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台頭してきた営業・マーケティング部門のDTPエキスパート

来年3月の試験で丸10年を迎えるDTPエキスパート。有資格者は延べ9618人,受験者総数は2万4254人となった。混乱のDTPを何とかうまく使っていこう,という揺籃期からスタートして,ビジネスをリードする営業企画といった分野の有資格者が中核になろうとしている。DTPは人材面でも確実に新しい時代に入った。

次代のPAGEを目指して
 2月5〜7日,東京・池袋サンシャインシティ・コンベンションセンターにて第16回を迎えた「PAGE2003」が開催された。3日間で延べ6万1210人が訪れた。例年にも増して,従来型展示会からの脱却を目指し,カンファレンス,セミナー,クライアント業界を含めたジョイントイベント,ハンズオン型セミナーなど,有料・無料を合わせて,会期中に開催された企画テーマ数は130本を超えた(DTPエキスパートコーナーでのワンポイント講座を除いて)。
 このような展示会はそう多くはないであろう。ましてや印刷関連ではない。これは「見学する展示会から,考える展示会・参加する展示会へ」を目指してきたPAGEの大きな特色である。展示についてもMIS/CIM,CMS,XML Publishing,先端プリンティングの4つのテーマZONEや,ITソリューションコーナーなどの企画展示を試みた。これは展示者が一方的に情報発信するのではなく,入場者が主体的に情報収集や勉強をとおして具体的な自社の戦略的武器を探していただこうとの主旨からである。そのサポートの一助として,JAGAT主催はもとよりJAGAT以外の主催セミナーも数多く準備した。

好評を博した課題試験の優秀作品展示
 セミナー群の中でほかとはちょっと違った存在がDTPエキスパートコーナーのワンポイント講座である。今年も32本の講座が実施され,連日多くの方に参加いただいた。目前の3月に試験があることやDTPエキスパート・カリキュラムが昨年12月に改訂(5版)されたこともあって,関心は高かった。カリキュラムの配布も展示3日目の午後早い時間に搬入部数がなくなり,ご迷惑をお掛けした。ワンポイント講座では,話題のデジカメやCMS,XMLなどが人気メニューで通路にまで人があふれた。
 また,今回のコーナーの目玉となったのが,課題優秀作品の展示であった。課題試験は,作品を作るという実務を伴うため,受験生にとって負荷が大きいようだ。また記述試験の情報に比べ,具体的な情報が少ないことも拍車を掛けているようだ。今回は,合格者の中から比較的優秀な3人の作品を展示した。合格者の作品が具体的に見られることからかなりの反響があった。
 作品を見ながら熱心にメモを取る人,同僚と作戦を話し合う人,先輩の解説に耳を傾ける人などで終日にぎわった。作品をデジカメで撮影する人が多いのには驚かされた。細かい文字の制作ガイドをスキャニングするがごとく撮る様は,まさにデジカメ時代到来を目撃した感がある。良いものは大いに参考にしていただきたいが,表面的なまね事はトータルで見た時,破綻をきたすことがよくあるので活用には注意していただきたい。

技術・制作系から企画・営業・マーケティング系へ
 DTPエキスパートは来年の3月の試験(21期)で丸10周年を迎える。DTPエキスパートの1期生,2期生の試験問題や取り組み,当時の制作環境自体が「古典的」に語られる昨今,隔世の感がある。
 PAGEで恒例となったDTPエキスパートアンケートで「あなたの身近にDTPエキスパートがいますか」という質問に,アンケートを始めた1999年当時は「はい」が43%で52%の方が「いいえ」であったが,毎年徐々に増え,今年の回答は「はい」が58%,「いいえ」が37%になっている。PAGE来場者という限定された中での割合ではあるが,6割近くともなれば,どこの職場でも数人は見掛けるぐらいまでに定着したといえるだろう。
 その身近なDTPエキスパートの方がどんな仕事をしているかをみると,今回,最も多いのが制作オペレータで約半数(48%)を占めている。前回まではその他に分類されていた営業・マーケティング(31%)が,DTPシステム管理者(28%)や制作管理者(27%)を抜いて2番目に初登場した。2年ほど前から「エキスパートは営業こそ必要」という企業が急速に増えているが,まさにそれを裏付けたといえよう。
 1999年当時は,制作オペレータより,DTPシステム管理者が多く,全体的にDTP部門の管理系の仕事をしている人がメインであった。しかしその後,社員教育や社内制度として採用されるようになり,企業単位での受験が増えるに従い,すそ野が広がっていった。それに伴いDTPエキスパート自体が特別な存在ではなくなり,「基本知識習得の証」の資格に変わってきている。
 しかし,そのことは大変重要な意味をもっている。もともと本資格は,DTPオペレーション技能認定資格ではなく,「よい印刷物を作るための共通知識を学ぼう」というもので,職種・立場・経験を問わない資格である。つまり,言い換えれば,良い印刷物を作るための高いコミュニケーション能力を有している,というのがDTPエキスパートたるゆえんなのである。
 そのことは,クライアント,デザイナー,カメラマン,エディターからすれば,「安心・信頼」の大切な前提である。また,会社内部でも同じことである。多くの部門,作業担当者同士がより理解を深め,クライアントのニーズの把握を共通の認識,知識レベルでコミュニケーションが可能になるというものである。
 エキスパートは希少だから価値があった時代から,エキスパートが多いからこそ価値がある時代に変わったのである。それがまさに現場部門より企画・営業・マーケティング部門の受験者が増えている理由であろう。
 DTPが当たり前で,次第にクロスメディア化の傾向が増えているなかで(クロスメディアの仕事が徐々に増えている36%,急速に増えている20%,が合わせて半数を超えている),人材としてのDTPエキスパートに新たな注目と期待が高まっているといえるだろう。DTPエキスパートは次代の新たなステージへ突入した。
(杉山慶廣)

 
(JAGAT info 2003年3月号)

 
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2003/03/20 00:00:00


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