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生活者とともに創るメディア(1/2)

シンポジウム「顧客の顔が見えるメディア」(7月16日開催)から(株)オーケイウェブ 代表取締役社長 兼元謙任氏とイー・ショッピング・ブックス(株)代表取締役社長 鈴木康弘氏の講演内容を紹介する。

世界一役に立つQ&Aサイトを目指して

(株)オーケイウェブ 代表取締役社長 兼元 謙任 氏

OKWebコミュニティの存在意義

OKは、「教えて」「答える」の頭文字であり、疑問や困り事を抱えた個人の「質問」「回答」を仲介する日本最大のQ&A形式の情報交換メディアである。これまでに寄せられた質問は50万件、回答は156万件を超える。現在、登録者数16万人(1日約150人増加)、月2万の質問、6万の回答が寄せられる。OKWebの存在意義は、「世界一役に立つFAQポータル=世界知識資産を構築する」「Q&A Informedeiary(情報仲介)においてNO.1になる」ことである。

コミュニティには美容・健康、趣味、ビジネス・キャリア、コンピュータ・インターネットなど9ジャンル、350カテゴリーがあり、登録者(生活者)が質問を投げかけると、その分野に強い人が回答する形式になっている。いい回答をすると、点数をあげるような形になっており、この点数は、月間別、カテゴリー別にランキングが出るようになっている。ランキングに上った人たちは、答え上手、知識を持っていてなおかつ探すことが上手な人たちである。この方々にはお礼の手紙とシール、QUOカードを送っている。それだけのインセンティブで3年間続いている。

コミュニティ運営と同時にCRM(ヘルプデスク)と社内のナレッジマネジメントで約60社にツールを入れており、社内でのそれぞれのノウハウを交換するという形で使っていただいている。

ヘルプデスクの視点を

インターネットを通じて多くの情報がとれるようになったが、全ての情報が必要なわけではない。必要なリクエストを出した人にしか必要な情報を届けないという形がQ&Aである。そうでないと、情報の洪水にあってしまい、情報をどう整理していいかわからなくなる。だれかがほしいと言った情報をアーカイブとして残し、同じような質問者が現れたらそれを見せることによって、以前のQ&Aがさらに生きてくる。必要な情報が必要な人に届けられ、相互補完が成り立つことは、今、メディアに求められているものなのではないか。

アメリカにはヘルプデスクという業種がある。アメリカでは、商品の売買において顧客を一番見ているのがヘルプデスクで、ヘルプデスクこそが会社と顧客をつなぐ大切な部分だという。顧客に対する意識を持つことで、今後の企業価値を高め、国を強くしていくんだという思いを持っている。
メディアやCRMを読み解くキーワードの1つにヘルプデスクがあるのではないか。今までは、メディアによって一方的に情報を出したことが人々に与えられていたが、読者に対して一体どのように情報を提供すれば、他の媒体でなく自分を選んでくれるかという「ヘルプデスク」の視点がメディアには必要なのではないだろうか。OKWebでやっているヘルプデスクのノウハウを体系化していくことがメディアに生かせて、ビジネスにつながっていくのではないかと思う。

必要な人に必要な情報を

既存のメディアでは、発信者が取材・編集し媒体に載せたものがだれかにつながる。一方、OKWebでは、情報をほしい人がリクエストしたものに対し、実際に体験した生活者たちが自己取材・編集したものを載せ、情報をほしかった人が評価するようになっている。メディアは、インターネットによって、情報を与える人と受ける人の形がこのように変わってくるのではないか。

メディアというのは、必要な人に適切な情報が、それを持っている人から提供される場となってきた。将来は、世界一役に立つ質問の窓口になりたい。いずれ、メガネや時計に端末がつく時代が来るだろう。そのとき、音声などで質問すると、自分に最適な回答が出て満足できるインフラができるといい。

顧客と創る書店空間

イー・ショッピング・ブックス(株)代表取締役社長 鈴木 康弘 氏

イー・ショッピング・ブックス株式会社は、ヤフー、セブン−イレブン・ジャパン、ソフトバンクBB、トーハンの4社の出資で成り立っている会社で、株主資産を最大限に生かしたビジネスモデルである。平成11年の8月設立、同年の11月営業を開始し、サイト名は略称で「イーエスブックス」である。

顧客と書店

1992年には2万2214店舗あった書店が、2003年には1万9629店舗になった。こうまで書店が減っていけば、それだけ顧客に届くパイプがなくなるわけである。顧客が求める書店が減少してきていることが、この数字で証明されているのではないか。何が起きているかというと、1点目に、顧客が欲しい本と出逢えていない。2点目は、顧客にとって価値がある本に出逢えていない。3点目に、顧客が求めるサービスがないのではないか。
顧客の多様化してきたニーズと書店とが完全にずれている。そういう中で、顧客のニーズを追い掛けるだけではなく、顧客と一緒に動けないものだろうかということを考えたのである。

顧客と創る書店空間「みんなの書店」

顧客のニーズは十人十色、日本人は1億人以上いるので、1億のニーズがあるだろう。その無限のニーズに対して、一人ひとりにワン・トゥ・ワンで提案ができないか。無限の提案をするには、無限の顧客同士が提案しあえる空間をつくったらどうだろうという発想が「みんなの書店」の始まりである。「みんなの書店」というのは、顧客が「イーエスブックス」のサイトの中で書店を経営できる仕組みである。2003年7月16日現在で、約1万5153人が参加している。
各書店には商品が並んでいると同時に本に関するコメントが書いてある。このような情報を参考にしながら、今まで見たこともない本に出逢うことができるのである。

この書店経営に参加すると、経営ゲームのように、月別や日別にいくら売れたのかが分かるようにもなっている。自分の書店であるから、少しずつ売れていくことが非常に楽しい。すごくいい本だと思ったときに、人に紹介したくなる気持ちはだれにもある。ここに参加すると、日本全国顔も見たこともない人に本を紹介できる。そして、どのように売れていったか、自分の書店に何人ぐらい顧客が来てくれているのかということも楽しみながらできる仕組みである。
同じような思いを持っている人が集まって「グループ」をサイト内で構成できるようにもなっている。顧客と顧客がつながる空間である。また、出版社と組んでつくっている「みんなのフェア」があり、そこでは、顧客と出版社がつながっている。

約1万5000人の参加者は、自分の棚に並べた本にコメント(書評)を書いてくれる。そして、ほかの顧客はこういうものを参考にしながら買うのである。「みんなの書店」を展開することによって、100万を超える書評が無料で手に入っている。これは財産である。

顧客が主役の時代

顧客を取り巻く環境はここ数年で劇的に変化している。書店だけではなく、一般的な市場全体にいえることかと思う。インターネットの普及による顧客環境の変化、価値ある消費への顧客環境の変化、顧客主役意識による顧客環境の変化がある。
「みんなの書店」が今活性化されている最大の要因は、今まではメーカー、卸、小売で考えていたことを、これからは顧客も入って考えていくことが必要になったからだ。もっともっとやらなければ顧客に見捨てられることを実感する。とにかく「お客さま第1」と昔から言われているが、それを徹底してやらなければならない。

イーエスブックスが目指していこうと思っているものは、「あなたのための本に出逢えるインターネット書店」になり、「本をこよなく愛し、本を通して成長したいすべての人にご満足いただける商品やサービスを発見し、提案していく知的で頼りになるコンシェルジェのように接する」ことである。そして、「みんなの書店」の店長さんの中から、作家を生み出したいと思っている。顧客自身がものを書いていく時代が来ているのではないかと思っている。

(つづく)

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2003/08/15 00:00:00


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