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マニュアルのクロスメディア化 −Webパブリッシングパッケージ−

クボタシステム開発株式会社は,クボタのトラクター製造部門向けにマニュアル制作システムを構築した。これを一般向けにパッケージ化した製品が,PROSPERASである。
これはマニュアルの印刷物制作のみを目的としたものではなく,eマニュアルの制作システムとなっている。

システム開発の背景と効果

クボタのトラクター製造部門では,取扱説明書,サービスマニュアルを制作・印刷していたが,コスト面の制約から改訂は半年に1回だった。顧客サービス向上のために,改訂情報をリアルタイムに発信する必要があり,印刷物の制作と同時にeマニュアル(Web上で公開するマニュアル)を制作・公開することとなった。また,そのためにはXMLデータベースを利用することが,効果的と考えた。

結果的には,XMLを利用した標準化により,マニュアル体裁の統一や,自動生成が可能になった。また,マニュアルの目次,コンテンツ,書式,レイアウトの標準化と,一元管理のため,マニュアル制作作業の生産性が大幅に向上した。
制作コスト面では,マニュアルの編集・制作・改訂コストを劇的に削減することができた。
さらに,eマニュアルでは,アニメーション,動画や音声での情報発信ができ,海外向けのマニュアルでは,より正確な情報伝達が可能になった。
今後は,サービス拠点には紙マニュアルを1冊だけ置き,サービスマンにはノートパソコンを持たせ,Webで見るようになる。

製造業では,このようなマニュアル制作システムと製品製造基幹システムとを接続することによって,さらに生産性を向上させることができる。
例えば,クボタではこのマニュアル制作システムと部品データベースとが連携し,さらにそれが受発注システムとも連携している。マニュアルの特定箇所をクリックすると部品表が開き,部品表をクリックすると受発注システム画面が開く。基幹システムとの接続は,基幹システムのデータベース仕様が各社各様で個別対応とならざるを得ないため,PROSPERASのパッケージには組み込まれていない。

PROSPERASのパッケージ概要

PROSPERASは,クボタのトラクターマニュアル制作部署で稼働しているマニュアル制作システムをベースとしたマニュアル編集・Webパブリッシングパッケージである。印刷用にはFrameMakerを使用している。
(1)目次階層
マニュアルの目次となる項目を一定のルールに則って標準化し,それらの項目にチャプター,セクション,サブセクション,ブロック,イラスト,テキストのような階層構造を持たせ,データベースで管理するようにした。
(2)マニュアル構成
表紙,前書き,目次,前文,とびら,本文,後文,索引,後書きといったマニュアル構成にも階層構造を持たせた。
(3)他国語言語のマニュアル
海外に輸出されている製品は,マニュアル類を輸出先の国々の言語でも制作している。したがって,日本語のマニュアルが変更・改訂された場合,他国語言語で制作されているマニュアルの該当箇所も変更・改訂することが必要になる。
このシステムでは,日本語のマニュアルと,各言語版の対応箇所とのリンクを記載し,日本語版の修正にともなって発生した各言語版の修正状況(どの言語版の修正は終了し,どの言語版は未修正など)を自動的に知らせる仕組みがある。

制作システムの構築プロセスを提供

PROSPERASでは,マニュアルとeマニュアルの標準化から初期設定といったシステム構築プロセスとデータ登録,日常運用による自動生成までの全プロセスをトータルで提供している。

(1)「導入メソドロジー」
実際の導入では,システムやマニュアルの体裁などに対する関係部門や担当者の意見がバラバラで,調整には膨大な労力と時間がかかる。クボタのシステム構築でも,この標準化作業が最もたいへんだった。そのため,マニュアルの標準化とPROSPERAS導入のガイドとなる導入メソドロジー(手順)を提供している。

導入メソドロジーは,ガイドブックとテンプレート集から構成されている。ガイドブックは,標準化プロセスを15のフェーズに分け,各フェーズ毎の内容と成果物を明示したものである。テンプレート集は,各フェーズ毎のワークシート,サンプル,ヒントなどを300ページほどにまとめたものである。テンプレートに従って各フェーズの成果物を作成することで,マニュアルの構成,レイアウト,書式といった体裁の標準化と,チャプター,セクション,サブセクション,ブロック,イラスト,テキスト,他言語版へのリンクといったコンテンツ共通化がおこなえる。こうして,PROSPERAS導入を短期間で実現することができる。

(2)初期設定
導入メソドロジーにしたがって作成された成果物を,システムに登録する必要がある。このフェーズでは,通常であればマニュアルのDTDをどのようにするかなどXMLの知識や,プログラム知識を必要とする。しかし, PROSPERASでは,レイアウトや書式を簡単に設定できるユーザインタフェースとしてコンフィギュレーター機能を用意している。

マニュアルの種別コードと名称を入力した後,テンプレートに記述した内容を,メニューにしたがって移し替えるだけで,データベースへのマニュアルのレイアウトや書式の設定・登録が完了する仕組みである。

レイアウト変更の際も,このコンフィギュレーター機能で,設定を変更する。テキスト・画像など目次に対応したコンテンツを,データベースに登録する機能も提供している。

(3)マニュアルの出力:自動生成
マニュアル種別を選択し,マニュアル構成やレイアウト・書式を選択する。使用するコンテンツについては,共通目次を選択し,そこで表示された中から使用するチャプター,セクション,サブセクション,ブロック,素材(イラスト,テキスト,動画,音声など)を選択する。そして,紙のマニュアルかeマニュアルかの指定に応じてPROSPERASが自動的にマニュアルを生成する。
選択する情報は,すべてがXMLデータとなっており,出力もXMLデータである。印刷物のマニュアルを生成する場合にはFrameMaker用のファイルに変換して出力し,eマニュアルの場合にはHTMLファイルに変換して出力する。

(4)実運用からのフィードバック
実用性を高めるための工夫が随所にされている。
「グルーピング機能」とは,素材データの改変の権限設定である。素材を共通化すると,「兼用」していた素材が知らないうちに変更されてしまうなどの問題が発生した。そのため,同一グループの中では素材の「兼用」を許すが,別グループには「兼用」を許さず,素材をコピーして利用する「流用」のみを許す仕組みである。
「Web表示の最適化」のため,1つの素材に対して,紙のマニュアル用データとeマニュアル用データを持たせている。eマニュアルに貼り付けた場合,Web表示時の表示速度が大幅に向上した。

クボタでは,XMLベースのマニュアル制作システムを稼働した結果,マニュアル編集の外注費や印刷費などの削減によって,年間1億円ほどのコストを削減することができた。

2003/06/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会