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多様化する働く動機に、応えられる印刷業へ

塚田益男 プロフィール

 昔の働き方はみんな仲良く、金太郎アメのように同じ顔をしていた。終身雇用制と年功序列賃金体系があったし、仕事も習うより慣れろというものであったから、経験重視型で上司は年配者であった。一方、社員として入社してくる若者が毎年多かったから、組織はピラミッド型で安定していた。こういう時代は残念ながら夢物語になってしまった。

 今年の春闘の合言葉は雇用を守れであった。そして、もう一つの攻防は終身雇用という慣習とベースアップは消えたが、年功序列賃金体系からくる定期昇給だけは守りたいというものであった。その定期昇給は多くの組合で何とか守れたものの、秋からは全面的に給与システムの見直しに入ろうという会社が多かった。そして、その昇給にしても、若手限定型(一定年齢まで)、既存社員限定型(新卒は年俸制)とか昇給幅圧縮型などであって、長い慣習であった定期昇給という年功序列をそのまま認めるものではなかった。また新しい給与システムは個人能力を中心にしたものになるだろう。何をスケールにするのかは会社の業務内容によって異なるから多いに議論がなされるべきである。

 その時に必要な考え方は、新システムをマネージメントの道具として考えるのではなく、コミュニケーションの道具として考えるべきだとアメリカで言っている。会社ごとに文化も歴史も、アイデンティティも異なるのだから、その上、後で述べるように従業員の労働思想が多様化しつつあるのだから、会社業務の中心になる社員を対象にして、業務遂行に見合うシステムを会社ごとに作成するということになるのだろう。

 そして忘れてはならないことは、日本の賃金水準(ILO 2002年、1USドル=121円換算)についてである。
  日本 100
  U.S.A 93
  ドイツ 76
  英国 85
  韓国 44
  中国 3
このようにデフレの今日でさえ日本の賃金水準は高過ぎるということ。従ってグローバル化が進めば進むほど日本の製造業は工場を海外に移転するし、賃金の平準化が世界的に行われ、日本の賃金は下る方向に行くだろうということだ。

 さて、話を元に戻そう。新しい社会は何度も言うように、知識集約化、多様化、サービス化、情報化などの言葉で表現される。これは働き方やワーキングシステムについてもいえることだ。社会全体のレベルが一段と高くなるということを意味しているのだから、働き方もそれに適応したものになる。しかし実態はすぐに適応できるものではないから沢山の矛盾が出てくる。その矛盾を一つ一つ解決しながら新しいワーキングシステムを作らなければならない。

 先づ動機の多様化である。ただでさえ多様化してくるのに、最近では女性が就職戦線に出てきたのでますます複雑になる。働く動機を分類しなくてはワーキングシステムはできない。現在はまだ動機がすべて出つくしていないが、多様化が進むに従い形が明らかになっていくだろう。私はとりあえず2つに分けて考えることにする。

テクノクラート
一つはテクノクラートとかマネージクラートと呼ぶべき人たちである。人生目的とか生き甲斐の中で、仕事をすることが大きく位置づけられている人。他律的指示に基づいて働くだけでなく、自律的判断に基づいて働くことをもっと大事にする人。すなわちHolonic機能を持っている人。こうした人たちは学校教育をきちんと受けた人で、専門的知識を持って働く人たちである。コンピュータ関連の人たち、看護婦、医師、経理士、金融マン、弁護士など資格を持っている人は勿論、そのほかにも沢山の有能な人たちがいる。勿論、こうした人たちの間でも知識の程度、経験の深さ、管理能力の高低などがあるから一様ではない、しかし働く動機が自発的で、知識、経験、仲間との相互作用を通して成長を意図しているという点では同じグループに属すると考えることができる。

 会社の中では部長、課長、係長、主任、理事、参事、参与、専門職などのライン職や身分職を持っていた人たちのことになる。こうした職名も今後はどう変わるのかは不確定だ。しかし、この人たちが21世紀の会社業務を動かす中心的動力になるのだし、会社が大きくなれば、これらの人たちの中から執行役が生れることになる。それだけに、テクノクラートとかマネージクラートといわれる人たちの給与システムの基本は年俸制であってよいし、働いた成果はボーナス支給で左右されるべきものだろう。そして、この人たちは会社組織の中で自己実現、自己組織化を図ろうという人たちだから、フルタイム社員であり、長期契約社員を基本とするのは当然のことだ。

マニュアル型
もう一つのグループは、自分の生活設計を考える上で、自己実現の場を会社の中だけに置ききれない人たちである。定年退職、その他の形で第一の職業人生を終え、嘱託、顧問、相談役などの名前でさらに仕事を続ける人。子供の育児や習いごとの時間の合間にパートタイマーとして働きたいと思う人。季節的閑繁の差を利用して出稼ぎに出たい人。学生身分のままで余暇をアルバイトで働きたい人。昼間の仕事と夜の仕事とダブルで働きたい人。収入を得たいが一つの会社にしばられたくないし、少々の出勤の自由も欲しいので派遣会社に身分を置こうという人。自分は特定の技術を持っているので仕事場を自分の家にしたいと思う(SOHO)人。・・・・・・みんな収入を得ているが動機はいろいろだ。共通しているのは特定の会社の中で自己実現をしようとは思っていないということだ。

 こういう人たちが最近は増える一方で、この数年のうちに1500万人以上になると言われている。日本の雇用者総数が53,560千人(2000年)だから30%近くになる。百貨店、スーパー、飲食店、レストランなどでは50%以上になる。こういう人たちは会社とは1年以下の短期契約でフルタイムである必要もない。

 会社はこういう人たちとどのように付合ったらよいのかということだ。先づ第一に、多様な動機をできるだけ満足させるということ、すなわち社会的に身分を保障する必要があるので、年金や健保など社会保険に加入させること。これは会社にとっては大変な負担であるが、一方、働く人たちにも社会的責任を自覚してもらう必要がある。

 第二は携わる仕事についてマニュアル教育を徹底すること。近代社会ではどんな職場でも技術環境や設備水準、技能レベルなどが高くなる一方である。そこでISO運動が盛んだが、ISOの作業規準は日常的に守られるべきマニュアルそのものである。こういう意味から私はこの人たちをマニュアル型従業員と呼んでいる。給与システムは月給、週給、日給、時給などいろいろだが、一番大切なことは契約意識を会社側も、働く方も、きちんと持つことだ。働き方に少しでも自由度があるということは、相方にとって無責任になり易いので、契約感覚を正しく持つことである。

続く

JAGAT大会2003が、6月11日(水)に決定!!
テーマ:未来をつくる組織へ〜企業と個人のマッチング

2003/05/06 00:00:00


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