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先輩が基準の,自分なりの良いデザイナーの条件

◆(有)アートプラン 遠藤 秀二

グラフィックデザイナーになってから今まで出会った人の中には,何人かの素晴らしい人がいます。以前お世話になったNさんは,デザイナーとしての基準を自分の体験に基づいてしっかりもっていた方でした。

○デザイナーに一番必要な力
デザイナーにはいろいろな力が求められますが,一番大切な力とは何でしょうか? レイアウト? 色彩のセンス? 撮影のディレクション? ソフトを使いこなす能力? それとも体力……。Nさんによればそれは「本質を見抜く力」だそうです。上辺の見え方だけでなく,物事の奥にある本質を捉える力がデザイナーにとって一番必要な力なのだと,いつもおっしゃってました。

○仕事で一番大事なもの
実際のデザインの仕事では,何が一番大事でしょうか? それは「アイデア」だとNさんはいいます。Nさんが尊敬してやまない,ある高名なデザイナーの「アイデアのないデザイナーは死んだも同然」という言葉をいつも繰り返されていたNさんは,「どんな仕事にもアイデアを盛り込むことが必要」という強い信念をもっていました。

○鳥の目と虫の目
机(コンピュータ)に向かって作業をしていると,ついつい細かい所ばかり神経が行ってしまいがちですが,どんな時も全体を忘れないということが鳥の目をもつことで,逆に,細かい所まで神経を行き届かせることが虫の目です。Nさんは「いつも鳥の目と虫の目の両方をもちなさい。ただし鳥の目のほうが大事」という言葉を,ことあるごとに繰り返し言われていました。

○どんな仕事も80点を取る
仕事のレベルを一定に保つということは当然のことなのですが,「どんな仕事でも」となると意外と難しいように思います。デザイナーはどうしても,クライアントの業種の仕事にばかり偏ってしまい,応用が利かなくなってしまうのです。「得意な分野では90点を取るけど苦手な分野では30点しか取れないというデザイナーが実際多い。堅いものも柔らかいものも,安売りチラシも高級品カタログも,どんな仕事が来てもそれなりのものが作れて,80点を取れないとプロのデザイナーとはいえない」というのがNさんの持論でした。

○コピーが大事
私は以前,コピーはレイアウトを構成するパーツの一つくらいにしか考えていませんでしたが,それはNさんによって徹底的に直されました。今ではレイアウトよりもコピーが大切だと思っているほどです。Nさんは,「デザイナーはキャッチコピーくらい自分で考えなきゃダメ」というのが口癖で,場合によっては自分でキャッチはおろかリードやボディコピーまで作っていて,ことあるごとにコピーの重要性を語っていました。そういえば「難しいことを分かりやすく言うのは頭の良い人,簡単なことを難しく言うのは頭の悪い人」というのを聞いたことがありますが,これはこのままコピーライト,ひいてはデザインの仕事にも当てはまるのではないでしょうか。

○デザインは計算された美学
「センス」や「感覚」という言葉が,デザインの世界ではよく使われます。しかし,その背景,または基盤の部分で,大切なものがスッポリ抜け落ちているのではないかと思うことがよくあります。
Nさんは,「すべてに意味がある」と常々言われていました。色遣いにしろレイアウトにしろ,すべては明確な目的のために考え抜き,計算し尽くして,その上でアイデアを加味し,さらに美しさが追求されていなければプロの仕事とはいえないのだと,厳しく語っておりました。

○変わるものと変わらないもの
世の中の動きは早く,情報に敏感でないとすぐ取り残されそうです。エキスパートの資格を取ったのはそのためです。でも,デザイナーに必要な「本質を見抜く目」や「アイデア」は,恐らく時代が変わっても,ジャンルが違っても,変わらないと思います。デザインには,10人いれば10種類といわれるほど個人のセンス・能力が表れます。デザイナーとして責任あるものを作るための考え方を教えてくれたNさんには,今も感謝しています。  

月刊プリンターズサークル連載 「DTPエキスパート仕事の現場」2003年5月号


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2003/04/29 00:00:00


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