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XMLで拡大するニュースコンテンツ・ビジネス

ディジタルメディアシステム 代表取締役社長 江本 博治氏 (モデレータ)
京都新聞社 メディア局 次長 三木 昭氏
日刊編集センター 編集制作局 局長 藤光 国雄氏氏

 クロスメディアパブリッシングを実現するもっとも重要な技術のひとつがXMLである。そもそも大量のコンテンツを扱う新聞社においては,近い将来,XMLをベースにしたコンテンツ配信や制作システム構築への移行は避けられないものとなっている。共同通信は全国の新聞社へのニュースコンテンツ配信をNewsML形式に移行すると発表しており,国内の新聞社もこれに対応して,XMLを活用する動きが活発化している。

 京都新聞,神戸新聞,中国新聞は3社でNewsMLをベースにした共同データベースシステムを構築し,システムのコストダウンとともに3社の情報共有によるコンテンツの拡充を実現している。また,コンテンツ配信ビジネスの例として,日刊編集センターはデジタルメディアシステム社とともに,2002年日韓ワールドカップの際に,オランダのニュース配信会社からコンテンツを受け取り,日本の新聞社やTV局など各種メディアに,XMLでデータ配信するシステムを構築・運営し,成功を収めたという。

PAGE2003コンファレンスのクロスメディアトラック 「XMLで拡大するニュースコンテンツビジネス」のセッションでは,新聞素材のデータベース構築の取組みについて,およびニュース配信ビジネスの例について,その動向と最新状況を探った。


3社共同開発による「統合データベース」と地方紙連携

 京都新聞社では,神戸新聞,中国新聞との3社で「統合データベース」の開発をおこなった。「統合データベース」とは,過去に発行した新聞の記事・画像・紙面などの素材を,データベース化するものであり,NewsMLの形式で管理するものとなる。
 新聞業界は,今後人口減少,メディアの多様化などにより発行部数の減少が避けられない。また,以前は棲み分けされていた地方紙と全国紙の競争も激化している。そうした状況で,地方紙が1社単独でのXMLによるデータベースを構築することは不可能であり,3社共同での開発・運用をおこなうことを選択した。近い将来にはコンテンツの共同制作・販売も考えている。

 3社の統合データベースは,大阪のデータセンターにあり,Webサーバ,各社のデータベースサーバなどから構成される。VPN経由で各社ごとのCTS(新聞制作)システムにつながっている。統合データベースでは,社内利用として,記事・画像・紙面イメージの検索,全文検索,記事に関連した画像や未掲載写真,その他様々な検索ができるようになっている。著作権の有無などの書誌データの入力もできる。
 今後コンテンツの利用拡大として,新聞のCD-ROM販売・Webでの閲覧(電子縮刷版),過去の資料写真・ネガのデータベース化の他メディア配信(Webや携帯電話など),商業データベースへの配信(日経テレコムやジーサーチ),紙面マイクロフィルムのデータベース化などを進めていく。

 NewsMLは,記事,画像,動画・音声など様々な素材を一元管理でき,新聞,インターネット,携帯端末など各種メディアに対応したニュース制作に威力を発揮する。3社とも数年後の次期新聞制作システムは,NewsML対応型となる予定だが,データベースは先行してNewsML対応となっている。実際に,新聞の組版データと,記事付属情報をNewsML化して,保存している。  記事のジャンルや地域などの分類は新聞協会のNSK-NewsMLに準拠しているが,それだけでは不十分なので,独自のタグを付加してカバーしている。
 さらには,少数読者向けのミニコミや電子新聞,メールマガジンなどの発行や,地域の総合コンテンツセンターをめざすにも,このデータベースが有効だと考えている

 このような3社共同開発は,新聞業界では例がなく,3社以外の他社にも参加を求めていく。また,仕様を公開して,地方紙のNewsMLの業界標準をめざす。

 3社では,CTS(新聞制作)システムもこの5-6年くらいの間に更新をする。これまでは,CTSを中心にしたシステムだったが,素材管理データベースが中心になっていく。共同通信は2008年までの間に,全ての写真,記事をNewsML配信に切り替えると言っている。通信社への対応もあるので,NewsMLによる素材管理データベースが中心となっていく。

 地方紙が生き残るには,地域での影響力を活かすことだと思う。たとえば,地域の行政から市民団体,文化団体などいろいろなコンテンツを総合管理し,それを自社サイトや紙面にも利用する。それが地域文化の活動支援のような形にもなる。地方紙がその地域の広場のようなものになれたら,地域住民の役にも立つし,地方新聞社が生き残っていく糧にもなるだろう。そのためにも,このようなコンテンツ管理が有効だろう。


2002年日韓ワールドカップにおけるニュース配信

 日刊編集センターは,日刊スポーツのグループ会社で,新聞・雑誌の編集制作のほかに,テレビ,ラジオの番組表や解説記事の配信,野球,サッカーのスポーツデータ配信などの業務をおこなっている。たとえば番組情報でいうと,テレビの地上波,FMラジオ,衛星放送のCS,BSデジタルとすべての放送局の情報を保有している。全国の新聞社にラジオ・テレビ欄の情報として毎日配信している。スポーツデータは,プロ野球やサッカーの試合開始から終了まで,リアルタイムで配信している。速報及び試合結果は,顧客の要望に合わせてモニタ画面や,汎用的なデータ,新聞社向けには紙面用データも提供している。

 2003年の日韓共催ワールドカップサッカーの情報配信を手掛けることとなり,いくつかの意味で,新規ビジネスの手掛かりとなった。
 ワールドカップなので,FIFAの公認がなければ,データの再配信ができない。そこで,FIFAに公認されているオランダのデータ配信会社から提供してもらう契約をおこなった。ユーザ確保のために,他社と販売提携を結び,結果的に国内のほとんどの新聞,雑誌,電子メディアに幅広く展開することとなった。

 システム構築は4月から2ヵ月間という,短期間でおこなった。先方のシステム環境,動作確認,データ内容の解析をおこない,システムを設計した。

 提供されるコンテンツはすべて英語のデータであり,当然日本語に変換する。チーム名,前半,後半の得点,得点やアシストした選手名,スターティングメンバー,交代選手の他に,試合の経過についても日本語で配信するので,たいへん苦労した。日本語の表記は,顧客によっては新聞社など独自の表記を持っていたり,選手名やチーム名,スタジアム名まで表記したいなどの違いがある。そのために,データベースの中に顧客ごとに変更できるマスターテーブルを持って,データが来たと同時にマスター管理テーブルを通って顧客に配信するというフローを構築した。
 データ送信は,リアルタイムの配信とか試合結果の配信等,顧客のニーズに合わせた形の配信フォーマットということで,XMLを基本にCSV,HTMLに対応した。

 トラブル対策のために,先方のシステム障害・通信障害を常時監視する体制を取った。万一,先方側で障害が起きた時に即座にこちらからアピールすることで,先方にも素早く対応してもらうためである。
 また,先方で通信障害が起きて配信されない状況があるとき,日刊編集センター側で継続入力をして,データが途切れないような形でサポートしなければならない。これも,今までの実績や経験があり,こなすことができた。

 先方のデータが不完全のとき,日刊編集センターとしては,そのまま配信するわけにはいかない。たとえば,得点しているのに点が入っていないとか,得点者が違うとか,不完全なデータをそのまま配信すると,顧客から日刊編集センターにクレームが入ってしまう。これは通信を受けながら訂正入力をこちらでおこない,対処した。

 また,相手方のサーバと日本側のサーバをレプリケーション化(常時複製)した。相手がデータを変えると,同期してこちらのデータも自動的に変わるようにした。

 ワールドカップ開催までに先方の配信会社とテストを繰り返し,5月31日の開幕から決勝戦まで,小さなトラブルはあったが,顧客に迷惑をかけることなく,乗り切ることができた。


編集センターからコンテンツ配信会社へ

 こういった仕組みで,サッカーの国際的なイベントの情報配信をおこなうことができた。配信会社と契約し,データ授受のシステム・体制が出来あがったので,今後も,ヨーロッパのサッカー情報やその他のスポーツ情報の配信業務をおこなっていく。マスコミ向けにはXML,CSVでの配信,またリアルタイムの試合経過の配信はHTMLでおこなったので,システムが出来あがったとともに,マーケットも広げることができた。

 日刊編集センターは,もともと編集組版が中心業務だったが,新しい活路として情報配信ビジネスに取り組んでいる。今まで紙媒体にすることで完結していた情報を,新たな電子媒体向けに再利用,再展開をしている例だろう。

2003/03/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会