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営業マン頼みでどこまで通じるか

この数年,企画提案型営業という言葉が頻繁に聞かれる。一時期,印刷業界でも「ソフトサービス化」が盛んに言われたが,業界全体としてそれが大きく実らないまま,今は「企画提案型営業」一辺倒の感がある。そして,そのための営業マン教育に強い関心が示されているが,果たして営業マンの能力向上だけで具体的にどの程度の成果を上げようとしているのだろうか?
ソフトサービス化の時もそうだが,目指す内容,レベルに応じて内部の体質転換を図っていかなければ,得られる成果も期待したものにはならない。

弱いソフト化の必要性意識

印刷業に対する顧客のニーズは,単なる印刷物提供への期待レベルから印刷物利用全体を統合化したレベルへと変化し,さらにハードを伴わないサービス提供への期待もある。従って,印刷業が顧客に提供する機能も,業界全体としては印刷物製造以外に拡大,多様化する,つまりサービス化する必要がある。企画提案型営業が言われるのも同様の認識によるものであろう。
課題は企画提案型営業をどのように実現するかにある。しかし,大方の企業は,顧客に提供する内容,機能に関しては相変わらず新しいネタを仕入れてそれを顧客に提供していくようなレベルで考えているし,そのための方策はとにかく営業マン教育といった範囲でしか考えていない。問題は,サービス化の内容,レベルをどこに設定するのか,そしてそれに応じた内部体質の変質,つまり組織のソフト化について考えられていないことである。
考慮すべきことは,サービス化の内容,レベルに応じた組織体制であり,例えば,優れた企画力をもった従業員ならば,営業部長よりも収入が多いといったこともあり得る賃金体系などである。日常的には,若い営業マンが顧客から面白そうな相談を受けたといって一生懸命話しているのをフンフンと聞いた後,ところで今日の売り上げはいくらだったのか,と聞くようなことで企画提案型営業マンは育つのだろうか? つまり,営業の評価軸についての見直しも必要なはずである。
さらに,求める方向によっては,営業だけではなく生産機能強化のための組織変革も必要になる。もちろん,営業マンの能力向上のみで可能な範囲の企画提案型営業を目指すというのならば話は別である。
以下に,印刷企業の機能の変化に伴ってどのように組織は変化していくのかについて,日本印刷産業連合会の報告書『平成5年度 印刷産業におけるソフトサービス化の在り方に関する調査研究』から抜粋,一部加筆して紹介する。

製造業としての営業機能は限定的

図1は,左側の従来の印刷をめぐる一般的状況に対して,右に行くほど顧客のニーズが拡大,多様化している状況を示している。また,左右の差は企業規模の差と相関するものであり,右に行くほど規模の大きな印刷業に多く見られる状況である。

従来,印刷物の種類や印刷会社の機能への要望,期待は現状に比べれば限定的であった。得意先は原稿を作る側で,原稿どおりに大量複製するのが印刷会社の役割であった。また,印刷物の種類も印刷・加工仕様もそれほど多様なものではなかったし,印刷会社への期待も指示した物を希望の日までにきちんと作って納めてくれればいいという限定された範囲のものであった。
つまり,与えられた情報の素材(文字,画像)や媒体(紙,プラスチックなど)を安く,早く,きれいに再現,加工するのが印刷産業の役割であった。
v 上記のような範囲での印刷物製造のために印刷会社がもつべき機能は「受注」と「生産」で,受注機能は「営業部」が,生産機能は「製造部」が果たす。営業の主たる役割は以下の3つである。
〔1〕顧客に対する工場の受け入れ窓口
〔2〕進行途中での顧客と工場との中継ぎ
〔3〕工場の仕事の充足
営業の機能は顧客と工場の仲介であり,さらに,生産現場で機械を回すことができなければ話にならないから,とにかく仕事を工場に流し込むことである。営業マンの能力としては機敏なフットワークが重視される。
製造部の機能は,指示指定に従った大量複製,素材加工であり,生産管理は進行管理が中心の業務で,組織機能としては工場の中に置かれた「工務課」がその業務を行う。まさに,受注産業であり製造業である。

多様化に必要な営業と工務の仕様設計機能強化

印刷技術の用途は多岐に広がり,印刷物に求められる機能は多様になってきた。一方,発注者の印刷知識不足が見られるようになってきた。
こうした状況では,顧客自身が求める印刷物を具体化できないため,印刷企業側からのアドバイスを求めることになる。顧客は基本的な要望と仕様を営業マンに伝え,印刷企業側で具体的な仕様を固めることが必要になる。いわゆる,コンセプト発注への対応力である。
従って,営業マンがしっかりした印刷物製造の知識や新しい材料などの知識をもつことが,顧客の問題解決の要件となる。
仕様が多様で複雑になると営業マンの知識向上の範囲だけでは生産効率をも加味した十分な仕様設計はできなくなるので,工場サイドで営業の窓口となる工務の機能として仕様設計機能が求められるようになる。ただし,この仕様設計の範囲はあくまでも与えられた情報素材や加工素材を「加工」するプロセスに限定されるものである。
このような状況での課題は,主に営業マンの意識改革と知識レベル向上のための教育である。また,外注の数も増えるから,多様な業者とのネットワークも重要な要素となる。デジタル化に伴う電子媒体制作に関しても,あるレベルまでは同様である。

営業マン教育だけでは対応できないサービス機能

顧客の業務に入り込んだ機能を代行するレベルのサービス機能を提供するならば,営業マンの意識改革,知識向上だけでは不十分である。
例えば,PR誌の内容企画から編集制作を含む業務を一括代行するような場合は,その業務に関する専門能力をもった専任者あるいはその専任者の集団としての専門部門をもつことも必要になる。その名称は機能によってさまざまだろうし,機能によっては生産部門への所属が良いこともあるし,営業部門に近い組織が良いこともあるだろう。
また,印刷物の種類,仕様の一層の多様化による外注の頻度,対象が増えれば,その管理精度の向上も求められてくる。従って,製造部の中の工務部という位置付けでは不十分で,製造部と対等レベルの「生産管理部門」であることがよりふさわしいものになる。
上記のような機能をもつ段階では,内部組織としても間接部門的組織の比重がかなり高くならざるを得ない。組織の「ソフト化」である。

より幅広い専門機能としての企画部,技術部

顧客の商品の販売促進について,オリエンテーションを受けて具体的な販売促進の企画を提案するといった,さらに深く顧客の従来業務に入り込んだ業務,あるいは既にそのような業務を専業としている企業があるような分野の領域まで事業の範囲を広げていくならば,いわゆる編集部門とかデザイン部門のようなある限定された専門機能ではなく,マーケティング,商品企画などのより総合的な専門能力をもった組織が必要になる。
生産面でも,DTPやITを有効利用した編集,デザイン工程からプリプレスまでの合理化システムを顧客に提案,システムを構築することによって,顧客のメリットを出すと同時に,印刷側のメリットも生み出していくという大掛かりなシステムの変更,構築によるサービス化もある。
このようなレベルの提案内容はシステム開発あるいは自前技術の用途開発になるので,そのための高度な専門機能が必要となる。通常でいう技術部が必要になるだろう。
ここに至ると,当初の営業部と製造部の構成から,企画部門,デザイン部門,生産管理部門そして技術部門とかなりの間接部門が必要になってくることが分かる。もちろん,それらの機能を果たすために,その仕事に関わるほとんどの能力を自社でもつのか,自社内には全体を考えコントロールする機能をもち,後は外のネットワークを使うかは,内容範囲や想定する規模で違ってくる。

企画部に仕事をさせる仕掛けとしての販売促進部

さて,企画部門や技術部門の機能が実際に機能すれば,それなりの受注促進,付加価値向上効果は出てくる。最初のうちは,これらの機能が遊ばずに有効に働く市場も確保できるだろう。しかし,ニーズが顕在化したマーケットの掘り起こしが済むと,かなりの資本投入(人的,資金的)をしている企画部や技術部の機能を有効に生かせるだけの「新たな市場の発掘」が必要になってくる。つまり,印刷業自身の販売促進がないと企画部門のような専門機能を十分に働かせるだけの受注が得られない。ここで,印刷企業が自ら情報発信をして顧客の期待感を高めたり,顧客の迷いに対する回答を提供するという機能が必要になる。例えば,印刷企業がある商品の市場調査を行い,顧客に販売商品の提案をしたり,販売促進のさまざまなデータを提供するなど,印刷側からの働き掛けがないと需要が生まれないということになる。
いろいろな情報を発信し自社に仕事を流し込んでくる仕組み,つまり,「自社のための販売促進機能」が必要になってくる。
中堅の印刷企業では企画部門がこの機能を代行することが多いだろうし,定まった「評判」「看板」がこの販売促進の役割を果たすこともあるだろう。しかし,より大きな市場を確保しようとすると,どうしてもこのような機能をもつ組織が別個に必要となるようである。大手印刷企業の販売促進はこのような位置付けにある。
(続く⇒印刷業のサービス化に必要な発想の転換)

『JAGAT info』9月号より

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2003/10/01 00:00:00


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