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情報と車の有機的結合を目指すテレマティックス

次世代ネットワークサービスモデルを検証する専門イベントとして,2003年2月26日〜28日東京・お台場の東京ビッグサイトでIP.netJAPAN 2003が開催された。通信&メディア研究会では「自動車向け情報通信サービスの成否を占う」をテーマにしたコンファレンスに参加。テレマティックス業界の現状と今後の動向に関する講演を抜粋して紹介する。

ITによる技術革新は,自動車を取り巻く環境にも変化を与えた。自動車向け情報サービスとして注目されるテレマティックスとは,通信と情報工学を結びつけた新しいインフラである。 自動車産業は幅広い視野を持ち,これまでも日本のリーディングインダストリとして重要な位置を占めてきた。しかし,ITを始めとする新しい技術革新や自動車ユーザのライフスタイルの変化,厳しさを増す市場経済の国際競争など,自動車産業をとりまく環境は大きな変化を迎えている。
ITS(Intelligent Transport Systems)のような国家主導のインフラについては,各社がいろいろと取り組んできた。これらはこれまでのカーライフの利便性を向上させるだけの仕組みから,省エネルギー,環境負荷低減,事故・犯罪防止まで,社会性を包括した性格が強くなっている。低迷を続ける日本経済の復興を成し遂げるためにも,自動車産業を最先端の情報通信時術を駆使したトップインダストリへ転換していくことが急務である。
テレマティックスは,日本国内市場において,2006年度には2,200万人の利用者が見込まれ,今後携帯電話のように加速度的に増大していくと予想される。

テレマティックスのオープンプラットフォーム
アプリケーション開発企業として,モバイルキャストテレマティックスは,テレマティックスの様々な場面でのサポートを目的としている。
専用回線のインフラをベースにしたポータルサイト「MTC」(Mobilecast Telematics Center)を運営し,コンテンツのゲートウェイ機能から決済システムまで一貫したサービスを提供する。主な機能としては,各種コンテンツ,アプリケーションを最適な形でユーザ端末に配信する。また,通信モジュールや認証・決済システムを組み込み,「MTC」と連動で双方向性のテレマティックスサービスを実現させる車載端末「TAS」(Telematics Application Server)の独自開発を行っている。カーナビ,カーオーディオ,ハンズフリーシステムなどがこれらのサービスが共有するためのゲートウェイ的な役割を持つ。
テレマティックス総合ポータルサービス販売のビジネスモデルは,KDDI,オムロン,モバイルキャストテレマティックスの3社協業体制からなる。KDDIは「MTC」の通信インフラ,通信モジュール,システム構築支援を,オムロンは,「TAS」に対応した周辺ハード端末の開発・生産・販売を,モバイルキャストテレマティックスは,各種コンテンツの制作,提供,「TAS」の仕様ガイドラインの企画・策定を行っている。そして自動車メーカー,車載端末メーカーに「MTC」と「TAS」をパッケージで供給することで,'コンテンツから車向け専用移動体通信インフラまで'を手がけるオープンプラットフォームビジネスを展開している。

メディアポジション
将来的には,地上波デジタル放送,衛星デジタル放送を融合して車の中に置く情報通信のゲートウェイをサポートしていく。現在,モバイルキャストテレマティックスでは,どの回線を使っても情報にアクセスできるようにするため,携帯電話やPDA,ファーストフードやガソリンスタンドのような周辺環境のアプリケーション開発を進めている。通信と放送の融合したメディアが自動車や消費者側にとって必要になる時代が来るので,それに適応したアプリケーションの開発することで受け入れる体制を作っているのである。

MTCが考えるコンテンツ群
危険と背中合わせの乗り物に,どのような情報を提供していくかを考慮しながら,モバイルキャストテレマティックスが提供するコンテンツは,「セーフ&セキュリティ」「ドライバーサポート」「エンタテイメント」の3つのカテゴリーに分類される。
ネットワークセキュリティは,現在のロードサービスとしてサービス提供業務を行っており,500万人の加入者がいる。具体的には,車両診断システム,車両運行管理,緊急時救援通報システム,盗難防止システムなどである。次にドライバーサポートは,周辺のガソリンスタンド,ホットスポット,道の駅と連携してコンテンツを提供を行う。3つ目のエンタテイメントでは,テレマティックスである総合通信だからこそ,オンデマンド通信としてさまざまなコンテンツを提供できるコンテンツの制作をほぼ完成させた。
サービスコンテンツをマッピングするときは,移動体通信網の特性を生かし,車内でのサービスを想定して行う。コンテンツがすべてリンクするシチュエーション型コンテンツのサービス展開を狙うのである。ベースは,地図,道路交通情報,気象情報,温泉マップ,ファミリーレストラン,コンビニ,ゴルフ場といったカーナビのロケーションナビコンテンツである。この地図情報の中には,必要なときに役立つ情報として応用できるものがある。たとえば,デイリーコンテンツとして,ラジオショッピング,フォトアルバム機能,HDD内蔵音楽,音楽ダウンロード,オンデマンドラジオ方法,オンラインバンキングが考えられる。またエマージェンシーコンテンツとして,ウェブカメラ,広域災害情報,小口障害掛け捨て保険,盗難車追跡,ディーラー情報などがある。
現在GAGAの協力により映画予告編の配信や劇場案内,ショートフィルムの販売モデルを開発中で,将来的には,道の駅などで短編映画の上映を行いたいと考えている。
開発したアプリケーションでライフサポートサービスセンターを運営している。個人のメディカルインフォメーションをICチップに登録し,車載サーバーに組み込むことで,ドライバーの健康状態を常に監視することができる。また事故が起こった場合の緊急車両に対して位置情報だけでなく,ドライバーの個人情報も提供できるので,個人に対して適切な応急処置ができるのである。緊急車両が病院をたらいまわしされるということを防ぐことができる。

テレマティックスを社会化する
テレマティックスという通信と情報工学インフラの社会化がモバイルキャストテレマティックスのテーマである。情報通信工学により,産業・文化・農業・行政・教育・医療・生活・娯楽を結びつけ,新しいビジネスを創出することができる。テレマティックス社会の中では,たとえば緊急時にはタクシーが緊急車両になるわけである。
人間はオフィス,家庭,ガソリンスタンド,ファーストフード,工場などの地上の生活環境で生きている。ここに,今までにない情報工学インフラ(テレマティックス)が有機的に結合されていくことは重要であるとし,新たなビジネスが創造開発できると位置付ける。新しい社会文化の中心として,コミュニケーション開発と産業の新生を行っていきたいと思う。
(通信&メディア研究会)

JAGAT info 4月号より

2003/04/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会