本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

そこまで言う? 「組み放談」その3

*-*-*-* プロフィール *-*-*-*

H氏 出版社勤務の若手編集者。編集歴10年。O氏の会社にたびたび出張校正に行っていた縁で,O氏とは飲み友達である。O氏の会社には全幅の信頼を置いている。

O氏 若手だが中堅印刷会社で組版の実質的責任者を務めるオペレーター。同じ60年代生まれということもあってH氏とは飲み友達であるが,H氏の仕事は厄介なものが多く,いつもエラい目にあっている。

D氏 若手書籍デザイナー。書籍専門のデザイン事務所に7年勤めたあと,独立。O氏の紹介でH氏の仕事も受けることに。


H--- 前回,オペレーターと編集者の間の相互不信っていう話で終わったんやけど,相互不信と言えばやっぱりデザイナーさんに出て来てもらわんと(笑)。そんで,Dさんに来てもろたワケ。

D--- よろしく〜。のっけからヤバげな話だわね。

H--- それはそうと,O氏のプロファイルの,俺の仕事でいつもエラい目にあってるっちゅーのは,どういう意味やねんっ。

O--- だってそうじゃん。割注の中の行の左右に別々の傍線引くとか,ルビを両側に付けたり,和文とアラビア語の混植とか,ノンブルを逆順に振るとか[注1〜3],面倒なのばっかし。こないだは索引の構造が複雑なんで,専用のプログラムを組んだし。

H--- まあな。でも簡単な組版やったら自分で組むって。その方が早いし安いもん。赤字とかも自分だけに分かる略記法ですむから楽やし。

O--- いま思えば,組版のこと,いろいろ教えてやったのが失敗だったかな〜(笑)。商売上がったり。

H--- で,本題に入るけど,この中で「ちっ,バカ編集者がっ」て呟いたことのある人?

O,D--- はーい(笑)。

H--- バカ編集者とくれば……

D--- バカデザイナーに……

O--- バカオペレーター!(笑)

H--- ほな,なんで相手をバカって思ったんか,ちょっと体験談を話してみて。

O--- あるとき,ちょっと複雑な体裁の誌面を作る仕事があったんだけど,編集者の作ったレイアウト指定らしき紙と,デザイナーさんが作ったというQuarkのデータが入ってきたわけ。営業の話では,あとはテキストを流し込んで,写真を貼りつけるだけらしい。

H--- よくあるわな。

O--- ところが,指定紙とデータがけっこう食い違ってるんだよね。指定紙をよく見たら,計算を間違ってんの。テキストや画像を指定の間隔で配置していったら,版面が用紙を飛び出しちゃう!(笑)

H--- ほな,デザイナーさんはそれを設計し直してデータ作ったわけやな?

O--- ところがデータでは,ベタ組[注4]なのに行長が文字サイズの整数倍になってないし,揃えるはずのオブジェクトが微妙にずれまくってる。

D--- よくある,フリーハンドで配置したってやつね。で,どうしたの?

O--- 営業を通して編集者に聞いたら,「じゃ,適当に直して下さい」って。「流し込むだけ」の前提で見積書を出してるのに。でも余分に請求できない。

D--- 変なデータが来たときって,修正したほうが早いか一から作り直したほうが早いか悩むでしょ。

O--- そう,そのときはデータを見てデザイナーさんの意図を汲み取ったうえで,結局自分で設計し直して,一からデータ作っちゃった。あとで,別件でそのデザイナーさんが来たとき,その話をしたら,「私は流し込むための完璧なデータを作ったつもりはなくて,ただ誌面設計の指定をしただけです。指定紙に書くよりデータを渡したほうが便利でしょ」だって。

H--- 使われへんデータやったら指定紙のほうが絶対ええって。

O--- そう。指定紙は意図を書くものだよね。しかも簡潔に。データってのは何がしたいのかを汲み取らないといけない。スタイルシートも使ってなくて,意図が見えない。組版関係の設定とか,全部の設定値を調べないといけないんだよね。すっげー時間の無駄!

D--- 変な設定してないかとかチェックしないと危険だもんね。

(次号につづく)

[注1]ルビは,縦組なら右側に付けるのが普通だが,学術書などで左右にルビを振る組版もある。例えば漢語の右に読み(音読み),左に和語で意味を組む場合。

[注2]アラビア語は右から左への横書き。単語程度ならまだしも,アラビア語の部分で改行が発生すると,対応ソフトでない限り非常に厄介である。

[注3]縦組の書籍で巻末に横組の付録を載せる場合,文章の流れとは逆向きにノンブルを振ることになる。

[注4]文字間に空けや詰めの設定を施さない組み方。

組み放談バックナンバーへ

2003/10/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会