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これからのMISで見逃せないポイント

いま話題のJDFが持つ機能の大きな特長は、生産設備をコントロールするコンピュータとMIS(Management Information System)と間の双方向の情報流通を可能にすることである。そして、その機能を使って限りなく無人に近い自動生産、つまりCIM(Computer Integrated Manufacturing)を実現しようというのが印刷業界のひとつのビジョンである。 (参考:トピック技術セミナー
この自動化は、個々の機械設備がボタンひとつで自動的に動くということではなく、MISと生産設備との連動による自動化であること、製品仕様が決まれば生産計画の設定から生産計画に基づく機械の運転までも自動的に行うこと、そして、そのような自動化であるがゆえに限りなく無人に近い自動化が可能になるということを十分に理解すべきものである。(注:自動化の範囲は、DTP作業以降が一般的であろう)
それでは、上記のような特徴を持つCIMにおける自動化とはどのようなことなのだろうか?

印刷物生産における情報の流れは、受注時の製品仕様入力から始まる。製品仕様とは、品種、部数、サイズなど、顧客がどのような印刷物を要望しているかの内容である。したがって、その情報は顧客名や納期とともに受注データとして入力されることになる。 製品仕様が明確になれば、それに基づいて手順計画(工程手順、使用設備、面付け等の物の作り方)を設定することができる。例えば、A4サイズ、32ぺージ、フルカラーで中綴じ、5000部のカタログを作る場合に、どのような工程、機械を使って印刷物を作るかについて、各社ともその標準があるはずである。
この手順計画が決まると、次に工数計画をもとに中日程計画を作ることになる。中日程計画では、受注品一点別に、納品納期と入稿日および校正出し日など、顧客との折衝で決まる日程を元に各工程の作業日程(作業開始日時と終了日時)を作る。ここでは、その作業が予定される日時前後に既に割り振られている他の仕事を見ながら生産効率を最大化する計画を作ることが求められる。中日程計画は各工程の小日程計画(1日〜3日程度の作業計画)とともに作られる。

このような生産計画は従来から行われていることだが、CIMを目指す生産システムでは、少なくともシミュレーションレベルまでは手順計画、日程計画も自動で行い、最終確認、決定は工程管理の担当者が行うような仕組みが想定される。手順計画、日程計画の全てをベテランの工程管理担当者に頼りきる形でのCIMはありえない。つまり、製品仕様が入力されれば、手順計画、日程計画の案(中日程計画、小日程計画)までを自動的に生成するMISにすることが、ひとつの大きなポイントである。

上記の手順計画から日程計画までの結果として、「何を」、「いつ」、「誰が(どの設備で)」、「どのように」作るかが明らかにされ、その内容は従来であれば「作業指示書」に書き表されて各現場に配布されていた。しかし、JDFを使った仕組みで、この伝票が「Job ticket」という電子データとして生成され、それが通信回線を通じて直接担当者のPCや生産設備のコンピュータに送られる点が従来と大きく異なるところである。コンピュータtoコンピュータでの情報流通である。
「Job ticket」が従来の伝票と異なるもうひとつの点は、作業指示に関わる情報だけではなく、生産設備のコントロールに使われる情報も含むことである。たとえば、印刷機のインキコントロールに必要な版面の画像面積比データは、プリプレスでの面付け作業等の終了後に作られるファイルデータの一部として、Job ticketと関係付けられる。したがって、いわゆるプリセットができる生産設備については、Job ticketがその設備のコンピュータに送られれば自動的に各部分を調整することができる。さらに、手作業でのマテハンを伴わない設備の場合には、全く人手を介すことなく自動調整、自動運転で生産を完了することも可能になる。

一般産業におけるFA工場は、以上のような仕組みによって限りなく無人に近い自動生産を可能にしている。ベテランの工務担当者が、製品仕様情報をPC上で見ながらねじり鉢巻で頭をひねりながら日程計画を作るようなことはしていない。進捗状況も、各機械の横にある端末で作業者が入力したり作業伝票のバーコードを読み取るのではなく、生産機械から直接信号を取って工程管理のアプリケーションにそのデータを送って、中日程計画、小日程計画作成に生かされる。同時に、このデータは人手を介すことなく原価計算のアプリケーションで処理され、さらにこの原価計算の結果は、販売管理データなどとともにより上位の経営判断のための資料作成に有効活用される。

このように、生産管理に必要な情報と生産設備の運転に必要な情報が、通信ネットワークを通じて各管理機能を果たすコンピュータあるいは生産設備を制御するコンピュータとの間を縦横に流通することによって、限りなく無人に近い自動化を実現するのがCIMである。 図はその概念を示したものだが、図のどの部分間でも極力人の介在を排除するのがCIMである。

現在、印刷業界において紹介されている対応製品・システムがカバーする範囲は、
1. いわゆるPDFワークフローにおける、プリフライトからCTP出力までの自動処理
2. 印刷と後加工機の調整部分に必要な一部データの流通
3. 稼動状況や原価に関わる一部情報の生産設備からMISへの流通
といったところである。
全体から見てごくごく一部に過ぎず、目指すCIMの実現とはほど遠い状況にある。 しかし、それが問題だということではない。図のJDF以下の生産各工程における自動化の仕掛け、生産設備は各メーカーがドルッパ2004を皮切りに次々と出してくることは間違いない。問題は、印刷会社各社のMISが、それらを効果的に使えるようなものになっていくか否かという点にある。

日本の印刷業界全体を見渡してみれば、大多数の印刷会社の経営管理へのコンピュータ利用では、販売管理、工程管理、見積もり、原価管理等の各アプリケーション間でのデータ流通がブツ切れになっている。したがって、せっかく原価に関する情報が生産設備から自動的に採られても、原価計算に利用するためには改めて人が介在しなければならなくなる。経営管理の各機能が統合化されたシステムを運用していても、日程計画などは相変わらずベテランの工務担当者が四苦八苦しながら作ってその結果を入力するようなケースが大半である。したがって、せっかく進捗状況に関するデータがリアルタイムで上がってきても、それを日程計画のデータとしてそのまま利用することはできない。
もちろん、関係者がPC画面上でリアルタイムに仕事の進度を捉えることができるだけでも、工程管理に有用なことは間違いない。しかし、それだけではCIMの姿にはほど遠い。 今後、日本の印刷会社がCIMを目指していくときに最も大きな障害になるのは、各社のMISであると断言できる。そして、この点についての認識がほとんど無いことが大きな問題である。

もちろん、全ての印刷物の生産がCIMになることはないだろう。各社それぞれの自動化の姿があるのがむしろ当然である。したがって、各社のMISが全て同じ機能範囲を持つ必要もない。しかし、各社なりの姿を描くにしても、上記のような全体像を頭に入れて、自社はどの部分をどの程度まで進めるかを考えるべきである。そうでなければ大きな遠回りや無駄をしたり、逆に競争の中で取り残されることにもなる。
どこまでの自動化を目指すかは別にして、MISに関しては各種管理機能を統合化する、あるいは日程計画のシミュレーションを行えるようにすることは、それ自体としてコストダウン、短納期対応、生産効率向上に有効である。
これからの印刷企業におけるMISの構築では、上記のようなCIMとともにEDIも睨んで、それぞれの段階で投資に見合う効果を出しながら、1歩1歩目標に近づいていく自社なりのロードマップを描いて進めることが非常に重要である。

自動化とは関わりが無いので上記では触れなかったことでMISを考えるときに非常に重要なことがある。それは、機械設備の稼動データを基にして「原価」を自動的に計算することはできるが、そこで計算される数字の意味はどのようなものなのか、また、その数字はどのように使うのか適切なのかについて十分に吟味することである。本件については、(「代表的利益管理方式それぞれの得失」を参照願いたい。

2003/11/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会