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共通の話題が減り、独自色が強まる印刷ビジネス

従来は、サンシャインのコンベンション施設のABCD全ホールを使用して開催していたPAGE展示会であるが、今年はIGASの年でもあり従来の大手プリプレスベンダがPAGEをパスしたためにAホールは使用せずにBCDホールだけで行われた。そのために3日間の延べ来場者数は61210人と、前回に比べて15%少なくなったが、むしろ1小間あたりの来場者数は前回の50%増しになるほど密度の高いものとなった。またカンファレンス・セミナー、ジョイントイベント、プレゼンセミナーなども例年以上に賑わい、全体として来場者に高齢者が減った印象が強かった。業界の若い血が騒いだとすると、今回PAGEの位置づけを再定義したことがよい結果をもたらしたといえる。

課題は経営判断

グラフィックアーツのどこの現場にもデジタルの作業をしている人はいるようになったので、その管理者たちがいろいろな問題意識を持って新たなテーマに立ち向かおうとしている姿がPAGEでも見受けられる。参加者の階層は従来のプリプレス業界に限らずに、印刷の周辺の産業や一般企業の中のグラフィックス担当部署など広がりつつあり、まさにグラフィックアーツ業界としかいいようがないように思える。このことは逆に従来の印刷業界の大多数が一斉に振り向くようなテーマがないことでもある。

印刷業界の共通テーマはCTPで終わりだったのかもしれない。カラーマネジメントはプルーフやデジタルカメラとの関連で非常に熱心になった印刷会社がある一方で、まったく無頓着なところもある。XMLも同じような状態で、すでに自社のセールスポイントにしている一部の会社以外は、やっと取り組むべきだというムードが盛り上がり始めた段階のようにみえる。今回はXMLのプレゼンテーションセミナーには随分と人が集まるようになったが、電算写植の時代に文字情報処理を行っていた会社がすべてXMLに関心をもっているわけではない。

CIP3/CIP4・JDFに至っては利用者だけでなく機器メーカーでもごく一部のところしか熱心ではない。メーカーがどのように印刷会社にアピールすべきか決断しかねているようなところがあり、その結果は印刷機を置いているところなら、これから何年かのうちにどこでも取り組まざるを得なくなることは目に見えているのに、ほんの一部の会社を除いて関心が低い。でも業者が何もかもすべてに関心を持たなければならないといっているのではなく、例えば実際には、デジタルカメラ対応に追われているところも、まだ関係ないところもあるわけで、カラーマネジメントへの取り組みの優先順位が会社によって異なっても不思議はない。

だからいろんな新たな技術対応をするにあたって、従来のどこでも同じ横並びの時のようなやり方、つまり経営者が「おい、お前、行って勉強して来い!」みたいな、現場が勝手になんとなく勉強しておけば役立つということは通用しないことに気づかねばならない。新たな挑戦を成功に導くには、経営として何を優先すべきか、どういう順序で取り組むか、それぞれのトライアルの期間や規模や予算や分担はどの程度にするか、などを会社の戦略との関係で計画としてまとめる経営判断が問われているのである。

今年は事前の記事でも指摘したが、あらゆるグラフィック表現が同一のデジタルデータから展開できるようになったので、自分たちの会社のサービスのドメインは何かを明確にしないと、どの方面の情報に比重を置くべきかが分からなくなるのである。例えば企業内部の電話簿や名簿の印刷を受けていた会社は、人事異動があればそれらの作り直しだけでなく、名刺やネーム印や社員証・名札、挨拶状なども一挙にデータ展開で作れるのである。ネーム印や名札の彫刻機械を社内にもっていなくとも、ネットワークを通じて外注手配をして「元締め」になることはできる。こういうサービスも、オフィスのサプライとしての印刷という立場もあるだろうし、総務の発注代行というスタンスもありえる。要するデジタルとネットワークはビジネスの選択肢を八方に広げてしまったので、自分の経営姿勢を決めないと、今のビジネスからの発展ができないのである。

スペシャルティ・プリント

今回のPAGE2003では、名刺もハンコもレーザー彫刻もあり、またUVのインクジェットによるマーキング、発泡インキを使った盛り上がりのプリント、などの展示が増えているわけだが、これら一つ一つは印刷機のような広い応用範囲があるわけではなく、機械を買ってどれだけもうけられるかは、みな使う側の創意工夫の問題である。コンファレンスでも産業用のPODだけでひとつのトラックになっていたが、機械設計・インキ設計・素材準備を含めたトータルな取り組みがなければ、新たな用途を開拓していけない分野であるなと思った。

こういうことができるのは、そのテーマに特別に思い入れのある人であろう。タイルの絵付けにインクジェットを使う話では、ヨーロッパの中でも特にそういった伝統のあるスペインでそのプリンタが開発され、日本の陶器やさんを含めて世界中から何百台もバックオーダーを抱えているという話があった。昨年はEPSONの6色ラベルプリンタが出品されたことがあったが、それらもその業界の大手で使われてノウハウが溜まるであろう。

DPSもトッパンフォームズをはじめBF専業社の中でノウハウが蓄えられて、仕事がそういうところに集中しているように、何でもDTPのように「デジタルでコモディティ化する」とは一概にはいえず、特定業者のスペシャルティ・プリントがいろいろな方面で生まれつつあることが感じ取られた。

2003/02/08 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会