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デジタル出版は出版・印刷を乗り越えるか

PAGE2003コンファレンス クロスメディア・トラック「デジタル出版は出版・印刷を乗り越えるか」セッションでは,インプレスの田村 明史氏,ベネッセコーポレーションの安田 啓司氏,ディーテレビの森中 彦人氏をお招きし,出版とインターネットメディアの関連性について,成功事例を交えながらお話いただいた。


クロスメディア戦略の可能性

株式会社インプレス 顧問 田村 明史氏(抜粋)

サプライチェーンにおけるITの活用により、製造業側はPOSデータが川下から入手できるようになり,卸売業・小売業側は新製品等の最新情報を川上から入手できるようになった。各業態は常に情報共有を行うことで、それぞれがメディアとしての役割を果たしている。各業態から情報を中立的に収集していた「メディア業」は、このような流れが脅威となってくるだろう。

また,ポータルサイトとして登場したYahoo!は,コンテンツプロバイダから膨大な情報が集まるようになり,顧客に情報を届けるメディアインテグレーターの力をつけはじめている。しかし,これが進み,メーカーと組んでプレインストールの状態を構築するようになると,コンテンツプロバイダをコントロールしようとする可能性もでてくる。

出版業は不況に強いといわれてきたが,実際には1997年からマイナス成長を続けている。今までは見込み生産で,不特定多数の顧客を相手にプロダクトアウトをしてきた。このような状況はもはや限界である。今後は出版業界においても川下からの情報をすいあげて製品を提供するマーケットイン経営に変革することが必要である。

今後のメディアビジネスにおいて,コンテンツを紙以外のものに転換して送り届けるというクロスメディア戦略の発想は重要である。これまでも紙メディアやデジタルメディアは存在していたが,それぞれが別々に展開していた。そのためお互いに大した効果をあげてこれなかった。クロスメディア化において,それぞれのメディアが成功するためには、ブランド戦略、チャネル戦略、マスカスタマイゼーションが重要な要因となるだろう。これらを着実に実践していき顧客シェア拡大という考え方にシフトしなければならない。


クロスメディアで顧客を囲い込む事例

株式会社ベネッセコーポレーション 安田 啓司氏(抜粋)

ベネッセは,出版事業とあわせてインターネット事業を展開している。インターネット事業では2000年5月にスタートした女性限定・会員制のコミュニティサイト「ウィメンズパーク」を運営している。会員は,同社発行誌読者の子供をもつ女性が中心で,現在約24万人のユーザがおり,月間総ページビューは5000万に迫る。

ベネッセでは雑誌とインターネットという両メディアをうまく連携させることを目指している。特に,インターネットメディアは,顧客主導型の雑誌媒体補完メディアとして,顧客満足度向上,マーケティング基盤の確保,収益事業として位置付けている。マーケティングにおいてはその成果もでてきている。Webアンケートやオンライングループインタビューなどをもとに,新商品・既存商品開発支援や通販購入支援,編集支援などに大きな効果をあげている。

同サイトが発展した背景には,インターネットをコミュニケーション型のメディアであるという特徴を重視して運営したことにあるのではないか,と安田氏は分析する。出版業にいると,メディアとしての意見や情報を出したくなる。しかし,そこはおさえて,コミュニティ機能が潤滑に機能するように努力した。これが,結果的には読者層とマッチするターゲットのアクセス数を増やし,貴重な意見や情報を収集するメディアとして成長した。

今後の課題の第1としては課金があげられるが,なかなかそこに踏みきるのは難しいという。主婦が対象なので一層である。しかし,それ以外にも会員数増,スポンサー企業との協業による広告拡大やコンテンツの販売,物の販売などいくつかのビジネスの可能性が広がっている。その中で「共感」「満足感」「充実感」が得られるようなロイヤリティーをアップさせるコミュニティーの仕組みを作っていきたいと話す。


インターネットセールスプロモーション支援ツール

株式会社ディーテレビ 森中 彦人氏(抜粋)

ディーテレビでは,ネットワークを利用したデジタルコンテンツの制作・配信とマーケティングリサーチ業務と,インターネットナビゲーションサービスなどのインターネット放送事業を行っている。インターネット放送の事業については,もともとは『LEFT』という自動車情報誌の廃刊をきっかけに開始された。既存の読者を対象に,自動車のストリーミング映像や情報を無料で提供する。収入は映像の途中に入るストリーミングCMなどの広告からまかなってきた。

現在,コンテンツは「Navi Cast Station」というシステムで配信されている。特徴は「動画+音声+複数のWebページ」である。動画とHTMLファイルが連動して再生され,サイト上で意図的にブランド戦略や商品イメージをナビゲーションできる。

2002年末には,ブロードバンドの動画ポータルサイト「コンテンツ・デリ」がスタートした。インターネットに無料で公開されているストリーミングコンテンツを集め,連続して再生できるポータルサイトである。ユーザーの好みに合わせてストリーミングコンテンツを番組表で届ける。現在は広告収入が主体だが,将来的には有料コンテンツも展開する予定だという。


一昔に比べ,製品のライフサイクルが短くなったことは,出版・印刷業界にも大きく影響している。次々に新製品がでるため紙のカタログは少ロットになってきている。出版物もロングセラーになるものはごくわずかである。出版物が無くなるということはないが,メディアビジネスをてがけるならば,デジタルメディアやインターネットをうまく活用して,顧客に視点をおいたマーケット戦略をすることが今後の鍵となるだろう。

詳細は通信&メディア研究会の会報に掲載します。

2003/02/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会