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「基本」を踏み台にすればより遠くを見渡せるプロフィール

◆(株)まこと印刷 宮崎 英世

すべての人がそうであるとは言いませんが,資格試験や認証試験を受けられる方は,心の何処(どこ)かに迷いや不安を抱えている場合が多いのではないでしょうか。
それは仕事の方向性や適性などに関する迷いであったり,大袈裟(おおげさ)ですが,突き詰めれば自己の存在意義に対する漠然とした不安であったりするのかもしれません。
私の職場では,自分の職務を自信と責任をもってこなせるのであれば,「資格」に寄り掛かる必要などないという暗黙の空気が流れており,私自身も試験に関しては,それほどポジティブに捉えてはいませんでした。
とはいうものの,10年前に電算写植のオペレーターとして入社し,その後,MacとWindowsのDTPシステムを社内に導入・構築してきた私には,独学ゆえに「これでいいんだろうか? 何かすごく間抜けなことをやってるんじゃないだろうか?」という不安が常に付きまとっていました。

積極的に社内へのMac導入を推し進めたものの,電算写植機での美しい組み版に慣れていた私には,QuarkXPressでの文字組みには大いに違和感がありました。また,ハードウエア・ソフトウエアの知識,色やフォント,ネットワークについての学習など,取り組むべきことが多く,さらにはその後年々増えることになるWindowsデータ入稿に対応するため,触ったこともないWin機の導入,それに伴う各Officeソフトの操作,データベース化作業への対応等々,たった1人でそれらを進めつつ日々の業務をこなさなければいけないことの重圧が,DTPという響きに思い描いていた幻想から色を奪っていきました。
講習会や書籍などから得る知識の中には,弊社のような工程の一部をアウトソーシングに頼ることが必須の企業にとって,そのままでは流用できないものも多く,学んだことを適確に応用するのみならず,型にはまらない柔軟な対応を求められます。
スタンダードな方法論などなく,各会社の方向性・設備,各作業者のスキル・アイデア次第でワークフローや製作物の質もさまざま,独自のノウハウについての客観的な検証や交流の機会の少ない業界で,いったい自分のやっていることは正しいのだろうか? 自分の技術や知識が,だれに対しても誇れるものなのだろうか? 現状でクライアントにベストですと言えるだろうか? そんな思いは自社内の作業環境が安定し,トラブルが少なくなることに反比例して膨らんでいきました。
そういった不安とともに,限られた設備の中で,「ここまでしかできない」ではなく,「こんなこともできます」という提案をしていくためには,一度自分流に構築された知識を客観的かつ体系的に捉え直す必要があるのではないか? そうすることによって今まで見えなかったものが見えてくるかもしれない。積み重ねてきたものを再構築する契機としてエキスパート認証試験受験を具体的に考え始めました。

まず,手始めに受験したDTP検定T種に合格し,「よし,この勢いでエキスパートも」と4カ月後の受験を目指して,勉強を始めたのですが,「デジタル化=いかに楽をするか」をモットーにやってきた私のでたらめな知識は,学習すればするほど,疑問がさらなる疑問を呼び,袋小路に迷い込み,今までいかに独りよがりに陥っていたかを思い知らされるばかり。もちろん,自分のやってきたことの正しさを実証する部分もありましたが,偶然に支えられていたことも多く,あれこれ過去の作業を思い起こし,穴があったら永住したい気分になることもしばしばでした。
辛うじて合格した認証試験ですが,自分の知識の補強すべき部分,武器となる部分を再確認できたことは十分な成果だったと思いますし,論理的にデータを見られるようになったことで,かえって枠にとらわれない発想ができ,デジタルの可能性に対する夢が再び色を帯び始めたのを感じます。
最近は,本業の傍ら10代のころから続けている音楽活動のノウハウを生かして,WebサイトのBGMやSEを作る仕事を受けることもあり, DTPのスキルと併せて何かできないか,と無謀な企みの真最中です。基本をしっかり押さえることでより自由になれた気がします。

 

月刊プリンターズサークル連載 「DTPエキスパート仕事の現場」2003年7月号


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2003/07/06 00:00:00


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