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2003年通信インフラ動向

4月に通信&メディア研究会で行ったセミナーでは,2003年の通信動向について,株式会社情報通信総合研究所の櫻井康雄氏を講師に,通信事情やコンテンツ事情の予測や実体について伺った。
通信のインフラではブロードバンドの普及状況とそれにより何が変わってきたのかという点がある。既に1000万近い加入数になりつつあるブロードバンドでも,有料コンテンツについてはまだまだであり,現状は携帯電話が中心でこれからは無線LANに多少の期待があるのではないかという話であった。以下にその概要を切り出した。

2003年通信インフラ動向の概要

インターネットの利用人口は2002年末で6900万人に達し人口普及率は初めて50%を超えた。これは情報通信白書や総務省の2003年3月の通信利用動向調査で発表した数値である。 インターネットの企業・事業所・世帯普及率も同じで,右上がりでこれも総務省の通信利用動向調査では,世帯普及率が81.4%,事業所は79.1%,企業は98.4%で,職場でも家庭においてもインターネットは定着したといえ,生活やビジネスに密着してきている。 ブロードバンドはYahoo! BB,NTTのフレッツ,ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)の利用者が増えてきており,FTTH(Fiber To The Home)はまだ少ないが2003年を境に伸び,あと2,3年以内にはFTTHがブロードバンド回線の主役になっていくと思われる。
利用の傾向については,放送型(1対N)指向,コミュニケーション(1対1)指向へと進むと思われるが,通信業界はNTTだけでなく,ADSLのようにYahoo!が健闘しているのでNTTはその中の1社となってきている。
しかしこれだけブロードバンドが発達してきても,有料コンテンツのビジネスは今は固定網ではないのが現状である。日本のADSLは大変安く,世界の事例でアメリカなどではADSLの事業者が倒れているが,それより日本は低価格でADSLを提供しているので,通信業者は利益が出ず破綻する可能性がある。利用者はインターネットのISP(Internet Services Provider)に加入してもコンテンツを買っていない。ブロードバンドに関わっている事業者は,先行投資をして進めているという状況で,いつか利益が出ると思っているが現状では厳しい状況である。
NTTでは光ファイバの使い方として,コミュニケーション型ということで,レゾナント・コミュニケーション(resonante communication)という名称を付け,昨年の11月に「'光'新世代ビジョン」を発表している。これは相互にテレビ電話会議を行うとか,孫の顔をおじいさんが見るというような,日常,人がやりたいと感じることを,電話を掛けるような感じでコミュニケーションを行う。そして利用者がコミュニケーションをすることで通信利用が増えるということを考えている。
この場合,ADSLは上りと下りの速度が違う非対称であるため,上りも下りも同じように使える光ファイバの使い方として考えるというのがNTTのスタンスになる。

通信放送融合の時代へ

通信事業者,放送事業者の通信放送融合が進んでくる。天気予報や映画などは,FTTHを利用した高速大容量の回線を使って流すことがあり得るし,放送事業者ももちろん地上波で送る。放送事業者は,一斉同報で放送しているが,放送のデジタル化をきっかけに,データ放送で多種多様な要求に応じ情報を流すということで通信のほうに近づいてきている。
放送事業者の中でも衛星放送やケーブルテレビは決して市場は大きくないが,比較的小回りが利くところがある。SKY PerfecTVがSKY Perfect!BBでブロードバンドの配信を手掛けたり,110度CSという従来のSKY PerfecTVとは違ったことを考えている。これはBSと同じ軌道の110度に打ち上がった衛星を使い,BSと同じアンテナを使いCS110度の受信機能をもつチューナーでCS110度も見られる。BSの普及に乗って110度CSが普及するという意図でCS110度の放送事業者がある。日本では1500万世帯ぐらいがBSを見ているので,SKY PerfecTVから見るとその1500万世帯に一挙に届ける可能性が出てくる。
通信事業者であるNTTが,地理的な条件で電波が通りにくい難視聴地域や,あるいは集合住宅に一挙に光ファイバを引いて各家庭に放送番組を流すことを四谷や北海道の西興部村で実験段階を終えて実用化している。このように従来の通信事業者は放送に近い立場に関わってくるし,放送事業者も通信のことをかなり強く意識している。このようにして通信放送融合の時代に進もうとしている。

コンテンツ流通は固定網よりも移動網が有利

ブロードバンドの回線ではADSLが700万世帯加入ぐらいになり,ケーブルテレビやそれ以外も合わせると1000万世帯近い数になっている。しかし,有料コンテンツはブロードバンド回線で売れていないのが現状である。コンテンツビジネスでコンテンツを流通させる時に最初に考えるのは,今は携帯電話のようである。これは固定網はお金を取れないからということがあるようだ。

次の時代は情報流通量(中身)が注目される

今ブロードバンド加入数のことをいっているが,インフラが足りない状況からその数が問題になる。昔は通信の速度は大変遅かった。これからブロードバンド時代になりつつあるが,さらに時代が進めば高速大容量の通信が当然の時代になる。そうなると100Mbpsの加入者の数が問題なのではなく,どれだけ情報が流通しているかということが,各国の情報流通の尺度になってくる。この情報流通量とは情報がデジタル化されているので調べることができ,これがビジネスとつながってくると思われる。

ホットスポット

モバイルコマースにとってホットスポットは新規市場になる可能性をもつ。ホットスポットは駅や喫茶店,ファストフード店あるいは街角などで,パソコンや携帯型端末などを使って、インターネットに接続ができるサービスが提供される場所である。固定網は有料でコンテンツが流れるのは難しいが,携帯電話ではお金を惜しまないで遣うという実態がある。
今の携帯電話では画面が小さい。ホットスポットの対象とはモバイル用パソコンを持った人ではなく,やはりPDA(Personal Digital Assistant)や携帯型端末が対象と思われる。しかし,今はあまり数が出ているわけではない。
ホットスポットの利用とは,毎朝必ず同じ駅で改札口を通れば,その日の新聞のニュースが電波でPDAにダウンロードされるようにする。ホットスポットの大きな弱点は設定が難しいことである。今は違った喫茶店やファストフード店に行くと設定を変える必要があるが,これをユビキタス,つまり,どこでもあまり手間を掛けずに情報に接することができるようにする。
ホットスポットがこのようなことを心がけて提供していけば,改札口を通るとダウンロードされ,新聞紙を持っている感覚でニュースに接することができるようになる。そういう意味でホットスポットは可能性はある。ブロードバンドと言われている中で,今実の成るビジネスはないがその中で少しでも可能性があるとすれば一番大きいのが無線LAN,ホットスポットである。 (通信&メディア研究会)

出典:社団法人 日本印刷技術協会 機関誌 JAGAT info 2003年7月号

2003/07/07 00:00:00


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