本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

生活者と対話するマーケティングメディア

IT化により、メディアやコミュニケーションの形が大きく変貌しようとしている。去る7月16日開催したシンポジウム「顧客の顔が見えるメディア」では、従来のマスメディアとは違うメディアビジネスに取り組み、顧客との強い関係作りに成功している企業のトップの方々をお迎えし、メディア進化の具体像を探った。
講演のトップバッター、(株)ライフメディア 代表取締役社長 鎌倉章氏は、世界初の電子メールマーケティング・サービスとしてスタートしたiMiネットを手がけ、マス・メディアと正反対の機能を持つ「逆メディア」の実現を目指して事業展開している。ネットワーク社会におけるメディア、マーケティングについて語っていただいた内容を紹介する。

iMiネットとは

ネットワーク・ユーザーに任意で登録してもらい、会員プロフィールを元にして、マーケターがダイレクトメールを送る。あるいはアンケートメールを送ったり、「アンケートWebに来てね」というお願いのメールを送ったりする。そこには、プロフィールをベースにマーケターが望む相手を選別するというプロセスが入る。そして、生活者から返信されたりWebで入力された回答が、対話履歴データベースに入り、マーケターはその回答を見て次にどのようなアンケートをするかを決める。このように生活者とマーケターの対話を仲介するサービスがiMiネットである。2003年7月現在、登録者が65万人いる。販売代理店は170社あり、ここを通じて日本のさまざまな企業に提案しているのである。

iMi構想の背景

ネットワーク以前の社会は、印刷、放送、物流や決済などの生活インフラがベースにあった。それに最適化するように社会やメディア、マーケティングが生まれているわけである。この基本的なインフラの部分に変化が起きると、社会もメディアもマーケティングも変化する。その予測に基づいてiMiネットの構想が生まれたのである。

電子ネットワーク社会とは

電子以前はどうだったのかを振り返ってみると、身近にいる職場の人たちと顔を合わせる時間が一番長く、遊ぶのも飲みに行くのもゴルフをするのも職場の人とが多かった。身近な地縁、血縁、職縁の人たちとワン・トゥ・ワン対話関係、ほとんどフェイス・トゥ・フェイスの付き合いの世界であった。
通信の世界が広がると、電子メールという手段によって、疎遠だった人との関係が太く復活する。すると、昔の仲間と一緒に飲みに行ったり、ゴルフに行ったりということもできるようになる。電子ネットワークを通じて初めて知り合った電子コミュニティというものも生まれる。従来は「ご近所」というものしかなかったのが、「ご縁所」というダジャレのような、ちょっと遠い方々ともお付き合いができるのである。
自分にとって大切なリレーションシップを双方の意思で深め、広げる。そのような方向に電子ネットワーク社会は進んできていると認識している。大事なのは個人と企業の関係である。付き合う相手の選別が進む社会である。
従来マスメディアの世界で育った人たちには、自分たちは力が強い、世の中は自分たちの思い通りになると思い込んでいる人たちが多いが、ネットワーク社会は、消費者側に選択権が移ってしまう社会である。

リバース・メディア

マスメディアを中心にできあがっていた社会の結末として、すでに大量生産、大量消費、大量廃棄という構造が見えていた。マスメディアベースで動いている社会に対し、消費者から生活者の声をフィードバックし、誤差を修正していくような社会が生まれるだろうとわれわれは思ったので、iMiネットというものに着手した。
生活者から企業へのフィードバックによって、それまで大量廃棄されていたようなむだなものを作らないで、必要な人に必要なものだけを必要なときに届けるという、ジャスト・イン・タイムの社会を作っていくことが可能になる。マスメディアに対して、リバースメディアを構築するということが、電子ネットワークの歴史的使命であると考えた。
マスメディアをベースにしてできている市場は、売り手が店を構えて商品を並べる。供給サイド主導で製造したものをマーケットに押し込むために店があるという見方もできる。一方、リバースマーケットというのは、需要サイド主導である。店には顧客が並んでいて陳列されている。買い手のエージェントが店を構え、買い手が欲するものを供給する。そのような構造の逆転が起きるのである。

顧客指向マーケティング

ワン・トゥ・ワン・マーケティングが出てきてから顧客指向がクローズアップされているが、元々マーケティングには2つの概念があったというのが私の考え方である。
店があってそこに商品があり顧客が買って行く。帳簿に商品がいくら売れたと記録する1つの現実があるが、見方としては、「特定のお客様が買ってくれた」という見方と、「商品が売れた」という2つの見方がある。商品が売れたという見方は、「この商品をもっと売ろう」という考え方につながり、この商品のことをたくさんの人に知らせるためにはマスメディアが有効だし、どんどん売れればスケール・メリットが追求できる。これはマス・マーケティングへの道である。
もう1つの「お客様が買ってくださった」という見方は、特定の顧客に注目しているので、その顧客にもっと買っていただければ売り上げが上がる。もっと買っていただくためには、その顧客とのリレーションシップをもっと深めなければならない。これがワン・トゥ・ワン・マーケティングの道である。

メディア以前の時代にはそのような2つの要素があったのだが、1948年からアメリカでテレビの商業放送が本格化し、「われも、われも」とテレビコマーシャルを打つようになったのである。これが商業放送の始まりだと言ってもいいと思う。商品をもっと売ろうという発想、そのパラダイムが非常に助長され、20世紀の後半に続いてきた。
20世紀の終わりごろから、情報技術、あるいはネットワークが発達し、大規模な顧客データベースを運用し、また顧客と通信回線を通じてコミュニケーションができるようになり、一人ひとりの顧客と個別の対話ができる。また、そのことを記憶しておくこともできるようになり、ようやく顧客指向の時代になってきたのである。

なぜワン・トゥ・ワンが最近注目されてきたのか。1つにはITの発達とインターネットの普及によって個配や決済インフラが発達したことがある。生活者側から見ると、ネットワークの日常的利用が大きい。ネットワーク時代になって、地理的制約から解放され、生活者の側も付き合う相手、企業や店を選別する自由度が高くなってきている。
企業の側としても、マス・マーケティングの限界は当然ある。情報技術の高度化、低価格化によって、顧客識別マーケティングをしようと思えばできるようになってきている。時代全体のムードとしては、大量生産、大量消費、大量廃棄時代への反省、エコロジーへの関心が高まっている。
1つ付け加えると、このようなマーケティングのパラダイムシフトがあるとき、よくマス・マーケティングの時代はもう終わって、これからはワン・トゥ・ワン・マーケティングであるという見方をする人が多い。そうではなく元々2つの要素があったのだが、ワン・トゥ・ワン指向のマーケティングをやろうにも、マスメディアの時代にはできなかったのである。企業としてはこの両方を使い分けていく。マスメディアではブランド資産のマーケティング、ITでは顧客資産のマーケティング。その両方を使うことで、ハイブリッド・マーケティングの時代になったと私たちは考えている。

iMiのコンセプト

「Interactive Marketing Interface」のロゴの中に考え方が集約されている。iMiの1つのiは、industry、産業界である。もう1つのiはindividual、個人である。この2つのiが同じ大きさで、メディアを介して対等に向かい合っている。マス・マーケティングの時代は、圧倒的にindustryのiが大きかった。企業のメッセージを一方的に消費者の側に送り、消費者はそれからなかなか逃げることができなかったが、ネットワークの時代は、例えば電子メールで企業から案内をもらっても、それを気に入らなければすぐ「ノー」と反論することができる。
対等だということを踏まえてやるマーケティングがインターネット・マーケティング、あるいは対話マーケティングだということをこのロゴは表現しているのである。消費者サイドの声を企業に届けるという側面が強いので、消費者の声を活かす仕組み、それを活かすエンジンであるということで「声活エンジン」をiMiの基本コンセプトと考えている。

2003/08/08 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会