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デジタル化が進んだこの10年間で起こった格差

2003年の新年の挨拶を通して感じることは、日本の景気がこれから回復したとしても、印刷界の景気は戻らないと皆が考えるようになったことだ。景気を何とかしろといいう掛け声も、印刷料金を元に戻そうというような勇ましい声も聞かれなくなった。それは電子政府の進行にも象徴的なように、IT革命でメディアとか情報の環境が大きく変わってしまうことが明らかになったからだ。

ではこれから我々は何に立ち向かっていかなければならないのか。それを求めて「見つけよう、グラフィックビジネスの明日」をテーマにしたPAGE2003が開催される。この手がかりは相当はっきり見えるようになってきた。デジタル化が進んだこの10年間で印刷業界の中には多様化が起こったが、その中の1%くらいは先進的な企業が登場した。我々も毎年いろいろなアンケートを行うが、売上の半分が電子メディアの業務という会社の回答がポロポロ混じるようになって驚いている。

この10年間は大方の印刷会社はDTPに代表されるように制作のデジタル化を積極的に進めてきて、そのデジタル化は今日CTPの導入が盛んになったように、行き着くところにきた。しかしこのデジタル化が将来のビジネスにつながるような質的なメリットを獲得している会社はほんの少ししかない。一般には印刷業界はIT化しても利益が出ないままである。つまり問題はデジタル化率とかではなく、むしろ以前からあった「1字いくら、1ページいくら、1枚いくら」のビジネスから抜け出ることが最大のテーマなのである。

大きくビジネスモデルの視点を変えた典型的な動きはクロスメディアである。従来は紙に印刷するためにコンテンツを加工していてもビジネスになったのは、出力媒体が印刷しかなかったからである。今必要なのはデータを効率的に処理する仕組みを持つことであり、具体的にはXMLへの取り組みが焦点になっている。上記の業界の1%のところでは、XMLからクロスメディアに展開することを巧妙に行うノウハウがその会社の資産であり、それを探りながらコンテンツの加工で利益を出すような戦略を立てる会社がある。

従来から持っていたグラフィックスのノウハウに関しては、それを従来の印刷だけではなく、これからさらに多様化が進むデジタルプリンティングにもっと活用することが大きな戦略になっている。またプリントされたモノの価値だけでなくサービスの価値を売り物にするようなビジネスへの切り替えも同時に模索されている。
Webでのショッピングというのは、24時間無人で注文の受付ができるので、家賃も人件費もかからずに既存ビジネスの拡張ができる。IT化が進むことによって、このように電子メディアを単なる紙の置き換えではなく、Webというメディアをビジネスのソリューションにしていくような視点が重要になっている。別にECでなくても、顧客ニーズへの細かいサポートやアフターサービスなどいろいろな展開が起こりつつある。

紙ベースの仕事でもITを駆使すればサービスがスピーディーになるとか、タイミングよく提供できる。タイミングの良さが売り物になれば、パッキングなどのフルフィルメントや在庫管理などへとサービス価値を高めることにビジネスの主眼をシフトすることができる。クロスメディア、デジタルプリンティング、いずれもITに大いに関係している。結論は、ITを利用して印刷を含めたソリューションの拡大をすることで、これは印刷産業の長期的な戦略になりつつある。すなわちこれはeビジネスのことである。

しかしそのeビジネスをするための土台を作ることが現実には印刷会社の最大の課題なのだ。今まではデジタルコンテンツを加工するために技術の習得してきたが、それらを使ってソリューションをするためのノウハウを身に付けなければならない。「紺屋の白袴」はITには通用しないので、まず社内にITのインフラを作って、自分のビジネスプロセスのソリューションをすることが先決で、従来の印刷業では弱いところであった管理情報システム(MIS)を確立しなければならない。

そうすると印刷の業務プロセスの問題点も次第に明らかになってくる。その改善の方法もIT時代だから自ずと決まっている。つまり実際に仕事をしている、営業から現場までの部署をネットワークでつないで、仕事に必要なデータがうまく流れていくようにすることである。言い換えると、我々の体の中にはどこも血管があって隅々まで血がゆき巡り神経が通っているように、企業の中においてもあらゆる業務の隅々までデジタルデータが行き交うように印刷企業のインフラを作らなければならない。印刷のビジネスの中にデジタルストリームを作るということは、今回のPAGE2003におけるMIS/CIM ZONEの最大の見どころにもなっている。

2003/01/22 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会