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そこまで言う? 「組み放談」その2

*-*-*-* プロフィール *-*-*-*

H氏 出版社勤務の若手編集者。編集歴10年。O氏の会社にたびたび出張校正に行っていた縁で,O氏とは飲み友達である。O氏の会社には全幅の信頼を置いている。

O氏 若手だが中堅印刷会社で組版の実質的責任者を務めるオペレーター。同じ60年代生まれということもあってH氏とは飲み友達であるが,H氏の仕事は厄介なものが多く,いつもエラい目にあっている。


H--- ところで他に困ったことってある?

O--- そうだな,自分が知ってる組版ルールを普遍的に正しいと教条的に信じてる編集者かな。たとえばさ,こないだある書籍をやったんだけど,3段組で行長が短かったわけ。それで音引きと小書きの仮名[注1]は行頭禁則にしなかったんだけど,初校で「オンビキは行頭禁則です!! そんなことも知らないのですか」と,きたもんだ。編集者が雨だれ[注2]を二つ書く時って,かなり怒ってる?

H--- ど,どうやろ? むしろ俺は著者校正で雨だれ二つ書かれることが多いけど。「○○としてはいかがでしょうか」って書いて校正送ったら,著者から「必要なし!!」って。これ,著者は怒ってるんやろか? ちなみに俺自身は,雨だれは一つしか書かへんけどな。

O--- 書くんかいっ!

H--- たしかに音引きと小書きの仮名を行頭禁則にするかどうかは,行長とかによって変えるのが自然やけど,教条的に行頭禁則文字と思ってる人は多いかもな。ちなみに日本エディタースクールでは,これらが「行頭に来ることは許容」やで[注3]。

O--- へーそうなんだ。まっ,こちらとしては,指定されたらそれが仮に変なルールであってもその通りにやるけどね。指定が無い事柄に関しては,制作物の性格を考えてその場で適当なルールを選択してるつもり。

H--- ハウスルール[注4]はそれぞれでええねんけど,まあ変なルールを採用してるとこもあるよなあ。

O--- 本文なのに「約物はすべて半角ドリ」とかね。あと,「追出し優先」なんてのもあったよ。

H--- 「追込み優先」[注5]か「追出し」なら意味が分かるけど,「追出し優先」は意味が分からへんな。どーゆー意味や。

O--- 知っら〜ん。といあえず追出しのみにしてゲラを出したら文句は来なかったけど。

H--- 追出しっちゅーのは,文字間を開けば常に可能なので,「優先」ちゅーのは意味が分からん。

O--- 面白いのは一歯詰め[注6]だね。12QリュウミンLの本文に一歯詰めを指定しておいて,見出しの28Q中ゴシックBBBにも「一歯詰め」って。要するになんでもかんでも一歯詰めなわけ。

H--- リュウミンは字面がちょっと大きいから,12Qで一歯詰めなんかしたら文字がくっつくんちゃうの?

O--- 文字によってはくっつくね。仮名は大丈夫だけど。いずれにしてもきゅうきゅうで読みづらい。

H--- 本文をそこまでしておいて,28Qでも一歯詰めなわけ? つまり詰め組みは一歯詰めしか知らん,と。ふつうは,モノによって0.5歯詰めとか,プロポーショナル詰め[注7]とかってやるけどな。

O--- どうもそれがハウスルールになってるらしいんだけど,どうしてそういうのがハウスルールになるわけ?

H--- どうやろ? 一歯詰めはデザイナーさんが好む傾向はあるけどな。変なルールが多いのは,先輩から教えられたことをそのまんま受け継いでるからとちゃうか。ほら,出版社って小さい会社が多いやん。システマティックな編集者教育があるわけでもなくて,先輩に「こうするんや」って言われて,ちゃんと理解せえへんまま信じてたりな。見出しは「一歯詰め」と書くんやって言われて,なんか知らんけど全部に一歯詰めって書いてるんかも。

O--- 詰め組みの意味を考えたりしないのかな。

H--- んー,ちょっと言い訳がましいかもしれへんけど,編集者って組版だけ考えてればええんやなくて,いかに文章を良くするかとか,いかに著者に催促するか(笑)に心血を注ぐねん。編集者のタイプにもよるけど,組版をあんまり勉強せえへん,というか,する余裕のない編集者は多いやろな。

O--- そういう事情は分からないでもないけどさ。だったらある程度信じてまかせて欲しいんだよね。

H--- まあO氏のとこは俺は信用してるで。テキトーに指定しても上手いことやってくれるから。せやけど一般には編集者で印刷会社や制作会社を信じてない人は多いような気がする。

O--- 相互不信ってことだね。

H--- そう。それについては次回話すことにして。

(次号につづく)

[注1]「っ」「ゃ」などのこと。伝統的には「捨て仮名」と呼ばれている。

[注2]感嘆符(!)のこと。

[注3]『文字の組方ルールブックタテ組編』,『同 ヨコ組編』,日本エディタースクール出版部(2001)。

[注4]出版社や印刷所ごとに決めたルール。

[注5]行末調整が必要なとき,極力約物まわりなどを詰めて追込み調整すること。追込みで調整できない場合に限り追い出す。

[注6]文字間を一律に1歯(1Qに同じ)詰めて組むこと。文字間の詰め量は当然,書体や文字サイズに応じて変えるべきである。

[注7]文字の字面に合わせて詰めること。

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2003/09/19 00:00:00


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