリジナルドキュメントから数えてセッションを6回やっているが,少し方向性を間違えた,編集方法の出だしからつまづいて,違う方向に向かって編集してしまったという場合があるだろう。例えば印刷向けにPDFを編集していたが,実はWeb用が必要だったというケースがある。CMYKにすべて画像を揃えたりカラースペースを揃えたりしていたが,実はRGBで良かった。どんどんPDF自体を編集して更新してしまった。こういう場合,Certified PDFは編集前の情報もすべて管理しているので,作り始めの状態まで戻って,その状態のPDFを再度作ることもできる。

 PitStopを使ってCertified PDFの中でどんどん編集しても,どんな時期にでも戻ることができる。PDFそのものがCertified PDFということで通常のPDFに比べるとドキュメント情報や履歴情報を持っているので,容量は若干大きくなるが,運用上,非常に使いやすい。何かあっても元に戻れるという,非常に便宜性の高いPDFである。
 フライトチェックを通過することによって,PDFの信頼性が向上する。Certified PDFという概念により,履歴を管理できたり,フライトチェックの内容が把握できるし,編集前の状態に戻ることも可能である。

 このように,PDFをワークフローのボトルネックにすることによって,前工程,後工程の作業の均一化を図ることができる。PitStopというツールを使うことで,より完全なPDFデータ作成を支援できるだろう。

JAGAT info「2月号」より

2003/02/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会