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Acrobat10年に想う文書システムの変化

2003年はWEBブラウザが10周年を迎えると以前に書いたが,Acrobat/PDFも10周年である。つまりAcrobat/PDFが世に出ようとする段階ではWEBはなかったのである。当時Adobe社内においてもUnixとMacとWindowsが混在しており,それは世の中一般にいえることであり,テキストやTIFFファイル以外で異なるプラットフォームで共通に扱える電子文書の必要性からAcrobat/PDFは考えられた。1992年の暮れからAdobe社内ではAcrobatによる文書のオンライン化の実験を始め,その成果を踏まえて1年後の1993年秋にAcrobatは社外に発表された。

こんなものがあったらいいのに,という同じようなアイディアは同時期に複数の人が思いつくものであるが,それでビジネスを成功させるには別の能力が必要になる。Acrobatの競合相手として,NoHands社CommonGroundやFarrallon社Replicaなどがあった。これらは簡単なデータ構造で軽いソフトを目指したが,皮肉にもその判断に基づいて切り捨てたところにニーズがあったといえる。

ビットマップ(ラスター)データを扱う方が紙面の一致性が高いのは今日の1bitTiffにも共通するが,解像度の違いを克服しなければならない。オフィスプリンタの高解像度化もAcrobatの競合相手を倒す要因になった。AdobeはPostScript技術のオブジェクト単位のデータをPDFでも使ったので,出力デバイスに最適化された表示ができ,プリントが必要な人にとって見栄えは最大限にできるのがメリットである。

プラットフォームの多様化の問題はWindowsの勝利で,Wordのdocファイルが標準の文書のような地位になって,文書交換のためにAcrobatに頼らざるを得ないことはなくなった。しかしWordでは出力再現は出力を実行する環境に依存するために,最初に文書を生成した時の出力と一致しないことがある。これは内容の再編集性を主眼に置いているためで,Acrobatとは正反対のコンセプトである。

一方で,WEBは紙面のような伝統的な視覚表現を忠実に継承することよりは,文書生成も閲覧も簡便に取り扱いができることを主眼にしたので,非常に普及した。mail,掲示板,BLOGなどはWordよりも身近なものになったといえる。通信環境の整備はAcrobatにも活躍の場をもたらしたが,インターネットと共に発展したとはいい難いほど,WEBの猛烈な発展があった10年である。

■出典:通信&メディア研究会 会報「VEHICLE」169号(巻頭言)

2003/05/29 00:00:00


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