本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

クロスメディアはビジネスになるか?

現在ではWeb制作も行っている印刷会社は多いが、喜んで気合を入れてやっているとは限らない。XMLへの対応も同じだ。数年前にはHTMLのページを作る仕事が版下よりもいいといわれたが、すぐに価格が下落してウマ味がなくなった。SGMLによってドキュメント制作の囲い込みをと投資をはじめた印刷会社があったが、XMLに変わったことで、囲い込みではなくコラボレーションかな?と考え直しはじめている。ビジネスモデルの寿命は短い。

DTP作業の自動化も狙って「データベースパブリッシング」の努力もしてきたし、もっと過去においても電算写植とデータベースの組み合わせで「漢字情報処理」といっていたこともあった。このような技術トピックスはその時々の流行り廃れのようにもみえるが、すべて一貫した進化である。最初は予算のとれる特定の業務がコンピュータ化し、次第により一般的な業務がコンピュータ化し、しまいに個人の日常の情報のやり取りまでもがコンピュータ化した。

最近ではセールスプロモーションで懸賞応募はがきをやめてしまう例がある。Webや携帯電話でくじを引くというのもある。これらすべてにコンピュータとネットワークが使われている。レストランの注文取りも、電車の改札もコンピュータとネットワークで制御されている。職場、家庭、また機器に組み込まれたコンピュータの数は日本の人口を上回る。 日本も2人に1人はインターネットにつながった。何しろ78歳になる私のオフクロも毎月5000円くらいのブロードバンドに入っている。新聞の字は小さくて読みにくいが、画面は字を大きくできて便利なようだ。しかしメールを出してもなかなか返事が来ないから、あまりPCに向かっている時間は多くないと思う。やはりまだ圧倒的に長い時間TVに接している。

電子メディアの仕事は増えたか?

確かに時代は変わった。子供も電子辞書をもっている、取引には電子帳票が使われる。紙媒体のアナロジーで電子何々というものはいっぱい出てきた。これだけ電子環境が広まって、なぜ「電子出版」は姿が見えないのだろう。いや携帯やWebはすでに娯楽雑誌の代わりは十分果たしている。ただしそれらは印刷会社の得意先である出版社の仕事ではない。

個人の側から見るとインターネットと携帯で毎月1万円内外は支出している。1万円というと数百円の雑誌20冊分ほどであり、これは仕事日に毎日1冊くらいの量に相当するから、雑誌や本に支払う予算が圧迫され、個人のサイフを源とする金の流れは変わった。それでも電子メディアの仕事はなかなか増えないという見方があるのは、エンドユーザを見ずに既存の得意先を見て判断しているからだ。

印刷関連では「電子出版」としてニュース性が高いのはeペーパーを使った電子本であり、これは紙用のコンテンツを電子化して、作者・出版社・流通・書店という出版の世界に流れを再び呼び戻そうという壮大な計画だが、これがメジャーになる目算はあるのだろうか? 電子メディアは紙のメディアの完全な置き換えはなくて、用途によって棲みわけがされると言われている。またこれから従来の紙の印刷需要が減ることも明らかだ。百科事典のように無くなる方向の紙媒体もある。チラシは強いといわれるが、デジタル放送は競合するという人もいる。

しかしブロードバンドの契約競争が激化したら、新聞チラシにブロードバンドの広告がよく入るようになった。要するにセールスのプロモーションをする際には、どの媒体の肩を持つかは考えず、役に立ちそうなものは何でも複合的に考えるようになるのである。 だからこういうものをバラバラに検討するのではなく、コンテンツ・メディア・コミュニケーションとして総合的にプロデュースする人が求められているのである。印刷物は断裁から後加工まで含めて完成品になり、価値が計れるのと同じように、オンラインの電子メディアでは情報の発信者と受信者の相互の関係が成立した時に価値が計れるものとなる。

そこまで責任を持って設計からコーディネーションをできるところが儲けられるはずである。SOHOでもできるWebページのデザインや制作だけをするのは版下屋さんと変わらず、中堅の印刷会社がそれだけのサービスならば顧客から大して評価されない。
目先のビジネスで食いつながなければならないことは仕方が無い。しかし冒頭のようにビジネスのやり方を切り替えねばならない時に、それまで蓄積したノウハウが途絶えないように次の目先のビジネスを立ち上げて継承させ、大きな潮流に乗って進めるような戦略・戦術が必要なのである。

ビジネスの視点を逆にする

水が上から下へ流れるように、昔は情報も権威のあるところから一般庶民の下々へ流れると思われていた。しかしコンピュータとネットワークによる電子メディアは、下から上への流れを可能にしたのである。これはパソコン通信のフォーラムのように一部の熱心な人がボランティアに支えられて始まったが、時代は「2ちゃんねる」現象のようにITの仕掛けで人手をかけずに大規模なオーディエンスを抱えるものに変わった。

情報源として一般の人々を考えると、質的に物足りないと従来の出版の人は考える。今までは編集者や記者が「目利き」として情報を厳選していたからである。それはコンピュータとネットワークによる双方向メディアにとっても必要かつ重要なことであるが、電子メディアは出版に至るプロセスが全く異なるので、編集者や記者の出番は従来と異なったものとなろう。

ITで可能となった双方向メディアが進化する過程とは、情報の発信者と受信者のダイレクトなつながりの中に、情報を濾過するとか上澄みをすくい出す仕組みができていくことだろう。今ネット上には玉石混交の「生データ」しかないように思えるかもしれないが、blogのように識者のフィルタや別の人のコメントが整理されているサイトも伸びている。販促のためにeメールマーケティングも必須になった。企画のためには利用者の掲示板が重視されている。

このように進化はすでに始まっているのだが、従来の発注担当者および金の出どころではないところが対応しているので、この変化の性質の理解はメディアに関して広い視点で考えている人でないとピンとこないようだ。販促に限って言えば、印刷物企画であっても上位の概念であるCRMを理解しなければならないように、WebなどのビジネスもやはりCRMという視点で合わせて考えようというのがクロスメディアという捉え方である。

つまりクロスメディアをビジネスにするには、過去20年間に断片的に行ってきた現場のデジタルノウハウの寄せ集めでは不十分で、それらが何のために必要であったかという理由のところまでさかのぼって、コミュニケーション・メディア・コンテンツなどにまたがった、大きな変化の潮流を捉えられるマインドが欠かせないのである。

特に従来と視点が異なる電子メディアの進化は、従来の情報媒体や従来の知識の権威からはうかがい知れないものであることに注意しなければならない。ITが可能にした双方向メディアは、そこに参画する人々がお互いにかかわりあう面白さを味わえるものである。このことを体験しつつ、自らの仕事としても生きたメディアを産み出しているところが今日注目に値するところである。従来の知識の権威の傘の下だけにいると、いつまでたっても電子メディアのイネーブラーにはなれないであろう。

シンポジウム「顧客の顔が見えるメディア――顧客との関係で進化をはじめたメディアとビジネス」(7月16日・水)

●iMiネット(「逆」マーケティング・メディア)
●OKWeb(Q&Aメディア)
●みんなの書店(参加型書店)
●ぱど(地域密着型フリーペーパー)

という4つのメディア事業の代表者の講演。最後にパネルディスカッションを行ない、ワン・トゥ・ワン・マーケティングの第一人者である和田昌樹氏をモデレーターに、顧客と共に創るメディアのあり方と具体的ビジョンを探ります。
皆様のお越しをお待ちしています。

2003/07/08 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会