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特集もっと使えるPDF――印刷での活用

Acrobatが6にバージョンアップし,専門的なパブリッシングユースとエンジニアリングプロフェッショナルを対象にしたProfessional版と,主にオフィスユース向けのStandard版とに分かれた。プロフェッショナル版の新しい機能として,分版出力,トンボ・カラーバー設定,プリフライト機能,PDF/Xサポートなどが目につく。これで,面付けが不要なものなら,一応Adobe PDFでの印刷ワークフローは構築できる。また,Acrobat6ではPDF/Xに準拠し,ジャパンカラー2001,雑誌広告基準カラーをベースにしてアドビシステムズが開発したカラープロファイルなどが搭載された。また, Acrobat PDFだけでなく,各ベンダーが提案するPDFワークフローもあり,PDFをどのように活用していくのかでワークフローの組み立ても変わってくるだろうし,PDFを印刷のワークフローに取り入れるメリット明確化しなければならない。PDFワークフローを構築するにしても,まださまざまな課題を抱える。印刷現場におけるPDFを活用したワークフローを構築する上での課題と可能性を探る。

顧客志向のビジネスワークフローの改善――PDFワークフローの課題

AcrobatとPDFが発表されて,今年で10周年である。この10年でAcrobat,PDFはドキュメント閲覧ツールとして,ほぼデファクトスタンダードの地位を得たといえよう。Acrobat,PDFは,一般企業や行政においても,ドキュメント生成・閲覧,および情報配信のツールとして,Web・ネットワークの普及とともに広範囲に普及している。
一方,印刷業界に限って言えば,プリプレス工程における中間データや入稿データのファイルフォーマットとしての利用が期待されていた。データ入稿については,欧米では,既にPDFのデータ入稿が増え続けている。しかし,日本国内の場合では,アプリケーションソフト固有のフォーマットでの入稿が主流である。
日本国内での印刷分野におけるPDFの普及については,異論があるかとも思われるが,概してPDFを中心としたワークフローに進んでいくものと思われる。それは,フィルム出力からCTPへの本格的な移行や,前述の一般企業でのPDFの普及とも関連する。
ここでは,PDFワークフローを構築する上での問題点を探り,今後の方向性を探る。

印刷データにPDFを利用する利点

例えば,現状の主流であるアプリケーションソフト固有のフォーマットでの入稿に対して,PDF入稿となるとPDFフォーマットへの変更という手間があり,工程が一つ増えることになる。一つ工程が増えてでも,PDFデータで入稿する必要性はどこにあるのだろうか。そもそもプリプレス工程でPDFを利用するメリットはどこにあるのだろうか。
まず,印刷会社の視点で,PDFを利用するメリットについて2つの面から考えてみる。
一つは,データ入稿の面からであり,もう一つが置き版データとしての管理面からである。
データ入稿とは,印刷会社がクライアント,デザイナー,制作会社などさまざまな相手から受け取るデータである。印刷会社もデータ作成側もプラットフォームがMacで,アプリケーションがQuarkXPress,Illustratorなどに限定できるのであれば,QuarkXPressのアプリケーションデータをそのまま入稿し,画像はアタリのラフデータで画像のスキャニングを含めて印刷会社が行うという流れが一般的である。
この場合,印刷会社はデータのチェックや,出力間際でのテキスト・レイアウトの修正を行うことも多い。その代わり,納期・金額面で主導権を取りやすく,ある程度得意先との固定的な関係を築くことができる。このような仕事では,入稿データをPDFにするメリットはほとんどないだろう。
しかし,QuarkXPress以外,例えばInDesignやEDICOLOR,PageStudio,またはPageMakerやFrameMakerなどのアプリケーションソフト,またWord,Excel,PowerPointといったWindows上のMaicrosoft Officeのデータ,あるいはPostScriptデータで入稿されるような場合には,PDFデータでの入稿へ移行することによるメリットが多い。
PDFデータなら入稿後,どのマシンでもデータを開くことでき,画面で見ることができ,プリントアウトすることもできる。つまり,自社にQuarkXPressしかもっていなくて,それ以外のInDesignなどのアプリケーションで制作されたデータが入稿されたとしても,PDFデータならば問題なくデータを開いて内容を確認し,出力できる。
また,PDFが生成された時点でノーマライズされており,PostScriptエラーになることもないので,安定したデータを受け取ることができる。
さまざまなアプリケーションのデータのチェックを印刷会社側で行うのは,大きな労力を必要とするので,トラブルの少ない安定したデータが入稿されるメリットは大きい。
InDesignを例に取って考える。まず,InDesign自体がPDFを極めて簡単に書き出す機能をもっている。OpenTypeでもCIDフォントでも埋め込むことができ,その時点で,フォントの有無や画像の有無もチェックすることが可能である。
受け取る側では,InDesignのアプリケーションデータで入稿されるよりも,フォントを埋め込んだPDFデータを入稿してもらったほうがデータ出力の際の安定度が高い。フォントの有無もすぐに確認できる。データを受け取る印刷会社では,InDesignに対する知識や問題を回避するテクニックが十分でなくても,またInDesign自体がなくても,出力することが可能である。さらに,PDF知識を熟知することにより,スムーズな運用が可能となるであろう。
次に営業的な面からである。例えば,プリプレス部門においてQuarkXPressでのデータ入稿・制作・出力で,フル稼働状態であるような企業であれば,データ入稿形態を広げる余裕もないだろう。ところが,受注が減少気味であるなどの問題を抱えているようなケースがある。この場合に受注を拡大していこうということであれば,PDF入稿によって,さまざまなアプリケーションのデータやWindows Officeなどのデータを受け取り出力することが,営業面のアピールにつながる。
その際に必要なのが,PDFそのものをよく理解することであり,あるいはさまざまなPDF関連ツールに対する深い知識と経験である。
例えば,プリプレスにおけるPDFデータの運用で不安となる部分は,多くの場合に分版やRGBデータの扱い,塗り足し(断ち落とし)の扱い,面付けなどとフォントの扱いである。
このような課題に対しては,Enfocus PitStopを始めとする,いくつかのAcrobatプラグインツールを使用することにより,ほとんどの対処が可能である。
(以下詳細は本文へ続く)

『プリンターズサークル9月号』より

2003/09/04 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会