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CTP運用のためのCMS

CTPを導入した印刷会社では,カラーマネジメントを導入して印刷機の安定化や標準化を行い,各プルーファーとの色のマッチングや,営業,プリプレス,印刷までのすべての工程における意識改革も同時に行おうとする取り組みが始まっている。印刷の標準化への取り組みに期待するものとしては,見た目による印刷から脱却して,数値管理によって印刷状態を把握し,印刷の刷り上がり状態を均一化することがある。
そのためにはデータ収集と,分析や機械の保守とメンテナンスルールから整備することが求められている。

印刷が抱える色の問題では,
〔1〕人の感覚に依存する部分が多くて表現があいまいであること
〔2〕印刷の色再現を経験と勘に頼っていること
〔3〕印刷機は湿し水や印圧調整など
〔4〕色再現に関わる変動要因が多いこと
〔5〕デジタル校正では出力機器ごとに色再現が異なること
など解決しなければならない課題がたくさんある。
カラーマネジメントとは,印刷物を作成する過程における「色」に関する管理・運用を意味するが,それは一つのアプローチにすぎない。カラーマネジメントを実施することの本当の意味はデジタル運用の効率化によるコスト競争力アップ,安定した仕上がり達成による品質の差別化,同一の目標を社全体で運用する意識改革や組織力である。従って,カラーマネジメントを実現するためのCMS(Color Management System)は印刷の色とプリンタの色を合わせるだけの単なるカラーマッチング(色合わせ)ではなく,印刷の全工程で色をどう管理していくかを標準化し,それを実践していくことである。同一基準の下で品質管理していくシステム技術なので,品質をデータで語ることが重要であるということを理解してほしい。
CMSのメリットとは,初校段階から印刷機で刷った色が確認できる,初校や再校と校正を重ねても安定した色再現が行える,カラープリンタが色校正の代わりになるなどである。

画像データのデジタル入稿

最近ではデジタルカメラによる印刷原稿の撮影が次第に一般化してきている。RGBデータで入稿してきた画像原稿を,印刷のためのCMYKに変換することは,原稿のガモットを異なる印刷の色空間に変えることになるため,再現が不可能な色がある。RGBデータを再現する色空間には,印刷に向いているとされるAdobe RGB,ハイビジョン規格から作られたsRGB,さらにデジタルカメラ固有のRAW RGBなどがある。
Adobe RGBはsRGBよりもシアン色から緑色にかけての再現域が広いので,RGBプリンタで色を確認する時には都合が良い,sRGBは現状の高精度モニタが採用している色再現域なので,色をモニタで確認する時には有効である。ただしRAW RGBは画像処理前のデータなので劣化はないがメーカー独自の形式であり,画像がどのような色調であるのか分からないので,データの受け渡しには注意が必要である。
RGBデータがハードコピーにどう表現されるべきか規格はなく,「RGB⇔CMYK」の相関関係が決められない。データ作成側では,上流工程におけるRGBデータの確認手段として,RGBプリンタで出力して確認する。またはモニタ上で制作者は自らの意図するものを作っていく。

色校正

印刷品質を発注者が中間チェックするための色校正(カラープルーフ)は,オフセット印刷方式による平台校正刷りが多く使用されているが,経験と勘で調整するので原理的に刷り品質は安定しない。カラープリンタ(網点なし)やDDCP(網点あり)からデジタル出力されたデジタル校正では,出力用紙も本紙ではなく,また本紙であっても表面にラミネート加工してから色材を転写するなど,用紙の中にインキを印圧で強制的に浸透させている印刷とは違う発色メカニズムが利用されている。そのため現在のデジタルプルーフと本刷りは,厳密には完全に同じ発色(分光的再現)をさせることはできない。しかし,今までの校正刷りはインキと用紙は同じであっても,印刷濃度やドットゲイン,インキトラッピングなどを本機と一致させることが難しかったことも事実である。
現在,印刷の納期やコスト競争が極限にまで来てしまったなかで,発注者,印刷会社ともに納得できる仕事の流れを作る必要がある。そのためには,印刷制作工程で最もスケジュールの読みにくい校正工程を合理化するための重要な技術として,デジタル校正が必要になる色校正の作成方法は,
〔1〕品質は不安定であるが実際にインキや用紙を使い多枚数では1枚当たりのコストが安くなる平台方式の校正刷り
〔2〕品質は安定で印刷品質に最も近く印刷網点も出力するが1枚コストが高いDDCP
〔3〕品質は安定で1枚コストは低いが印刷網点がないインクジェット方式やレーザ方式のプリンタによるデジタルプルーフ
〔4〕オフセット印刷機で校正を刷る本機校正
の4種類がある。そして,これらは顧客から要求されている品質と費用対効果によって,適切に使い分けることが必要になる。
CTPのもつスピードやコスト削減効果というポテンシャルをさらに生かすためには,デザイン・編集側と印刷会社との間で,インターネットなどによるリモート校正の利用も含めて新たな体制作りが必用になる。ただし,色の確認をリモートで行うためには,発注側のカラー出力機の発色調整(キャリブレーション)の確認方法など,運用上で難しい課題もある。

望ましい色校正指示

色校正に使う指示用語は文字校正のようなJIS規格がない。色は個人によって感覚が違うので,できるだけ客観的にだれにでも理解できるような指示用語を使うようにする。特に「色」と「調子(階調)」は総反する関係にあるので,注意が必要である。
〔1〕調子について
・ハイライトの調子を出すと,ミドルトーン,シャドーが軟調(低コントラスト)になる
・ミドルトーンの調子を出すと,ハイライト,シャドーが軟調(低コントラスト)になる
・シャドーの調子を出すと,ハイライト,ミドルトーンが軟調(低コントラスト)になる
〔2〕色について
・ニゴリを取ると調子がなくなる
・調子を生かすと色はニゴル
・調子は補色で付ける
・補色を増すと色はニゴル
色校正の用語は人によって解釈の違う記憶色的表現を避けて,具体的にどうすればよいかを判断できるように使うように心掛ける。そのためには,色の濃い・淡い,明るい・暗い,鮮やか・くすませる,調子を強く・調子を弱く,など何を変えるかを示してから,その程度を,やや→中ぐらい→できるだけ,というように段階を付けて示す。

視環境

色を見る環境が視環境である。印刷物の色を見るための日本国内の照明光の条件「製版ならびに印刷における色評価用標準照明」が,日本印刷学会による推奨規格として次のように定められている。
〔1〕相関色温度(ケルビン):5000K±250K(常用光源CIE D50)
〔2〕平均演色評価数:Ra≧90
色を見る部屋の天井・壁・床の色は無彩色のグレーに,さらにはDTP作業で使うディスプレイのデスクトップ画面も壁紙は絵柄なしの無彩色にしなければならないが,意外と守られていない。 実際に使用する照明には,演色AAA 昼白色蛍光灯(JIS規格で4600〜5400K,Ra=95)など,日本印刷学会推奨規格にできるだけ近いものを用いる。演色性と照明の光源による物体の色の見え方だが,白色蛍光灯は色温度も4500K程度で演色AA,Raが70前後と低いため,赤や紫がくすんでしまうなど色が正しく見えない。また一般の3波長蛍光灯も演色AAでRa=86なので印刷色評価には使えない。

照明光の演色性チェック

照明光の演色性を簡易にチェックする方法が,演色性検査カードの利用である。カードを照明光の下に持っていくだけで標準光源かどうかが簡単に分かる色票で,校正に貼り付けて発注者が照明光に注意しながら色を確認することができるシールタイプのものもある。例えば,あるチェックカードでは3つの帯が同一色に見えれば,その照明は色温度は5000K,2本バーが見える時はタングステン光源,3本バーが見える時は通常の蛍光灯など,だれにでも分かりやすい。色校正をする時には,バーが見えなくなる照明の場所を探して行う。通常は窓際など外光が入るところでバーが見えなくなる。

印刷の社内での標準化

CMSの管理には,イメージセッタやCTPの網点管理,モニタの色管理,カラープルーフの色管理,刷版の焼度管理,印刷機の色管理・機械精度の保守管理,濃度値管理,ドットゲイン管理,網点形状管理,CIE*L*a*b値の管理,工場や校正室の温度・湿度・環境の管理などを行う。
そのためには印刷品質管理チャート,分光光度計や色彩計などを用いる。特に印刷テストで気をつけることは,決まった場所で決まった測色計で測ること,規定値に入っていても網点をルーペでのぞく,刷版の網点も測る,ブランケットは選択から取り付けまで慎重に行うことなどである。
プリプレスから印刷までの一貫したカラーマネジメントを行うには,自社でのテストチャートを持つこと,最終ターゲットを明確にすること,自己診断できる管理方法を取ること,標準値を数値管理すること,印刷機・各デバイスのメンテ・保守管理をすること,オペレータのスキルアップ,環境の維持に取り組んでほしい。

分光光度計・色彩計

分光光度計・色彩計は,CMYK(1次色),RGB(2次色),3Gグレー(3次色)の色彩管理を行う測定器で,CMSには欠かせない。特定のシアン(C),マゼンダ(M),イエロー(Y),ブラック(BK),インキ,染料,顔料,トナー等々を対象に,濃度,CIE*L*a*b値,網点面積(%)などを数値化する。ただし,測定する時に用いる色分解フィルタの特性で測定値が変わるので,複数の機器で測定する時には注意が必要である。また外部資料などで書いてある数値を参考にする時は,特に使用したフィルタの種類に注意する。
ただし,印刷の現場でよく使われている濃度計はCMSに必要なCIE*L*a*b値が計れないことに注意してほしい。

JAPAN COLOR(ジャパンカラー)

印刷標準色に合わせて各工程の出力機器をカラーマネジメントしておくことで,デジタル校正でもインターネットを利用したリモートプルーフでも,本刷りの発色をシミュレーションしながら画像の作成や修正,校正などを行うことができるようになる。印刷標準色として国際標準ISO/12647-2(JIS B 9620-2)にのっとってJAPAN Colorが定められている。これはISO/TC130国内委員会で日本の平均的な色を調査検討し,標準インキ(ほとんどのインキメーカーに対応品がある)・標準用紙(5種類)・標準色彩値・標準色見本,印刷条件など,日本の平均的なオフセットプロセス印刷における印刷用紙と色(ベタと網部)の標準的な基準が示されている。

まとめ

デジタル校了化の流れからは,発注者側との間で色保証をどうするのかなどの課題が突き付けられてきた。これに対しては全工程で印刷機の色に基づいて作られた「色基準」でのカラーマネジメント管理が必要となる。これからはある工程で色を合わせても,ほかの工程で色が変動することがないように,また「色基準」での管理を現場だけでなく,営業も理解して効率化に結び付けた営業活動を行っていくことが必要になる。

2003/05/25 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会