電子出版が話題になってからこのかた20年を振り返ってみると、いかに「成功」した「電子出版」が少ないかがわかる。キャプテンは1980年代初期に実験が公にされていたし、1988年にPAGE88をはじめた頃は、日経がEP(ElectronicPublishing)展を開催するなど、盛り上がりの機運にあった。電子辞書が次々発刊されたり、雑誌の付録にCD-ROMがつくのは当たり前になり、もはや誰でも電子メディアを手にするようになったのに、これといったビジネスが姿を見せないのである。
当時の電子出版という概念は、紙の印刷物用に作ったコンテンツの2次利用として電子メディアに載せるもので、別名ワンソースマルチメディアとか呼ばれたこともあった。(実はそれ以前はオンラインデータベース検索のことを電子出版と呼んでいた時代があったが、その話はまた別の機会に)。その後パソコン用CD-ROMのマルチメディア図鑑類もずいぶんいろいろ出たが、この種のものは無料の電子カタログで生き延びている程度である。
出版界も紙の本のビジネスの建て直しが優先になり電子出版の意欲は薄れ、一方電子ビューアやプラットフォーム側は権利保護の仕組みばかりがヤイヤイいわれ、次第に両者が背を向け合って、電子出版は盛り下がっていった。もういいかげん止めなければならない。コンテンツをデジタルにすれば何か使えるんではないかという曖昧な思考を。
電子メディアでは出版にならないとプロが考える一方で、Webや携帯電話の世界ではさまざまな新たな情報・コミュニケーションのモデルが生まれてきた。2000年頃を境にクリチカルマスを突破したからである。電子的なビューワの普及によって実現したことは紙の出版の比喩ではなく、個人が日常の営みとしてプライベートにコミュニケーションする中に忍び込んでくる、あるいはそういうライフスタイルに組み入れられやすい情報モデルが創造されたのであり、当然ながらそれは出版界から起こったことではなかった。
20年に及ぶ電子出版の失敗から学ぶことは多くある。例えばCD-ROMなどパッケージ媒体の電子出版は印刷と同じようにプレス工程があって、流通ルートに乗せて配布しなければならない。しかし本屋に紙の本とCD-ROMが並んで置いてあったら、本の方がよく売れるに決まっている。だから本の売り場を狭めてCD-ROMをたくさん置くようにはならないのである。
この矛盾を超えるには、配布にネットワークを使うしかない。しかしインターネット上でアクティブに活動していなければ、ネット上の人のつながり(ネット・コミュニティというほどのものでなくても、人の目の集中)は得られない。WebにはeBookのストアもあるが、それはリアルな本屋のような日常立ち寄る場所にはまだなっていない。つまりWeb上でも本屋を核にしたコミュニティ形成が必要なのだろうが、どうも既存の出版ビジネスモデルはネットにはしっくりこない。
どうも最近の動きを見ていると、人のネットワークとかコミュニティが先にあるところにコンテンツも沸いて出てくるというのが、Web上の情報・コミュニケーションのモデルのように思える。これはマスメディアの行ってきた、えらい執筆者が書いたよい内容を、多くの人に与えるという、上から下への一方通行的な出版とは逆の行き方である。マスメディアも視聴率とか読者カードの統計などのフィードバックは行っているが、ネットワーク上の新しい情報・コミュニケーションのモデルでは、見る人のフィードバックや参画が最初からシステムに組み込まれていて、それがそのメディアの価値になっている。
伝統的な出版界はITの仕組みなどコンテンツの値打ちには関係ないと考えてきたかもしれないが、メディアの価値として考えるとITを生かしたコミュニケーションの仕組みが、従来マスコミの一角を崩すだけのポテンシャルはもっていると人々は思いだしている。もう電子出版のことは忘れて、今見え隠れする人々の関心のシフトをよく観察して、将来のメディアの姿を描くべき時期ではないだろうか。
◆JAGATでは、来る7月16日(水)、シンポジウム「顧客の顔が見えるメディア――顧客との関係で進化をはじめたメディアとビジネス」を開催します。
(注)会場が変更になりましたのでご注意ください。
⇒会場:社団法人日本印刷技術協会(東京都杉並区和田1-29-11 TEL03-3384-3111)
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「顧客の側に立ち」「顧客と共に創る」ことをモデルの中に自然に織り込んだ4つの事業、
●iMiネット(マーケティング・メディア)
●OKWeb(QAメディア)
●みんなの書店(参加型書店)
●ぱど(地域密着型フリーペーパー)
その代表者の方々による講演と、最後のパネルディスカッションではワン・トゥ・ワン・マーケティングの第一人者である和田昌樹氏をモデレータにお迎えして、顧客の関係で進化をはじめたメディアの方向性を考えていきます。
皆様のお越しをお待ちしています。
2003/06/27 00:00:00