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Eメールマーケティングにおけるリスク管理

インターネット社会の発達は,個人情報の取得を容易にさせ,個人情報を活用するEメールマーケティングが当たり前の企業活動として認識されている。一方で,企業におけるネットワークセキュリティの重要性が認められ始めたが,業界や分野によってオンライン化の浸透度やネットワークの使われ方が異なり,付随するセキュリティ意識も微妙な差異がある。ここでは,Eメールマーケティング(EMM)を専門に行う株式会社カレンの四家正紀氏の話を抜粋して紹介する。

関係性構築&リピート促進

インターネットの発達によりWebで物が売れ,いろいろとマーケティングができると知られてきた。Webは,最初の1回は見せることができても,2度目,3度目,4度目と見てもらうことが難しく,長期的な関係性を構築するようには機能しない。
Webの良いところとは,見る側が見たいタイミングで見られることである。企業としてはお客の都合だけではなくて,商売をやっていく上で,こちら側のタイミングで仕掛けていきたいポイントが必ずある。ところがそのタイミングに,Webサイトにはなかなか来てもらえない。
高い物を売るためには,営業がお客さまのところに「何度も」通う。これを可能にするのがEメールである。メールマガジンなど継続的にEメールを配信していくことにより,顧客に対して自分の方がリピートできる。リピートする度に反応が良い,悪いの履歴が残っていく。こうしたデータを基に次を仕掛けられるところがEメールの一番良いところである。
現状においてリピートできる一番良いメッセージングの手段がEメールである。カレンはEMMの会社だが,何らかのかたちで技術的に進歩して,もっと良いメッセージングの手段,顧客と関係性が作れる手段があればそちらに乗り換えても良いと思う。しかし,当分はEメールが最も優れた手段である。

EMMのセキュリティ・リスク

EMMに取り組む上で一番恐ろしいのは個人情報の外部流出とウィルスメールの誤配信である。 「あそこがやったらうまくいったらしい,ではうちの部署もやらせてもらおう,うちも情報システム部と相談してメールを打とう」と横に広がって行った時には,認識のバラツキが出てくる。結果としてどんなことが起こるかというと,その2番目,3番目,4番目ぐらいの部署の中で事故が起こる可能性が出てくる。その会社の名前で出てしまったメールはその会社を代表しているから,担当者がたまたま認識の薄かった一社員であったとしても,事故を起こせば大変なことになる。事故というほどでもないにしても,良くないメールを送ったらそれだけブランドイメージが下がり,顧客を失う危険性が出てくる。
読者登録をするためのデータベースと別にメールを配信するシステムに個人情報が流れてしまう危険性がある。一番ひどかったのはそこに登録していた方々,かなりの数のデータがメールで全員に流れてしまったという例もある。

「未承諾広告※」の限界

法規制の内容は,簡単に言うと,承諾を取っていないメールを送ってはいけない,ではない。メールを送信するときには件名に「未承諾広告※」を入れる。2度とこういうメールを送るなという連絡が来たら,2度目は送らない。
件名「未承諾広告※」の表示義務は,フィルタリングにより定型の件名が入っているメールは自動的に削除する仕組みと連動させているが,泥棒に「自分の胸に泥棒と書いておけ」というのと同じようなものなので,なかなかうまくいっていない。未承諾広告の未の字を末という字にして「末承諾広告※」,「未承諾広告※」の最後の「米」印を本当に米の字で書く,半角スペースを入れるなどと少しずつごまかしながら迷惑メールが発信される。

オプトイン,オプトアウト

スパムを送りつける業者にとっては,例えば,1万人にメールを送り10人だけ出会い系サイトを利用するだけでも採算は十分に取れるので,出会い系サイトに全然興味がない人から嫌われても別にかまわない。
これに対してEMMは,誰に,何のためにメールを送るのかが重要である。Eメールにより関係性を高めて売り上げを伸ばすことに結び付けていくので,儲け方が全く違う。しかし送り方を間違えてしまうとスパムと一緒にされてしまうため,メールを送る上でパーミッションの概念を正しく理解することが重要である。
オプトイン,オプトアウトという許諾の概念がある。まずオプトインは,メールを送っても良いという承諾を取ることである。
それに対してオプトアウトは,意味が2つある。1つはオプトインがないことである。つまり承諾を取っていないのにメールを送りつける。スパムに類似する行為である。もう1つは承諾を取り消すことで,つまり「もう送るな」と受信者側が意思表示することである。EMMの現場ではどちらかといえばこちらの意味で使われる方が多い。
何らかのかたちで手に入れたオプトインがないメールアドレスに送る時には,このサブジェクトの頭に「未承諾広告※」という表示が必要である。この「未承諾広告※」は法律で,送ってよいことになっているが,基本的には出会い系サイトと一緒にされてしまうのでやめておいた方がよい。こうした規定については実務面においては判断に困ることもあり,業界団体主導でガイドラインを作成している。

スパムとの混同リスク回避

スパムと一緒にされないためにはどうすべきなのか。第1は送ってはいけない人に送らないことである。これはEMMの対象となる母集団の形成(リストビルディング)から考えなければならない。例えば金融商品で,抽選で○○名様にロレックスが当たるというキャンペーンを行う。そしてメールアドレスが10万件集まった。しかし,この10万件は金融商品に興味があるユーザとは限らない。どちらかというとロレックスが欲しいという話だったりする。50万円を持っていたら金融商品を買わないでロレックスを買ってしまう人かもしれない。これでは金融商品を売るという目的には「使えない」リストであり,本来興味のない金融に関する内容のメールを配信するのは正しいとはいえない。最終的に物を買いそうな人を取り込むことが必要である。
第2は面白いものを送ること。制作技術によるが,面白くない,読みにくいといった読む価値がないものを送ると,煙たがられる。読んでもらうEメールを送るには相当の編集能力が必要だ。 第3にパーソナライズがある。名前の差し込み,住所の差し込み,登録してもらったデータに応じてその人だけにカスタマイズしたメールを送ることができる。
第4が最も大事な「パーミッションの鮮度」である。Web上で自分のメールアドレスを登録,店頭でメールアドレスを書いたことを覚えていられるのは2〜3カ月である。半年,1年経つと忘れている。だからメールアドレスを獲得したらできる限り早い段階で最初の1通を打ち,その後も忘れられない程度にメールを打つことが大事である。EMMは持久力勝負,継続することが大事なので,その点を最初から考えておく必要がある。
(通信&メディア研究会)

『JAGATinfo 2003年6月号』より

2003/06/12 00:00:00


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