*-*-*-* プロフィール *-*-*-*
Ｈ氏 出版社勤務の若手編集者。編集歴10年。Ｏ氏の会社にたびたび出張校正に行っていた縁で，Ｏ氏とは飲み友達である。Ｏ氏の会社には全幅の信頼を置いている。Ｏ氏 若手だが中堅印刷会社で組版の実質的責任者を務めるオペレーター。同じ60年代生まれということもあってＨ氏とは飲み友達であるが，Ｈ氏の仕事は厄介なものが多く，いつもエラい目にあっている。
Ｈ--- 話は変わるんやけど，組版代ってやっぱし難易度とかによって違うやろ？
Ｏ--- そりゃそうだよ。
Ｈ--- そんで，同じくらいの難易度でもお客さんによって単価がちゃうことはあるん？
Ｏ--- あぅ…，それは答えづらいな。営業的なことだけど，違うこともあるよ。とにかく低コストに抑えたいお客さんだとこちらもちょっと無理をしたり。
Ｈ--- で，聞きたいんは，安い仕事で手ぇ抜くかどうかやねん。
Ｏ--- そんなの言えるわけねーじゃん！
Ｈ--- ほとんど言うてるようなモンやな。そうやったんか〜，はっは〜ん（ニヤリ）。
Ｏ--- 言っとくけど，手は抜かねーよ。
Ｈ--- ほなナニ抜くのん？
Ｏ--- そうじゃなくて！ ウチの場合，新組みでは基準の品質があって，安い仕事でもそれより品質を下げないんだよ。
Ｈ--- 「新組みでは」っちゅーのは？
Ｏ--- 近ごろ多いのがWORDの原稿をそのまんま印刷してくれってやつで，例えば半角片仮名が使ってあろうが，音引きがマイナスになっていようが，仕事の条件によってはそのままGOするワケ。
Ｈ--- うっわー，そんなんアリ？
Ｏ--- そうしないとやっていけないよ。いろんなお仕事があるってことを理解して欲しいね。まあそんな印刷物にはウチの名前を入れて欲しくないけど。
Ｈ--- で，Ｏ氏んとこで新しく組み直す場合はそういうのは無いわけやな？
Ｏ--- 記号の使い方とかは，たとえ支給テキストが目茶苦茶でも，キレイにしちゃうよ。半自動化してるからそう大変な手間でも無いんだけどね。例えばダブルクオーテーションが受けも起こしも「'」になってる原稿が多いけど，こういうのは必ず直す。それから，全角の「平方メートル」記号が使ってあっても，横組なら「m」と上付きの「2」に置き換えちゃうとか。安い仕事でもね。
Ｈ--- テキスト以外では？
Ｏ--- 指定が無かった場合の組版ルールや書体は，制作物の性格に合わせて最適なものを選んでる。これは別に手間と関係ないからね。
Ｈ--- で，一定の品質ラインがあるとして，それ以上はお客さんによってちゃうわけ？ 初校出しのときにどこまでやるん？
Ｏ--- それを聞かれるとなあ。まあ一番大事なのは顧客満足なんで，２回目以降のお客さんの場合は，いままで何にこだわったかを考えて組んでるけど。
Ｈ--- お客さんによってこだわるトコがちゃうもんなあ。で，ひつこいようやけど，組版単価によって仕事ぶりがちゃうんかどうか。
Ｏ--- そういうことも無いではないね。ウチの場合，作業をある程度自動化してるのでオペレーターによらずまあまあの品質が確保できてるつもりなんだけど，手作業で詰めや空けを入れると少し体裁が良くなる場合もあるよね。あと詰め組みで，自動の詰めはどうしてもバランスが悪いので，手で直したりするんだけど。そういうのをやるかどうかは，単価や納期を考慮して決めることもあるよ。営業はいい顔しないけど（笑）。
Ｈ--- なるほど。
Ｏ--- 大きいのは，お客さんからいただいた図版や写真のデータを直すかどうかだよね。「そのまま使って」と言われても，あんまりかっこ悪い場合は，歪んだ線を真っ直ぐに直したり，お客さんがスキャンした写真のホコリをちょちょいと消したり。でもあまり安い仕事でそんなことやってると，とても割に合わないからね。
Ｈ--- 組版はビシッと決まってんのに，貼り込んだ図版や写真がヘボヘボな本をよう見るけど，お客さんが作ったデータをそのまんま使うからやな。
Ｏ--- ほかにも，間違いと思われるような箇所に疑問出しを入れるかどうか。オペレーターは本来，指示通りに組んで指示通りに直すのが仕事だけど，たまたま見つけた間違いを疑問出しの形で指摘することもある。こういうのも仕事の条件によっては気付かなかったふりをするね。編集者の責任だし。
Ｈ--- お客さんがどれほどのモンかっちゅーのはゲラをやり取りしてるうちに分かるんやろな。
Ｏ--- もちろん。それに場合によっては罠を仕掛けることもあるよ。つまりほんのちょっとした組版の不具合をわざと残しておいて，校正で気付くかどうかを見るワケ。
Ｈ--- ぬわにっ！ そんなことしとんかいっ。ワシら試されとるの？
Ｏ--- 相手をよく知ることがいい仕事につながるからね。
Ｈ--- かなんな，もう！
2003/11/28 00:00:00