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活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(2)─フォント千夜一夜物語(35)

いままで印刷用書体は活字、活字書体、写植文字、写植書体などと呼ばれてきたが、い まやデジタル化されデジタル書体と呼ばれている。つまり「電子文字=電字」である。

しかしデジタル書体といっても、デジタル用に創作したものは少ない。現在主流になっ ているアウトラインフォントの多くは、当初活字書体や写植書体などをデジタル化したも のである。

●印刷と書体
印刷用書体は、近代活字から写植文字としての歴史をもつ「印刷書体」と、その文字を どのように組むかという「組み方ルール」と「文字処理システム」がベースになっている。

したがって、これらの要素を無視して印刷書体を開発することはできないし、たとえ開 発したとしても、それはレタリング(ディスプレイ書体)の域をでないものであろう。印刷に使われる文字は、活字時代から長年の歴史を経て今日にいたっている。現在では フォントという言葉で代表されているが、印刷の世界で文字といえば、長年の間金属製の 「活字」を意味していた。

写植が登場してからは「文字」のことをいう場合、「写植文字」という言い方と「活字」 とは使い分けられていた。しかし従来「活字」といえば活版印刷用の文字をイメージして いたが、いまでは「活字」の意味は「文字」の意味を指している。

写植文字や活字は「アナログフォント」ということになるが、フォントはアナログでも デジタルでも、印刷メカニズムとの関係があるため、文字処理システムとの関わりが深い。 戦後(1945年以降)に多様な書体が誕生したが、印刷用では主に写植メーカーの写研/ モリサワによる写植書体であって、活字書体では大きな変化はない。

その理由は種字や母型制作に、膨大な時間とエネルギー、そしてコストを必要としたか らであるが、最も大きな理由は活版印刷の衰退が挙げられる。現代の手法でも1書体開発 するのに数千万円〜1億円もかかるといわれているが、この開発という内容には二通りあ る。

一つは新書体を創作する、つまり原字(文字版下)をデザインすることから始まり、そ の原字をデジタル化する意味と、もう一つは既存のアナログ原字からデジタル化するとい う開発の意味がある。

文字処理システムがデジタル時代になってその対応を急ぐあまり、書体開発という創作 行為よりも、既存のアナログ書体からデジタル化への移植が進んだわけである。

しかし写植/電算写植が盛んな時代は、写植メーカーによるアナログ書体のデジタル化 と共に、新書体開発の活動は続けられていた。これが今日の礎になっているわけである。 この発展の軌跡を「基本書体の戦後史」として、これから逐次解説していきたいと思う。

また近年、新進のタイプデザイナーが創作行為に意欲的で、フォント開発を積極的に活 動するようになり、ここ10数年の間に新書体の開発が盛んになっている傾向がある。

しかし書体数は多数登場しているが玉石混淆の感は免れない。新しいセンスの本文書体 やディスプレイ書体はそれほど多くない。つまり口でいうほど簡単ではなく、それほど難 しいといえるのであろう。「言うは易し行い難し」である。

本文用書体の特徴は、「空気や水のように、存在を意識させないこと」といわれてきた。 この「空気とか水のように」という抽象的な表現が判然としないが、あえて解釈するなら ば「制作者の強い個性を表に出さない配慮が必要」とでもいえる。

しかしこの概念を破るような新書体が登場した。それが1969年に発表された「タイポス」 という書体である(つづく)。

フォント千夜一夜物語

印刷100年の変革

DTP玉手箱

2003/10/18 00:00:00


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