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出版コンテンツのブロードバンド展開の秘訣

株式会社ウェブプログレッシブ 佐々木裕一郎氏

ウェブプログレッシブは、出版社がインターネット上へ市場を、どのように作っていくかをテーマに、小学館とNECが共同出資して設立した。現在、小学館のコンテンツを利用してオリジナルサイトを構築、その制作運営、さらにインターネット上でキャラクターを育てる仕組みの構築をしている。

ブロードバンド時代のビジネスでは、インターネットというコンテンツ提供者と利用者が双方向に結ばれる、メディア特性を生かして、サイト来訪者・顧客をどのように「ファン」に変えていくかというテーマがある。ウェブプログレッシブでは、ドリームズ・カム・トゥルー(以下ドリカム)という音楽アーティストのファンサイトのプロデュース・制作を行ったり、エポック社のシルバニアファミリーというキャラクターサイトのプロデュース・制作を行っている。

IT時代の出版社の取り組み

出版コンテンツは、雑誌、書籍、図鑑などの種類がある。出版社のこれまでのインターネットへの取り組みは大きく4つある。

第1は、テキストの画像情報の再編集、再活用である。これはいわゆるワンソース、マルチユースといわれている。辞書、年鑑、図鑑などは編集、制作に時間がかかる割に一度発行したらある意味寿命が終わる。こういったものは、インターネットの検索性の意味からも、アーカイブとして配信を行っている。

第2は、紙メディアの誌面と連動することである。たとえば、媒体そのものの売部数が作家の成功如何で決まってしまう。しかし、実際の紙媒体では、その構成上、作品を掲載するページが確保できない。そこで共通のブランドを持つインターネット上でのマーケティングテストをかねた情報の配信をする。また、そこにアクセスするユーザーのプロファイルを備蓄し、新しい紙媒体のマーケティングをおこなう。

第3は、インターネットコンテンツへ特化・限定した形で、画像・映像の有料配信を行っている。たとえばグラビア写真集を動画編集ソフトを使用したアニメーションに編集したり、撮影風景をビデオ撮影しドキュメント映像化する、写真集に掲載できなかった撮りおろし画像などを、ISP会員向けなどに有料で販売する。

第4は、情報データとユーザーニーズのマッチングである。リクルートが進学、就職、旅行などの情報とユーザーニーズをうまくマッチングさせて、イサイズ、リクナビ、というB to B for Cビジネスを行っている。

出版社のマーケティング

既存のマーケティングは、いわゆるAIDMAがあり、知覚から行動へ、どうやって落としていくかについては紙メディアはすでに持っている。インターネットのマーケティングでは、顧客になってから拡大購買、成長購買、毎年一定の購買を行うという仕組みをどのように作るかという、ユーザーをファンとしてつなぎ止める工夫が必要であり、本来メディアが持つ意味のとおり、ユーザーへ直接的にコマーシャルとコンテンツを、最適化した形(中間物=メディア)で供給することをビジネスとして考えており、ウェブプログレッシブではそれを目標としている。以上の4つは、ビジネスモデルとして考えてみると次の3つに絞られる。

第1は、誌面と連動した形での広告の販売でバナー収益とかタイアップ広告をサイトの単位面積で販売していくというものである。第2は、出版社側がISPやチャネルに向けて作ったコンテンツをスポンサードという形式で買ってもらうというコンテンツ販売。第3は、BtoCは情報データとして画像や、文章を直接お客さまへ販売するビジネスモデルである。成功したモデルとは、確実にユーザーを集めた形でサイトを作っり、そこで広告料を取ってビジネスになるもの、もしくはインターネットでしか見られない付加価値を有料で提供し、その視聴率が獲得できたもののみである。

ブロードバンドと既存メディアの違い

本と雑誌というのはもともと究極のモバイルである。「いつでも、どこでも、だれでも、好きな時間に、高速に情報が取り出せ、しかも、ある特有の操作が必要となる」というWebサイトの利点・弱点を既存の紙メディアと、どう融合あるいはすみ分けていくのかが最大の課題である。

本にしても、テレビにしても、ラジオにしても、これらの利用者は、一日のある一定時間を拘束して集中して楽しむというものであると言える。そういう点ではインターネットは制限がないので、ある見方をすれば気に入った時間に必用な情報へアクセスできることは、便利だと考えることができるかもしれない。

しかしながら、一方でユーザー目線という観点から、時間的な制限がないのからこそ、集中して楽しむ工夫をどう求めるのか?こういった点を整理していかないと、情報としてのアーカイブとは別の、コンテンツとしての価値がないものになってしまうと考える。

ブロードバンドで大容量のデータがやり取りできるようになったおかげで、表現力の向上や、機能の向上が必然的に求められるようになった。その変わりさまざまな技術を駆使してコンテンツを作りこまなければいけなくなった。

そして、データベース機能としてコミュニティスペースを拡充してBBS、グリーティングカード、会員のセキュリティなども必要になってくる。ECにおいては、課金回収、物流、クレジットカードやコンビニ支払い、ISP決済などの機能が拡充されていかないと市場的にも見劣りしてしまうという懸案もある。そのテクノロジーを表現できるデザイナーやプログラマーを育てたり、データベース、ECが分かるエンジニアを育てたりという人的な投資、さらにインフラ面のでは回線、キャパシティ、システムなどのテクノロジーへの追加投資が必要になってくる。

このような投資に見合うビジネス展開をまじめに考えると、どういうモデルを構築し、そして運営していかなければならないのかというところに必然的に辿りつく。

事業化のポイント

ウェブプログレッシブが請け負うサイトは、ドリカム、小学館のコンテンツ、おもちゃメーカーなどである。投資リスクを少なくしながらどれだけお客様を呼ぶか、利便性を向上させながらどのようにコンテンツを作るかと模索しながら循環型のビジネスモデルというものを作れないかどうかを試みている。出版社やコンテンツを作る側が、どのようなパートナーと資本を集め、事業展開していくのか。どのチャネルを選択するとコンテンツに対する的確なマーケティングが出来上がるのか。顧客接点、いわゆるコマースの部分では、何回買い物をするのか、何回課金ができるのかという仕組みを考える。

遊びやもてなしの部分を増やしてユーザーの参加意識を高めていくといったようなアイデンティティのあるコンテンツでユーザーをファンへ変えていくというところがないと、それは一過性のサイトになってしまう。もちろんそれはそれでイベント的な要素を持つサイトではいいと思うが、長い目でみたビジネスを作っていくのならそのときどきにマッチしたパートナーを選択していくことが重要になる。

今後の課題

出版はブロードバンドでますますデジタル化していくところがあると思うが、手触り感があるものが売れていくという考えを大事にしたい。ユーザーの注目を集めることが販売促進になってくるが、それらをどうやってコントロールしていくかが、ウェブプログレッシブが考えるブロードバンドのビジネス展開の大きな柱になってくると思う。

出版社がブロードバンドでコンテンツを出した場合、たとえばブロードバンドで漫画を見たらツつまんないというイメージを作ってしまったら漫画のビジネスというものが下手したら死んでしまうかもしれない。そういった取り組みを否定されない形で、どのようにしてユーザーに着地させていくのかがもうひとつ大きな課題になると考えている。

2002/11/26 CM研究会拡大ミーティング 「ブロードバンド時代のWeb製作」の佐々木氏講演「出版コンテンツのブロードバンド展開」より抜粋

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