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チラシ作りのノウハウが生み出した自動組版ソフト

受注産業と言われてきた印刷業だが,実際には独自のノウハウや技術力により,顧客のニーズを先取りした新製品や新技術を生み出している印刷会社も少なくない。
今回は,長年にわたるチラシ制作のノウハウを生かして,Illustratorによる自動組版ソフトを自社開発した,株式会社国栄の代表取締役社長粕谷基氏に開発の経緯と今後の方向性を伺った。

トータルプリンティングシステムの確立を目指す
国栄(本社・東京都東久留米市)は,先代の粕谷栄作氏が時計など精密機械部品の下請けをする機械制作所として1962年1月に創業した。2年後には,包装資材の卸業を営むようになり,地元のスーパー・小売店に紙を卸していた。顧客先に出入りしているうちにチラシやカタログの印刷を請け負うようになり,本格的に印刷業を始めた。直請けをしていた関係で社内にデザイン課を設けて,内製化していた。つまり当初からトータルプリンティングシステムの発想があったという。
1986年に最初のオフ輪を導入する。それまでは平台しかなくて,チラシをやるなら輪転機があったほうがいいとアドバイスされ,2色+2色の輪転機を購入した。それがうまく稼働して,数年後には2色+2色と4色+4色のB3縦巻四裁オフ輪を導入している。仕事の割合としては,直請けは7割強で,残りは同業の仕事であるが,最近はあまり景気が良くないので同業の仕事は多くないとのことである。
DTP化は早くから検討していた。ただし専用機でのDTPは思ったほどの効果がなく,Macintoshになってからスムーズにシステムを組めたそうである。イメージセッタの導入も早い時期で,現在もフィルム出力で使用している。CTPについては今のところ静観しているという。現状は品質に問題があるわけでなく,社内の工程を変更するには,景気の状況,設置場所などの問題が大きい。コスト面だけでCTPに替えていくならもう少し様子を見たい考えである。
顧客は,地元の東久留米から清瀬,所沢近辺の三多摩地区が多く,ほかにも埼玉県や千葉県など関東近郊を営業エリアとしている。

データベース構築とWeb上の自動制作システム
デジタル化やITへの取り組みにも積極的であるが,これは粕谷氏がソフト会社にいた経験があり,社長自ら開発をしていることが背景にある。
現在写真などのコンテンツ関連は,100%デジタルデータにして,取り扱いルールを決めて格納している。以前は,単純にファイルを保存しておくだけだったのが,社内でシステムを開発し,リレーショナルデータベースを構築・管理するようになり,高速検索も可能になった。
またWebによる自動制作システムを自社開発し,印刷も行っている。ホームページ上に公開されている名刺やハガキなどのテンプレートにデータ入力するとIllustratorデータに変換されて,担当営業に届き,印刷工程に流れる。仕上がりイメージは,プレビュー画面で見ることができる。
もっともこのシステムでは,Web印刷による売り上げを見込んでいるわけでなく,「今のところは,こういうことができるという自社の宣伝色が強い。お客様のほうで,新しいビジネス展開のきっかけにでもなってくれたらうれしい」というスタンスでいる。

Illustratorのプラグインソフトを自社開発
同社の開発した「AutoPublisher Designer's Edition」は,MacintoshにおけるIllustratorのプラグインとしてチラシ作成などの自動組版を行うソフトである。
チラシやカタログの制作には,今のところMacOSでのIllustratorを使用するケースが圧倒的に多いだろう。「AutoPublisher Designer's Edition」は,同社の業務の中から実務に即して開発されたものなので,使いやすさを追求している。大量の画像とそれに付随するテキストをマッチングさせながら自動的にIllustratorの画面に配置させていく。従来のように個々に画像を配置したり,テキスト入力したりする手作業の手間が省ける。その分業務の効率化と制作時間の短縮,校正ミスの防止などのメリットがある。既存の環境をそのまま利用するので導入に際してのコストパフォーマンスにも優れている。ファイルシステムによる画像データベースなのでネットワークの構築も簡単に行える。
販売スタッフが社内にいないので,練馬区にあるマイクロメディアに委託している(本号機材フラッシュ欄参照)。来年2月のPAGE2004にも出展が決まっている。
製品の特長は以下のとおりである。
1. データベースシステムの構築
写真やイラストを始めとする各種素材やロゴ,テンプレートなどのコンテンツをサーバに保存する。バックアップはDVDでも使用できる。
2. 一括検索
テキストファイルの取り込み,または直接テキストを入力して複数の写真やイラストなどの画像データを瞬時に検索し,該当する画像ファイルのパス情報とともに商品情報を付加してテキストデータを作成する。検索のために入力したテキストもそのまま追加される。検索した画像データとテキストデータを一括してメディアに出力することができるので外部への業務の委託も正確で簡素化される。
3. テキストとテンプレートを読み込む
インストールすると自動組版システムがIllustratorのプラグインに追加される。
4. 自動配置&流し込み
ViewFindで作成した検索結果のテキストファイルを元に写真や商品名,メーカー名,金額などをテンプレートの所定の位置の画像やテキストに次々と置き換えるので瞬時に版下が完成する。またViewerから写真やイラスト,テンプレートなどをIllustrator上にダイレクトに配置したり,作成したアプリケーションを起動させて編集したりすることが可能である。
5. スピード修正
作成されたデータはすべてIllustratorの編集機能で修正や加工をすることができる。またAutoPublisherの機能でテキストや画像を修正して再度置き換えることもできるし,重ね文字の修正も一度の操作で完了する。

顧客支援のシステムを提案
パソコンが普及したとはいえ,顧客からの原稿は手書きがまだ多い。スーパーや店舗からデータで簡単にすぐに原稿を発注できるようなシステムができれば,社内での「AutoPublisher Designer's Edition」の利用も飛躍的に進む。販促のための売上分析とか調査,プライスカード機能を搭載できれば,顧客のマーケティング支援をする印刷会社としての売りにもなる。
今後とも顧客支援のシステム構築し,付加価値のある印刷物を提供することで,差別化を図っていきたいという。

JAGAT info 2003年9月号より

2003/09/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会