昔はプリプレスは文字入力から始まったが、テキストファイルで入稿されるようになり、今日ではデジタルカメラの画像データが入稿されるようになった。発注側のIT化で印刷にかかわる業務形態は変化し、システム環境の効率化のための見直しがかかる。2003年はいよいよOS Xの年といわれているが、使用しているコンピュータ環境のアップグレード・バージョンアップは悩ましい問題である。
近年はずっとOS Xが先か、InDesignが先かといわれてきたが、同時に立ち上がるように思われだしている。一方先行するかに見えたWindows+InDesign、というのは新聞などシステム規模の大きいところなどIT寄りに考える分野から外へは出ていきにくいかに見える。DTPをQuarkから乗り換えるつもりになれば、OS XとInDesignはセットで取り組めるものでもある。
欧米のDTPがPDF化路線を突っ走っているのに対して、日本でそうならない理由は、DTP黎明期と同じく日本語フォントという課題である。PDFとOpenTypeでは課題の内容が異なるが、タイミングが遅れるという点ではいつも同じである。日本語フォント使用時のPDFの信頼性はまだ片付いていないし、フォントの数や価格にしてもAdobeが2002年には1000以上のローマン OpenTypeフォントを用意したのに対して、日本で同等のレベルになるには少なくとも2年遅れであろう。
また日本語フォントは1字あたりの単価ではローマンフォントよりも安いが、何しろ数が多く、しかもさらに字数を増やす方向なので、価格的にも時期的にも苦しいのは、日本のどのフォントベンダーにとっても同じである。フォントの評価は見る人の慣習的なバイアスがかかっているので、何か別のフォントで間に合わせるということはやり難く、使い慣れたフォントで新環境を構築できるまでユーザも待つ傾向になる。
次なる課題がアプリのOS X対応バージョンアップのようで、これも日本では安定した旧バージョンが多いという問題がある。一般的な作業環境ではInDesignやOS Xの価格には手を出せても、1台あたりOpenTypeフォントとアプリのアップグレードに20万円ほどかかるとなると、気勢が削がれてしまう。企業ユーザーにとっては、この投資をして何が得られるかの問題になる。現状ではQuarkよりも動作が遅い、というような評価が目立つが、従来のDTPを越える使い方ができて、その投資としては見合う、と考えられるようなソフト開発が待たれる。それはおそらくクロスメディアの領域で出てくるだろう。
アナログ時代は古い環境に安住するという行きかたもあった。しかしデジタルになったなら、自分の作業領域においてはいかに安定してうまく運用できていても、技術革新のステップアップに合わせていく宿命を背負わされたといえる。デジタルのシステムは立ち止まれないのである。
テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 202号より
2003/03/23 00:00:00