本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

ICタグで進化する出版・印刷物

従来のバーコードに代わる高度な商品・在庫管理の手段として,RFID実用化の検討が進んでいる。通信&メディア研究会では,印刷会社としてICタグビジネスにいち早く取り組んだ大日本印刷の久保田哲也氏を講師に迎え,最新動向を探った。

ICタグの基本特徴

非接触のICタグは,アンテナとチップで構成されており,読み取り装置から出る電波により反応し,データをやり取りする技術である。
チップを搭載している分,バーコードでは限界だった大きなデータが物に搭載可能となる。
日本自動認識システム協会(AIM)の2002年のデータによると,タグは年率40%程度で伸びており,2003年もさらに伸びる予測が出ている。
タグを読み取るインフラ,ネットワークに蓄積された情報を分析,加工することで経営資源にするような応用システムが登場する。
タグのコストが安くなってきており,FA的な用途から,物流・運輸,流通という形でアプリケーションが広まりつつある。

現在想定されるICタグの用途

現時点ではタグのコストが高いので図書館,レンタル品の管理などリユースされるものにタグを付けて,複数回の利用の中でコストを回収するような用途が進められている。
図書館,レンタル品の用途は,主に3つある。まず第1に,まとめて読み取ることができるので,図書館のカウンターでは,何冊あっても一度で手続きが済んでしまう。第2に,バーコードでは書棚の本を一つひとつ手に取って読み取りを行っていたが,タグであれば,書棚にハンディをかざせば読み取ることができる。第3に,ICタグで不正持ち出しの抑制ができる。バーコードでは実現できなかった点である。

第1世代の無線タグビジネス

現在のタグは既にこれまでいくつかの改善がされたものであるが,市場に盛り上がりを見せる今を,あえて「タグ元年」として第1世代とみなす。
第1世代のタグは,アンテナにチップを載せ,タグを作り,粘着加工などして商品に貼り付ける。ウエハーにできたチップを一つずつつまんでアンテナに載せてタグを作る(ピック・アンド・プレース)。つまんで落とすことを繰り返すので,大量にチップができても,実装で時間が掛かってしまう。製造ラインをたくさんもたなければならないので,タグ製造のコストは20〜30円程度の限界があると思っている。
第2世代は,チップそのものを小さくしてチップを安くする,高速でアンテナとチップを装着する技術を確立するイメージである。
具体的には,導電性のインキなどで紙,樹脂の表面に印刷でアンテナを形成する。そこにチップを載せれば,器材の上にタグが実装できるので中間工程が削減され,タグを安価に大量に商品に付けることができる。この世代のタグでは数円のレベルをターゲットとしている。
最終的に印刷で回路まで形成できれば,数銭のレベルに落ち次世代バーコードといわれる世代が来ると考えている。
第1世代のタグ作りとしては,DNPではもともとCRTのシャドーマスクなどを作っていたエッチングラインで行っている。PET基材の原反にアルミや銅を蒸着し,アンテナを形成するパターンのグラビア印刷を施す。その後,光を照射すると印刷した所だけが硬化する。続いてエッチング工程を経ることで印刷・硬化した所だけ残り,それ以外は溶けて大量にアンテナができる。これにチップを載せてタグを作る。
その他,グラビア,オフセット輪転機などでは導電性インキでタグ製造を研究している。

用途事例

ICタグ導入の当初の目的は仕分けを正確に早くこなすことであった。しかし,2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以来,導入の目的はセキュリティ向上となった。
例えば成田から来た荷物であれば,荷受時に数個所のデータが書き込まれていることが想定される。あるべき個所のデータがなければ,機内に運ばれる前に何らかの操作があったということが判明する仕組みである。
日本ではアパレル産業協会を中心に実証実験が行われているが,世界でも多くのアパレルメーカーが物流全般の合理化に向けて検証が始まっている。数十円のタグが付いても,商品が比較的高額であるので現時点でもコストをカバーでき現実的な市場である。
店舗では入荷,在庫検品の業務が多く,店員が顧客に対しての対面時間を十分に確保できない。業務を軽減し,対面時間を多くすることによって販売機会のロスを削減したいとしている。
またICタグ対応の棚を置くことで手に取る・戻す・試着するなど,販売前の商品の動きをつかみ,商品の需要予測を立てたいという要望もある。

出版業界の動き

出版業界には,書協,雑協,取協,図書館協,書店連盟の日書連の5団体がインフラセンターを設立している。本来,書誌データなどを統合し,出版,書籍におけるビジネスモデルや著作権が二次店に販売された段階で発生しないことを研究している。
2003年3月にインフラセンター内にICタグ研究委員会が設立された。書店万引きの問題も含めて,ICタグを用い流通全般のメリットを研究・検討することが設立の趣旨である。
ICタグ研究委員会の下部組織として,ICタグベンダーを中心とする技術協力企業コンソーシアムが設立された。
90社程度でコンソーシアムは組織され,これからICタグ研究会に対して提案していく。
この1年間で運用実現について結論を出すことが,ICタグ研究委員会でのミッションとなっている。
ICタグでの書籍流通がどのようになるのかを,サン・マイクロシステムズ,NTTの協力を得て「実験工房」として技術検証を行った。出版社,取次,書店を見立てたリーダーと上位システムで流通途中の本を可視化することをシステム化した。
あるいは,ICタグ対応の書棚にて,手に取られた,戻されたという時間が計測でき,プラスαの情報で新たなマーケティングに活用できる。

ICタグの課題と展望

まず第1にタグの低価格化のためには,業界単位で要望,意見をまとめることが重要である。
第2にはタグにどのようなデータを格納するのかという規格化が必要である。バーコードはUCC/EANに沿ってJANコードという流通標準が定まっているため広まった。コード体系は規格化団体や業界団体と協調することが必要となる。
第3にICタグに関わるベンダーは,タグとそのシステムを分かりやすくまとめて,ユーザや業界に提案することが必要になってくる。
第4として今後特に注意が必要なのは,プライバシーの問題である。ICタグにより悪意をもった者が所有者の断りなしに勝手に盗聴することも可能となる,また行動が追跡されてしまうことも考えられる。
いくつかの解決策はあるが,プライバシーに関しては慎重に取り組んでいかなければならない。

(通信&メディア研究会)

『JAGAT info 8月号』より

2003/08/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会