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ネットワークによるコンカレント作業

 印刷物制作工程であるデザイン,プリプレス,校正など,それぞれの担当者がネットワークでコンカレント(並行作業)するシステムがある。制作サイドが求めている仕組み,大きな成果を出すためのポイント,コラボレーションによるプロダクティビティ向上への運用を探る。

エイボン・プロダクツ株式会社 コミュニケーション部 グループ長 岡村 清孝 氏
アイ企画株式会社 開発事業部 課長 津乗 康祐 氏
方正株式会社 第一事業部 部長 芦野 雄一 氏
大日本印刷株式会社 包装事業部デジタル・ネットワーク化推進本部 部長 庄子  玄 氏

■コンカレントに必要なもの

 エイボンは,歴史が長い世界的な化粧品会社であり,訪問販売,カタログ販売を基本にしている。世界143ヵ国にあるため,大きなグローバルネットワークを使用する。インターネットを活用し,海外支社へのデジタルアセッツの供給を行い,ブラウザ利用により24時間対応のDAMが全世界で受け取れる環境である。セキュリティについては,IPのフィルタリングが効いている。
 日本においてもコンカレント作業が行われ,DTPデータなどネットワーク上のサーバで管理している。ワンソースマルチユースが基本にあり,以前は,アタリデータなど共有のものはFTP利用の必要があったが,GAMEDIOSというリソースサーバを導入し,切り抜き画像とテキストを一致させることが可能となった。また,WebNativeも活用し,QuarkXPressのデータをクリックするときれいに表示されて見ることができ,簡単にブラウザ上でダウンロードできるようになっている。

 今後ステップアップとして考えているのは,販売企画,製品企画等の製品データを共有のものとして,ブラウザベースで共有することである。つまり,紙面レイアウトにこの製品はいついくら売れたか,AccessやExcelデータとリンクさせてODBCをかけて画面で見られるような検索サーバのような形である。また,リモートプルーフでPDFなどのデータを外からでも取れるようにしたい。

 重要なことは,クライアントとしてシステム提供者におんぶにだっこではなく,同じ立場で考えないとシステムを組むことはできない。また,システム側ができることと,できないことを明確にしないと,期待したものとできたものが違うことになる。そのためには十分な話し合いが必要であり,それをしないと後にデータの作り直しとなる。


■企業間コラボレーション実現に必要なもの

 アイ企画は,段ボール用のデザインや製版をしているが,近年デザイン自体が版下,製版に至るまで,すべてデジタル化された。デザインデータが各工程で使われ,作業の効率化はできたが,その一方でデータを容易に受け渡しすることで秘匿性,セキュリティが損なわれる危険性がある。
 仕事の内容についても,従来は製版までの仕事がデジタルデータだけの仕事,プリプレスだけの仕事というものも増えてきた。その前管理をきちんとするために,本業とは別にe-Graphic Bankという事業を立ち上げた。

 通信については,セキュリティや環境の問題があり,今後は光ファイバやADSLが利用できるブロードバンド環境により,仕事の効率の上からもネットワークを利用したデータ送受信が主流になる。その中で,自社で通信ソリューションを確立するよりも,ネットワークサービス会社が提供しているサービス網は安全であり,コストも低くなるためこれを利用する方法もある。

 企業間コラボレーション実現には,今までは各部署で行なっていたものを,企業間を通じて使っていくため核にデータを置き,各部署がアクセスすることである。それに必要なのはWebのアクセス利用であり,ブラウザで見ることができるソフトがポイントになる。
 次に,運用管理の責任を明確にすることである。ネットワークを構築するとき,どこが中心になるのかによって構成が大きく変わってくる。どこが中心で動かしていくのかを打ち合わせする必要がある。
 最後に,企業間の信頼関係というのは当たり前のことであるが,特に制作会社となるとデータが盗られて他のところに仕事が流れる心配がある。お互いに理解した上で,使用する範囲を明確化していかないと,企業間では難しい。

 e-Graphic Bankでは,ID・パスワードで入りアセットマネジメントを動かしている。このようなシステム自体,各クライアントの中で作り上げれば一番良いが,本社のネットワークに入れるのは本社のみというケースが多く,外側からは見られない。そこで,この事例では,e-Graphic Bankを利用しアカウントをクライアントの本社だけでなく,関連会社,別会社の生産工場からアクセス可能にした。その際,約束事で社内にてデータの秘匿性の問題があるので,「パッケージのデータだけはOK」という許可を得て行なっている。運営上,そのような許可は必ず必要になる。
 インターネットコミュニケーションとして,Webなどリモートプルーフも利用したクライアント毎の校正のあり方や方法などの提案を考えている。その展開では,サーバに各々仕事ごとの共有設定をして管理する方法もある。

 このように,データをいかに活かしていくか,大手のクライアントの中で行う仕事と,そこから少し離れたところにサーバを持ち,効率よく動かす方法を考えていきたい。大手のクライアントサーバでできることと,共同でやることを分けて,共同の場合WAM!NET等,信頼できるところに置いていくという構想で進めたい。そのアシストをe-Graphic Bankで行なっていくことが大切である。


■流通・出版分野での情報共有化の重要性

 方正は1996年3月に日本で法人化し,中国では北京大学方正集団という名前で呼ばれている。ビジネスの主体は,日本においては印刷,出版関係のシステム開発を行っている。
 事業内容は,流通小売業向けのFeMSソリューション,出版向けソリューション,商業印刷,その他Webによる印刷物の受発注サイトなどである。

 従来,印刷会社は,流通小売業者からカタログやチラシを作るというオーダーがある場合,その企画に基づいて印刷物をデザインし,カラーカンプを出力して,最終的に数回の校正を経て下版,納品となる。そこで,クライアントとのやり取りが,営業と販売促進部の担当者で口頭,電話やFAX,あるいはeメールで行われ,道具はパソコンを使用してデジタルかもしれないが,作業の流れとしては従来のアナログであり限界がある。
 それを,デジタルアセットマネジメント,あるいはデータベースを共有化することにより,仕事の流れを1つの線上に置いていこうというシステムの開発を行っている。

 商品部においては商品情報や仕入,在庫,受発注の情報,店舗においてはPOSによる商品の管理,売上の管理,店舗管理などがあり,販促部は,顧客情報や販促企画の管理を行っている。これらが個々に存在するのではなく,統合できるGlobal Databaseが必要であると考える。そして情報を一元化し,ワンソース化を図ることによって,チラシだけでなく,One to Oneマーケットに対するデータ配信,One to Manyということでは従来どおりのチラシやカタログの情報活用ができる。
 また,今後それらをWebリテーリング,すなわちインターネットでの情報発信という活用を提案している。Global Databaseの核になるのが,FlyersWebシステムである。

 クライアントは,顧客ニーズに合った商品を掲載し,制作コストを削減したい。また,商品マスター情報と連動し,Webチラシ等に掲載商品情報を活用したいという問題意識,希望,要望を持っている。
 これらの解決のポイントとしては,システム化することにより客観的なマーケティング情報が共有化できる。自動組版などを実現することによってコストダウンを図ることができ,アセットマネジメントの実現によって情報を一元管理できる。チラシ情報がすべてデジタル化されることは,情報のマルチユース化が達成されるというメリットがある。

 今までの印刷会社は,チラシを印刷して折り込み会社に納品すると,それで仕事が終わりであったが,それではいけない。こういった不況下で発注側も広告費を削減したいというなかで,作ったチラシの効果をきちんと説明し,チラシの発注担当を納得させるだけではなく,それを通じて経営者が必要な予算であることを認識させる努力も,印刷会社には求められる。そして最終的には,売れる,効果のあるチラシ作りということが最も大事なことと考えている。

 ネットワークによるコンカレントの実現には,印刷会社のプリプレスなど部門での最適という時代は終わり,少なくとも全社最適,さらに印刷会社から見て得意先であるクライアントを含んだ経営的な最適を実現するソリューションの構築が最大の課題になるのではないだろうか。
 いわゆる値下げやコストダウンという後ろ向きの方法ではなく,新規顧客を獲得できる,利益を増やすことのできるビジネス展開を,今後方正は支援し,そのようなソリューションを開発する。


■協働サーバシステム「COLLACCO」

 得意先では,企画,開発,研究,製造,購買,営業など部署ごとに,情報の使い方はさまざまであり,元になる情報を一元管理することを目指している。
 印刷会社から見て得意先である食品メーカーや家庭用品メーカーの企画部門がデザインする仕事のは,煩雑なことを行なっている。例えば,ある1人の企画担当者が新しい冷凍食品のパッケージをデザインするとき,デザイナやカメラマン,広告代理店を相手にして,1つ1つの業務をこなしていく。それも1つのテーマだけではなく,複数のテーマが同時並行で進んでいる。しかも,1テーマで複数のデザイナとやり取りすると,その日常業務は煩雑になる。それらを改善するものが,協働サーバシステムDNP COLLACCOである。
 DNP COLLACCOは,煩雑な仕事の見かけ上の業務改善と同時に,目指すべき情報管理の仕組みのために,デザインデータは最新のバージョンがどこにあるかなど,すぐにわかり企画担当者一人一人の地味な仕事をサーバで管理するものである。

 従来,データを取り違えて何回も直しているうちに1つ前のデータが使われてしまったり,打ち合わせ時間が合わないことや,物を発送するのに手間を要していた。また,校正するのに時間切れになり見切り発車して事故につながることもある。それをサーバを中心に置くことによって交通整理しようという考え方である。
 DTPの実データからPDFを自動生成する機能がある。ブロードバンドを使うことでデータを素早く共有でき,情報を一元管理することで,取り違え事故,全体の流れを1人だけ把握していなかったりということが防げる。そして,サーバへのアクセス,端末に認証キーを入れ認証する,通信はSSLで行うとなどの体制を作ることで,セキュリティを充実させる運用を行なっている。


■同時校正システム「校正してネット」

 このシステムは,多くの人がデザインの校正や確認をする場合,同時にアクセスして同時に注釈を書いたり指示を出したりすることが並行的にできるような仕組みである。
 従来の校正は,順番に回して時間がかかっていたり,後から見た人の指示が先に校正した人に伝わらないことがあった。そのような事故を防ぐリスク管理,あるいはリードタイムの短縮ができる。管理者が,多くの人に見てもらうため,いろいろと連絡をとり進捗状況を確認するなど,煩雑な管理業務を低減する仕組みとして開発したものである。特に校正の進捗状況がリアルタイムで把握できるというところが大きな特徴である。

 フォントがエンベッドされ書体やQ数が分かるような状態が増えてきているが,パッケージの場合,特別な書体を使用すると,最初からアウトライン化されQ数が分からない場合がある。そのときに級数を調べる手段がなかったので,Q数ゲージを画面に表示して,それを当てて確認するというアナログ機能を,オリジナルでプラグインにより導入している。これは実際に使用している顧客の要望で開発した機能である。寸法を測定するプラグインも,あわせて作成済みである。

 さらに,前回校正の履歴機能もあわせて用意している。前回の校正指示を見ながら,今回の校正を比較しながら確認するというような使い方もできる。
 「校正してネット」を使っている顧客も増え,要望も日々出されている。同じようなことを各社行なっているが,少しずつ仕事の運用方法も違い,10社あれば10通りのやり方がある。したがって,カスタマイズをできるだけ実現させるように,1つ1つ導入効果を高めていく方法をとっている。

2003/03/07 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会