本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

見よう見真似のDTPからの脱却

資格試験というのは知識に偏るのは仕方ない面があるが、DTPエキスパート認証試験ではせめて部分的な知識に偏らないように、なるべく幅広く学科問題を出している。それとともに、制作全体を見渡すことができて、トータルによい印刷物を作ろうという意思があるかどうかも判断するために、制作物の提出も求めている。

課題制作は、印刷物の性格や目的に合ったようにDTPソフトの機能を使いこなしているか、あるいは使うように指示しているか、また印刷製本後加工などのことを配慮しているか、その仕事一点のみのやり方でなく、今後同類の仕事がスムーズに流れるように配慮しているかなど、仕事の管理のセンスも問題にしていて、作品と共に制作のガイドを書いて提出してもらっている。

作品の方は、デザインは問わない原則であるが、やはり世の中で通用するものの範囲に入っていないと困る。提出してもらうのは「ゲラ」なので、「ゲラ」としての特性、つまりここでは色校正は問題にしていないが、最後の内容確認の校正であり最終印刷物の仕上がり想定ができるものを求めている。だから適当に仕上がっていればいいのではなく、作業の注意力の不足は減点にするほどである。

ただし「世の中に通用する」デザイン・組版・レタッチの範囲というのは、実は上下の幅は広い。しかし組版やレタッチについては細かい知識の集積が業界にあるので、課題制作で見受けられた問題点は、学科問題に反映するようにして、カリキュラムで啓蒙して課題でも問うようにしてきた。これは一定の成果が上がって、ワープロレベルの組版の課題が提出されることは少なくなった。

それでもまだ、これで完成なんだろうかと疑問に思うような、デキの悪い作品を平気で提出する人は多い。つまり素人と玄人を分けている技能要素としては、組版やレタッチの敷居は低くなったものの、色使いやレイアウトという点では依然としてハードルが高いことが明らかになっている。これに本格的に取り組むとするとデザイナとしての訓練を受けるしかないが、デザイナにならないまでも、デザイナには色やレイアウトに関してどのようなノウハウがあるのかを知っておくことは、印刷物制作にかかわる人に役立つことである。

色やレイアウトの良し悪しを言葉で言い表すのは難しい。それは個人の感性に依存するところが多いからである。とはいっても、配色もレイアウトも印刷だけでなく人間が作り出すいろいろな事柄に関連してるので、歴史的にさまざまな方法論の積み重ねがある。デザインの部外者でもそういった背景を理解して、目を養うことはできる。美術評論家は絵が描けなくても評価はできるように。

レイアウトに関する方法論ではグリッドは万能ではないが、基本となる考え方である。2002年には、ドイツのバウハウスにより考案されたグリッドを現在のDTPソフトウェアの時代に見直す主旨のセミナーを行った(参考記事:無方針のデザインは逆効果)。特にデザイン経験の少ないDTPの人にとっては、系統的なデザインの展開法を知ることはDTP作業の効率化にも結びつく。今年はその応用編として、レイアウトのクリエイティビティや商品価値を考え、さらに事例としてデザイナがDTP認証課題制作をどのように思考し、また提出作品を評価するかについて、5月23日(金)に「デジタル時代のレイアウト方法論」を開催する。

また色彩についての背景知識としては、5月19日(月)に「色を科学的に理解する」を今年も開催する。デザインは感性が全てのように思われるが、感性を磨いている人々というのは実は何らかの方法論の蓄積も行っているという点を忘れてはならないし、これらを手がかりに「見よう見真似のデザイン」から脱却する努力も必要だ。

2003/05/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会