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代表的利益管理方式それぞれの得失

同業者間の安値競争、顧客からの低価格要求が続く中で、印刷業も、もうどんぶり勘定ではやってい行けなくなってきた。この数年、利益管理への関心は非常に高くなってきている。利益管理といってもいろいろな方式が考えられて採用されているが、印刷業界で使われているものは大別して2種類になる。

一つは、売上高から実際製造原価を差し引いて粗利益を出す方式である。印刷業界で最も広く採用されてきた方式である。出された数字はその仕事によって生み出された粗利益の意味を持つ。損益計算書の売上総利益に対応するものだからわかりやすい。しかし、この方式で問題とされる点が2つある。
一つは、実際製造原価として算出される数字が本当に「実際」の原価と言えるものかという点である。それは、1点1点の実際製造原価として出された数字を全て足したら決算資料の製造原価と同じになるかと言い換えることができるが、同じになる会社は皆無といっていいだろう。現実的に不可能なぐらい掛かった費用を詳細に算出して積み上げても、稼動率、不稼動率は常に変化しているからアワーコストは一定ではない。より現実に近いアワーコストを使うために月単位での平均実績アワーコストを出して使う方法があるが、月の中でも週単位、日単位で見ればやはり異なっているはずである。
したがって、このような数字と売上との差し引きをして出した粗利益をもって、1点ごとの利益状況を正しく把握下とは言えないのではないかという批判がなされる。

もう一つの問題は、売値も原価もさまざま理由で変わるから、粗利が少ないといったときに、売値が低かったのか原価が高かったのかの判断がつきにくいということがある。 どの印刷会社でも、同一の物を作る時に同じ人が同じ設備、同じ材料を使ったとしても、同じ能率でできることはない。アワーコストの問題が無くても、実際製造原価は程度の差こそあれ必ず違う。それはそれ自体として問題なのだが、少なくとも現在の印刷技術を使う限り現実として認めざるを得ない。
売値もまた、標準料金表があったとしてもさまざまな理由で変わる。校正段階での直しの程度等が典型的である。標準料金表はそれなりの括り方をして作らざるを得ないから、細部の仕様の違いをどう判断するかによって、料金表のどの数字(たとえば難易度)を使うかが違うことになる。顧客との関係、その時々の状況に応じて営業マンの恣意的判断を入れるのは当然である。実際の売値はそのようなものである。

粗利が少ない理由として売値が不当に低かったのか製造原価が不当に高かったのかは、一つの仕事について丹念に内容を調べれば明らかになるかもしれない。しかし、例えば月例の幹部会で会社全体の粗利が少ないといったときに、それは何故かを探るためにいちいち個別の仕事を調べることなどはしないし現実的にはできない。したがって、どうしたら粗利益を下げないようにできるかの方針さえ得ることができない。営業は安値でとるな、現場はコストダウンに努めろということを繰り返していう以外に何もできない。
以上のような問題が指摘される方式だが、製造業一般で普通に使われているのもこの方式である。印刷業での採用に問題が出るのは方式自体が持つ欠陥ではなく、印刷物生産がいかに標準化されていないかを示している。

そこで、1品別の利益把握をする方式として、売上と実際製造原価の間に何らかの標準を置いて見る方式がある。この方式で使う標準にはいろいろな数字が考えられるが、標準製造原価に製造部門が出すべき利益を上乗せした社内仕切価格を使うのが一つの考え方である。それは、1品別の粗利益そのものを把握することよりも、営業の受注価格の妥当性をチェックすることと、営業部門、製造各部門の部門別利益管理(各部門の期間単位での利益状況把握と利益目標に対する実績対比)を重視するからである。

この方式において、売上―社内仕切価格という算式で得られる数字の大小は、営業部門が出した粗利益である。この粗利益は営業の売値の高さによって一義的に決まる、つまり、営業の売値の高低を明確に把握できるものである。社内仕切価格は、仕様毎に決められた標準であり、実際製造原価が高い低いに関わらず適用され、当然のことながら全ての営業マンに同じ価格が適用されるからである。
したがって、売上に対する営業の粗利益の比率を見ると、売値が本来の価格よりも高かったのか低かったのかが明確に判定できる。これが、この方式の第一の特長である。
ただし、1品別の利益把握をするためには、その品物の生産によって生産現場が出した粗利益を算出して営業の粗利益に加算しなければならない。

社内仕切価格とは、営業が現場から仕入れる「仕入れ値段」という意味があるが、それは、現場から見ると営業に売る値段、あるいは営業に対して売った「売上高」という意味になる。したがって、この仕切価格から実際製造原価を差し引いた数字は生産現場が生み出した利益である。この利益は粗利益ではなく、意味としては会社全体でいうところの営業利益に相当するものである。何故ならば、実際製造原価には労務費や工場経費が含まれるからである。したがって、営業の粗利益に上記のようにして出された工場の利益数字を加算した数字は、意味的にはすっきりしないものになる。
そのようなことより、第一の方式のところで説明した実際製造原価を使うことになるから、工場の利益として出される数字の意味にどれだけの精度があるのかという批判が出される。

したがって、そのような手間を掛けてまで1品別の利益を出すのは意味が薄いとして、1品別については売値の妥当性を判断するために営業の粗利益を出すだけに止めておく、という考え方がある。この場合、生産各部門の利益状況は、月単位での社内仕切価格の合計値を売上とし、部門全体の原価合計(実際に支払った給与等の数字を用いる)との差で見ていく。このようにして出される生産部門の利益は、原価して使う数字が決算資料に使われる数字に基づいているので正確な利益数字として見ることができる。
営業部門についても、月単位で、人件費、その他販売管理費等を出して、その月の営業粗利益合計から差し引けば営業部門が出した利益を計算できる。そして、生産部門と営業部門の利益を合算すれば月単位での会社全体の利益を相当正確に把握できることになる。
しかし、このやり方は、1品毎の利益状況を重視する考え方の企業では受け入れがたいものである。

いずれにしても、何らかの標準値を使う方式の最大の問題は、その標準値の妥当性に尽きる。営業にしてみると、この標準値に基づいて売値の妥当性が評価されるからである。 一方、外注値段と社内仕切価格を比べたときに外注値段が安ければ、営業としては当然外注に出したくなるが、それは会社全体として見たときに必ずしも良いということにはならない。

そのようにシビアに見られる標準値を決めるのも一苦労である。自社の標準原価を出すこと自体が大変な作業である。しかも、それが正確だからといって、それをそのまま基準として使うことが妥当だとは限らない。その会社の生産性が低くて標準製造原価がかなり高いものであれば、営業の努力があっても競争力を失うからである。出した数字をそのまま使うかどうかを判断する別の客観的な根拠などあり得ないから、必ず恣意的な判断をしなければならない。
しかし、この点については恣意的だからいけないということはない。上記で述べたような使い方をされる標準だから、その値は価格政策、合理化目標の基準を提示する性格を持つものである。したがって、もともと経営者の大きな方針を反映して決められるべきものだからである。

以上、長々と代表的な利益管理方式の比較のようなことを書いたのは、その優劣を論じるためではない。

ひとつの理由は、これから利益管理をしていこう、あるいは現在の方式を見直そうとしている企業の方々に参考にしてもらえれば、ということである。上記の文書だけでシステム構築の具体的なお役に立てていただけるとはもちろん思っていないが、方式選択の参考ぐらいにはしていただけるのではないかと思う。

もう一つの理由は、管理の方式、手法にはそれぞれに得失があり、細部になればなるほど意見が分かれる部分が多くなるのが常だが、その優劣評価は結局経営者の考え方次第で異なるという、当たり前のことを言いたかったためである。しかしそれは、経営者の基本的な方針の提示と最終判断がないと、時間と手間ばかり掛かけた挙句に、ちぐはぐで有効に使えるシステムができなくなるということでもある。

JAGATが実施し、本ページでも紹介したアンケートによれば、経営管理のコンピュータシステムを使ったが効果が出なかった分野として、原価管理や工程管理が挙げられていた。システムを運用して効果があったと言う企業のほとんどは自社開発あるいは特注ソフトを使っているが、一方、効果が無かったと回答した企業の過半数以上が自社開発あるいは特注ソフトを使っている。つまり、システムの有効性は、パッケージか自社開発かということではないということが、経営者の関与の問題を示すひとつの事実ではないだろうか。

上記記事に関連するセミナー「利益を管理出きる会社が生き残る」を1月28日(火)に開催する。

MISページ
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2003/01/23 00:00:00


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