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活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(1)─ フォント千夜一夜物語(34)

情報機器やDTPが普及してから、印刷用書体のことを「フォント」という言葉で代表さ れている。書体は英語でいうと「タイプフェイス(typeface)」のことをいい、「フォント (font)」は欧文活字における同一書体、同一サイズの一揃えの意味をいう。したがって「タ イプフェイス」と「フォント」は意味が異なる。

最近ではDTP、コンピュータや情報機器関係では、欧文文字だけではなく和文文字を含 めた文字関係の総称として使われ、デジタル化したものを「デジタルフォント」、アナログ 状態のものを「アナログフォント」という言い方をしている。

では書体(タイプフェイス)とは何かといえば、文字の点・画をレイアウトして、一定 の字形にデザインしたものをいう。印刷用和文書体には一般的に明朝体、ゴシック体(角 ゴシック/丸ゴシック)の他に、教科書体、楷書体、行書体、草書体、隷書体などの筆書 系書体がある。

そして今日では、多種多様な明朝体やゴシック体がある。なかでも明朝体の系列には、 活字書体を含めて写植書体、デジタル書体として開発された数は数えきれない。加えて明 朝系、ゴシック系の流れを汲む書体も存在している。

この他に写植書体として特有の、といっても印刷用書体であるが「ナール」や「シリウ ス」、「じゅん」という名称の丸ゴシック体の他に、「ナウ」「ゴナ」「タイポス」などの書体、そして特殊書体としての江戸文字や多様なディスプレイ書体などがある。

同じ明朝体やゴシック体の名称でも、デザイン上の微妙な差がある。しかしA社のもの とB社のもの、あるいはC社のものが、デザインは異なっていても、その書体としての典 型では変わりはないわけである。

いままで「良い書体とはどういう書体のことか」と論じられることがある。良い書体と は一言でいえば、あらゆる要素を満たしていて、よく使われている書体のことをいう、と いえるであろう。

●明朝体は本文書体として万能か
つまり見慣れた書体で、読者の目に頻繁に触れていると、目に馴染んで抵抗感がなくな る。したがってよく使われ、目に親しんでいる書体は「良い書体に成り得る素質がある」 ともいえるのではないか。

その例として、明朝体は横線の終筆部に「ウロコ」というセリフをもつのが特徴だが、 見慣れてくるとその特徴は当然なものとして、ほとんど意識されていないことである。 どの書体に対してもいえることだが、潜在意識では書体の特徴を細かく読み取れてはい ても、書体を判断し意識するときに使われる言葉は「きれい・きたない」とか、「すき・き らい」あるいは「みやすい・みにくい」などの幼稚で抽象的な表現でしかない。

最近横組みの印刷物が増加しているが、実はこの明朝体の「ウロコ」というエレメント が、横組みにおける目の視線の流れを妨げている、つまり可読性を損ねるという視覚的理 由がある。

しかし上述した理由により、大多数の日本人は読み慣れた明朝体に好感をもっている。 そのため日本の印刷書体における明朝体の位置づけが、本文書体の代表として偏重されて いる、といってはいいすぎであろうか。

本当に明朝体は、本文書体として万能であろうか。他に明朝体に代わり得る書体がない のか。また和文文字は縦組み用に適しているといわれているが、では横組み用に適した明 朝体は生まれないのか、あるいは新しい本文書体が生まれてもよいと思う。

別項で「明朝体漢字・かな」について取り上げ、明朝体の本質について追求し解説して みたいと思う(つづく)。

フォント千夜一夜物語

印刷100年の変革

DTP玉手箱

2003/10/04 00:00:00


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