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これからのシステム化の内容と期待される成果

ME化から始まったデジタル時代の自動化

作業者が直接操作して調整するのが当り前であったインキツボキー調整は、1980年代前半に手元の表示に基づいて数字的に調整する遠隔操作が可能になった。1980年代後半には、出来上がった版面の画像を光学的に読み取ってインキーの配列に沿って画像面積を計算、各キーの開度調整ができるシステムが使われるようになった。このころには、印刷機の各種コントロールがME(Micro Electronics)、つまりコンピュータを使ったものになって、デジタルデータで行われるようになってきた。
1990年代後半に入ってプリプレスのフルデジタル化が進み、ページ毎のデジタルデータを面付けし、そのデータでのフィルム出力あるいはCTP(Computer to Plate)出力が可能になった。したがって、刷版の画像部のスキャニングで得ていたインキキー調整データの替わりにプリプレスの面付けデータを通信回線を通して送れば、画像面積読取り装置も測定の手間もなしにインキキー調整が自動的にできるようになった。

デジタル時代の自動化の要素と現状

以上に、敢えて既知のことを書いたのは、デジタル時代の自動化は、@生産設備がデジタルデータでコントロールできるものであること(デジタル化)、Aデジタルデータを通信回線を通じて各設備間で流通させて有効に活用する(ネットワーク化)、という2つの要素によって成り立っているということを確認するためである。
この2つの要素に関して現在の印刷業界の状況を見ると、主要設備のほとんどは上記の意味でデジタル化されている。印刷機械では、インキキーに限らずほとんどのコントロールがデジタル化されているし、製本加工機もコンピュータを使った各種コントロールが一般的になっている。DTPはコンピュータそのものであり、文字、図形、画像といった各表現要素自体、その属性(書体、色等)、レイアウト情報など、全ての情報がデジタルデータになっている。
ネットワーク化については、技術的な意味で印刷業固有の大きな障害は見当たらないから、他業界と同じレベルの利用に格別の問題はない。

さらなる自動化の可能性

面付けされたCTP用のデータには、画像面積の情報だけでなく、トンボ位置に関するデータ、ページサイズに関するデータなど、自動化のために使い得る多くのデータが含まれている。したがって、プリプレス、印刷、後加工の主要設備の間でデジタルデータを流通させてインキキーの調整を自動化するのと同様の自動化を、もっと多くの部分で実現することが可能である。
これがJDFをベースとした新しいシステム化が急速に進められようとしている技術的背景である。しかしそこでは、いままでとは異なる仕組みが考えられている。

生産システムと管理システムの統合化の意味

生産をスムースに進めるためには、各部署での作業、設備の稼動に必要な情報(いつ、誰が、何を、どのように作るのかという情報)を、ひとつのセットとしてまとめ、必要なところに必要なタイミングで提供しなければならない。それが製造指示であり、的確な製造指示を出すことが工程管理の主要機能である。
一方、生産現場では、与えられた製造指示に従って生産設備を操作、稼動させる。このとき、設備の各調整部分の調整作業に必要な直接的な情報(インキキー開度調整では、各キーに対応する位置における版面のインキ必要量)が与えられなければ、作業者自らが持っている情報(経験値)で補って適切な調整を行うことになる。

ここで折機の調整を自動化することを考えてみよう。折機各部の調整作業は折仕様、印刷用紙サイズ、面付け状況、ページサイズ等の複数の情報に基づいて行われる。これらの情報は、受注段階で販売管理システムに入力されたり、用紙手配の段階で工程管理担当者が発生する、あるはDTP作業の結果として生成されるといったものである。必要な情報が発生する場所、時期はバラバラである。したがって、インキキー調整と同じような形で折機各部の調整を自動化するためには、これらのデジタルデータを通信回線を通じてひとつのセットとしてまとめ、これをコンピュータコントロールの折機に与えることを自動的に行うことが必要になる。

新しいシステム化は管理業務も自動化する

つまり、折機の自動調整をするということは、工程管理業務として行われていた情報のハンドリングの一部(ここでは、製造指示業務)を自動化し、それを設備に直接与えるようにしなければならないということである。
その一つの方法として、生産システムと経営管理のコンピュータシステム(MIS:管理情報システム)を通信回線で繋げ、それぞれが持つデータを縦横に流通させて有効に利用するシステムを作ることが考えられる。いわゆるコンピュータ統合システム(MIS:Management Information System)である。

既に述べたように、主要な生産設備はデジタル化されているし、管理情報システムはデジタルデータそのものを扱っているから、そのようなシステム構築の基本条件は満たされている。ただし、異なるコンピュータ間でのデータ交換とバラバラに発生する情報をひとつのセットとして必要なところに提供することができる仕組みが必要になる。そのような仕組みを持つ具体的なコンピュータ統合システムとして具体的に提案されているのがJDF(Job Diffinition Format)をベースとしたシステムである。

どこまでも広がるコンピュータネットワーク

工程管理業務の重要な部分として、どの設備でどの仕事が処理されているか、あるいは各部署、生産設備の負荷状況に関する情報を捉え、日程計画、製造指示にフィードバックすることがある。進捗管理である。
JDFをベースとしたシステムでは、生産設備の進捗状況をリアルタイムで管理情報システムに伝えることもできる。例えば、折機の稼動状況を示すデータは、折機そのものから電気信号を取り出してそれを通信回線を通じて工程管理のコンピュータに直接送ることができる。もちろん、このような信号を取れる機能を持った折機でなければできない、ということは言うまでもない。
このデータを受け取った工程管理のコンピュータは各機械の稼動状況とともに現在どのような仕事が行われているかという情報を担当者に提供する。アプリケーションの作り方によっては日程計画に直接反映させることもできるだろう。いずれにしても、この間、担当者の入力作業といった人の介入なしで行うことが可能である。進捗管理の自動化である。 また、同じデータは原価管理のコンピュータで機械毎の稼動率や一品毎の事後原価を計算するのにも使うこともできる。さらに、その結果が販売管理のコンピュータに送られ、見積もりあるいは請求金額のデータと付け合わせられれば、一品毎の利益を把握することもできる。
デジタルデータは通信回線を通っていろいろな役割を果たすコンピュータの間を縦横に行き来し、人手を介すことなく機械を動かしたり有用な情報を次々に生み出すことができる。そのネットワークは、得意先、協力工場を含めてどこまでも広げていくことが可能である。

期待できる大きな効果

以上のように、生産システムと管理情報システムを通信回線で繋げたコンピュータ統合システムでは、デジタル化、ネットワーク化以前の自動化に比べて、格段に広い範囲、異質な部分でより複雑な処理を要する自動化を可能にする。したがって、その成果として、個々の生産設備の自動化とは比べ物にならない大きなものが期待できるはずである。
一方、印刷業を取り巻く環境を考えれば、さらなる短納期、低価格が求められるとともに、厳しさを増す経営環境の中で経営管理の水準を上げていくことが不可欠である。各生産工程あるいは生産設備の自動化がほぼ飽和点に達しつつある現在、上記のようなコンピュータ統合システムが、印刷業の今後の経営課題への有力な対応手段となり得ると考えるのは当然であろう。しかも、システム構築の基本条件は既に満たされている。
コンピュータ統合システム化に向けた動きが急速に大きな流れになってきた。

いまから始めて早過ぎることはない

以上で述べたJDFをベースとした新しいシステムを構成する製品は、2004年のドルッパに向けて順次発表されるようである。したがって、本格的な普及にはまだ時間が掛かるだろうが、いまの時点でわれわれが認識しておかなければならないことを以下に箇条書きにした。
@ CIM化の基本的要素は既に整っているので、従来以上に早いスピードで広範囲に実現し得る。
A実現の範囲とスピードは、技術的要素より各社の管理水準や商習慣といった要素によって大きく左右される。
B したがって、CIM化の実現度においては、プリプレスのフルデジタル化において見られた以上に大きな企業間格差が生まれると想定される。
C 全体のシステムの実現は相当先になるが、新しいシステムでは管理情報システムが大きな役割を果たすことになる。このことを念頭において自社の管理情報システムを進化させていくことは、投資に見合う成果を得ながら目指すシステム化の体制を作ることにもなる。逆に上記Aのようなことが絡んでくるので、その準備は今から始めて決して早過ぎるということはない。

(「JAGAT info 2003年2月号」より)

上記に関わるテーマについて、PAGE2003のコンファレンスでは「MISトラック」、展示ではMIS/CIM ZONEを設けて、印刷業が目指すCIMの全体像、今実現している具体的なシステム、さらに経営管理システムが果たすべき役割や各種システムを紹介する。
CIM/MIS ZONEでは、これらに関する解説記事を掲載した小冊子を配布、さらに無料セミナーも開催する。

2003/01/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会